碌舞


 数日後――。名前は八仙に呼ばれ、西王母の元まで来ていた。傍らには、使役の切が大人しく黙っていた。名前はそれにとりあえず安堵している。西王母の傍らに立っている白豪の表情は硬いままで、警戒心を解こうとはしなかった。

『西王母様……私に、何ようで御座いましょうか?』
「名前様…その、ですね」
『西王母様、そのように私に様など付けてはなりませぬ。…私は忌み嫌われる存在です故』
「しかしっ」
『どうぞ、お聞き入れ下さいませ』

 名前は静かに頭を垂れれば、西王母は困った表情のまま小さく頷いた。切は腕を組んだまま柱に寄りかかれば、名前はそれを見て小さく苦笑した。

『礼儀の知らぬもので、申し訳ありません』
「いえ、よいのです。一葉の馬鹿などに比べれば…」
『そうで御座いますか』

 ふわり、と名前が微笑めば、西王母は少し頬を赤く染めた。そしてやや顔を俯かせて何度か口を開閉させた後、決心したように顔をあげた。その表情を読み取った名前は、肩を落とし静かに瞳を伏せた。

「名前………貴女の仙籍を剥奪致します」
「!!? ふざけているのかっ」
『切、止めなさい。……西王母様、それは、八仙御一同の願いで御座いますか?』

 責めるわけでもなく柔らかな口調で訊ねれば、西王母はただ頷いた。名前はそれにただ自嘲気味に微笑んで、椅子へと背を預けた。

「申し訳、ありません…」
『貴女が謝ることではないでしょう? 全ては、あの女の所為で御座います。私の失態は、あの女にもっと警戒心を強めておればよかったということです』
「いいえ、名前様…貴女様だけの責任では御座いません。あのような者に心を奪われた八仙一同もまた、哀れなので御座います」
『…慈悲深い、貴女様らしい御言葉ですね』
「…私は、貴女になにもしてあげられませんでしたから」
『いいえ、貴女は十分私を護って下さいました。本当に感謝しきれないくらいに…』

 名前はそういってそっと西王母の手をとって優しく彼女の手を撫でた。

「それは、此方の台詞です。幼い私の母親代わりに面倒を見て下さったのは、貴女様ですから」
『…ええ。それも、もう昔の話ですが』

 名前は小さく微笑んだ後、そっと席を立った。そして一度切を一瞥すれば彼は一睨みきかせた後彼女より先に部屋から出る。名前は西王母の前で跪いて、「それでは失礼致します」と深く頭を下げた。そして部屋を出て行く名前の後ろ姿を、西王母は悲痛な眼差しで見ていたのだった。



***



「なぜ、仙籍剥奪を強引にでも却下しなかった」

 長い廊下を歩いていると、前行く切が名前に訊ねた。その声音には怒気が含まれており、名前は苦笑を零すばかりだった。

『今更…こんな抵抗しても意味はないから』
「だがっ」
『切…もういいの。それに八仙に逆らうなど御法度よ? そんなことしたらもっと批判の眼差しを受けるでしょうよ』
「…名前」
『切。これで良かったの。だけど、仙籍剥奪と同時にやっておかなきゃいけないことが増えた』

 くすり、と名前は笑んで空を見上げた。

『私と一緒に、アイツも引きずり降ろしてあげる……地の底まで、ね』

 名前は呟き、颯爽と自分の宮へと帰って行った。その後ろを切は足早に歩く。切は瞳を少し伏せて軽く口角を吊り上げた。

「俺らの、反撃か…」

 ――我らが主を苦しめた事、せいぜいその汚らわしい顔を歪めて泣き喚いて後悔するがいい。



110516



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