寮への階段を降っていくレディーの足どりはいつもよりも軽かった。
マルフォイが意外にも優しい人だったということを初めて知ったレディーは、とても嬉しそうに部屋のドアを開けた。ツンとした匂いが部屋からもれる。
「ただいまオルガ、凄い匂いよ窓開いてるの?」
オルガはマニキュアを塗っていたのか、爪に息を吹き掛けた後に言った。
「開いてなかった?大変、開けないとルームメイト達が匂いで死ぬわ」
部屋がマニュキアくさい。よくルームメイトは文句も言わずによく寝ていられるものだ。
「パンジーの香水よりも強烈」
「ほんとね。レディー、居残りしてきたわりには機嫌がいいのね」
オルガは窓を開け、今度はペディキュアを塗り出した。レディーは教科書を自分の荷物に置き、隣に脚を組んで座った。
置いてあった赤色のマニキュアを取り、自分の爪に塗る。
「嬉しそう?」
「えぇ、なんかとっても嬉しそう、マルフォイと何かあった?」
「な、なにもないわよ!!」
ニヤニヤしながら言ってくるオルガに否定をする。先ほどまでのことを思い出し挙動不振になってしまうレディーにオルガは「あったのね」とレディーには聞こえない声で呟いた。
「ねぇねぇレディー、何があったの?」
「何もないっていったら嘘になるけど」
「じゃあ教えてよ!告白でもされた?」
「されてないわよ!マルフォイは意外と優しいってことを今日知った!それだけよ、おやすみオルガ」
「何よそれ!ちょっとぉ!」
オルガが布団を揺すっても整った息しか聞こえない、レディーはもう寝ていた。
「寝るの早すぎ」
あまりにも寝るのが早いので呆れたが、「疲れたのね」と微笑しながら電気を消し、マニキュアをかたづけてオルガも睡眠に入った。
‐‐‐‐‐‐‐
「レディー!起きて!!」
「…なによオルガ、まだ早いわよ」
まだ朝の5時で、空は暗さをのこしているなかオルガに起こされ、若干怒りながら言った。
それでも焦る彼女を前にして、様子がおかしいと気付くまでそう時間はかからなかった。
「起きてよレディー!!アルワが大変なのよ!!」
「アルワが?」
アルワとはスリザリンながらマグル出身の一歳下の女の子で、レディーとオルガが可愛いがっている子である。毎月二人が大好きなマグルのファッション雑誌をくれる優しい女の子だった。
適当に掛けておいたローブを羽織り、談話室へ向かう。まだ肌寒い今の季節にルームウェアのみはキツイ。
オルガの後を追いかけると、談話室には一人で泣いているアルワがいた。肩を震えさせ床に崩れ落ちている。
「アルワ!」
「レディーさんにオルガさん…」
「一体何があったの?」
レディーはアルワの肩に優しく手を置いて問いた。涙を拭いてと言い、タオルを出そうと思ったが急に部屋から飛び出したものだから何も持っていない。オルガは生徒が談話室に忘れていったティッシュを見つけアルワに差し出した。
渡されたティッシュで涙を拭うと、消え入りそうな声で「なんでもないんです」と呟いた。
「じゃあこれはなに?」
オルガは近くに落ちていた教科書を広い上げた、教科書は切り裂かれ、死ねなどとも書かれている。思わず細めて見てしまった教科書はとても無惨だ。
「そ・・・それは・・・」
よほど怖い目にあったのだろう、アルワはガタガタと震えている。
「オルガ、ちょっとそれ見せて」
「ん」
オルガから手渡されたそれをまじまじと見つめたあと、アルワへと目線を替えた。
教科書を持つ手に自然に力が入る。
「アルワ、いつから?」
「え……?」
「いつからやられていたの?」
おどおどするアルワにオルガは「お願いだから言って」と優しく言った。
「言えません…」
アルワはまた涙を流した、レディーはしゃがみ込み、持っていた教科書を床におき、アルワを優しく抱きしめた。
「アルワ、ホグワーツにいる間ずっとこのままでもいいの?」
「嫌です…」
「誰か言ってくれるわね?」
「・・・」
アルワとてもは小さい声で言ったレディーとオルガには充分聞き取れる声だった。
思わずため息をついて肩を落とす。
「あいつか、まぁ予想は出来てたけど懲りないわよね」
「でも、どうするのよレディー、証拠がないわ」
「なければ見つけるのよ」
「それもそうね」
視線をまたアルワへ戻し、目の赤みの取れていない彼女に微笑した。
「アルワ、私たちが絶対にどうにかしてあげるからね」
「は…はいっ!!!」
アルワは涙をこぼしながらも笑顔を向けた、それを確認したレディーとオルガは同時に杖を振った。
すると教科書などのボロボロになっていたものは、すべて新品同様のものとなった。
「これでよしっ、じゃあアルワ、私たちは部屋へ戻るわ。何かあったらすぐに言うのよ」
「ありがとうございます…」
じゃあねと言い、手をヒラヒラと振った。アルワも控えめに振り返し、教科書を抱きしめていた。
---
二人でゆっくりと部屋に戻る。まだ寝ている生徒が多い時間だ。少しでも大きな音を立てたら何を言われるかわかったものではない。
レディーは気になっていたことをオルガに話した。
「それにしてもオルガはどうしてアルワがあそこで泣いてるってわかったの?」
「だってトイレに行こうとしたら談話室から啜り泣く声がしたんだもの」
「じゃあなんでアルワはこんな朝早くからあそこにいたの?」
「アルワはいつも早起きよ、いつもペットの猫に餌をあげてるわ、レディーは寝坊してばっかりだから知らないだろうけど」
レディーはケラケラ笑うオルガの隣でやりきれないモヤモヤとする気持ちを抑えていた。
部屋へ着くと真っ先にオルガが口を開いた。
「それにしても、犯人がパンジー・パーキンソンだったとはね」
「確かアルワの好きな人って…」
「「ドラコ・マルフォイ」」
レディーは苦笑いをする。毎日マルフォイが溶けるくらいのラブビームを送っているパンジーならやりかねない。というより、以前このようなことが他の女子生徒でもあったのだ。
「なんてわかりやすい理由なのかしら」
確かに私やオルガは、マルフォイと話すたびに嫌がらせを受けてきた。私たちにとっては退屈な日々を面白くする材料に過ぎないが、他の女子生徒は違うだろう。
だがこんなにも酷い嫌がらせは初めてだったので、レディーの中のモヤモヤはますます広がっていった。
ハァとため息を着いた二人は疲れたのか、もう朝なのにも関わらず二度寝をしはじめた。
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‐らしくない‐
二度寝をすると夢にマルフォイが出てきた。
ホグワーツに来てから毎日見ている“さよならレディー”と言ってくる夢ではない夢は、初めてのことだった。しかし彼は笑っていなかった。レディーに話しかける夢の中のマルフォイは、真剣な顔でゆっくりと伝えてきたのだ。
「気をつけろ、エジワール」
(一体どういう意味なの)
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