▼ 捻じ曲がっていた
"想えばもう すれ違っていたの 世界──"
「時雨様っ、時雨様っ!」
丁が亡くなって早、数千年。
人間からしたら気が遠くなるような時間だが、不老不死の人魚にとってこの年月はさほど長くない。
昔と変わらず湖に住み着いている時雨に木霊が訪ねて来た。
『どうかした?』
問うと木霊は「実はですね!」と飛び跳ねて、嬉しそうに話し始めた。
「地獄の閻魔大王様が「時雨様に舞を今度の祭りで披露してほしい」と言伝を頼まれたんです。時雨様の舞を見れるのは何千年振りでしょう!?」
喜々と話す木霊を横目に『あの人がねぇ…』と呟いた。
「お知り合いなんですか?」
コテンと首を傾げる木霊に『まあね』と返す
『此処に来る前、地獄とゆうか、黄泉で過ごしていたときがあって、その時に知り合ったんだ。』
「へぇ〜そうなんですか」
ほうほうと頷き納得し「あっ」と思い出したように掌を拳でポンと叩いた。
「では、鬼灯様ともお知り合いだったりするんですか?」
木霊から出た聞き慣れない名前に疑問符が浮かぶ。
『ほおずき?知らないな。有名な人なのか?』
時雨は長く生きているため、多くの名前を知っているが鬼灯と言う名の人物は知らない。
「鬼神の方ですよ。あの世が黄泉から地獄に変わって少しで閻魔大王様の補佐についたとか。もう鬼灯様無しじゃ地獄は成り立ちません!」
「素晴らしいお方ですよ!」と熱弁する木霊に笑みが浮かぶ。
『へぇ、あのイザナミ様を納めるなんて、さぞかし立派な方なんだな。一目会ってみたいものだ。』
「それでしたら、今回の祭りのも参加なさるようですし会えるかもしれませんよ。何でも、時雨様に舞を踊ってもらいたいと推薦したのは鬼灯様みたいですよ。」
『え、推薦?』
「やっぱりお知り合いなんじゃないですか?」
『なのかなぁ…』
"鬼灯"
聞き覚えのない名前に悩まされる。
時雨は自分の記憶力を疑った。
ねじ曲がる事実。少しの違和感。
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