[Heroine]
名字名前
霧崎第一高校一年生。帰宅部。
今吉と花宮と同中出身。だが接点はほぼない。
花宮に目をつけられてバスケ部のマネージャーを強制的にさせられている。
一見優等生だが中身は正反対。臆病者だが毒舌家。原達二年生にも容赦ない毒を吐く。
幼馴染の夜久とはよく互いの家を行き来しては愚痴っている。





 名字名前の第一印象は真面目な優等生だ。
 さらりと肩よりも少し長い柔らかいアッシュグレーの髪に、一度もスカートを捲り上げてないきっちりと着こなされた制服姿。休み時間には次の授業の予習か、読書に勤しむ。クラスの評判は良くも悪くもなく普通、教師からの評価は高い。
 だが、しかし。その中身は確かに真面目だが、優等生というにはほぼ遠い性格の主であることを知る人物は少ない。

「名前ちゃーん。部活行きましょーねー」
「うっわ、うぜぇの来たよーみたいな顔はやめようか。ガラスのハートが傷ついちゃうから」
『伸びすぎた前髪と能面面で傷ついているようにはまったく見えませんけど。そもそもガラスのハートなんてものを持ち合わせていたことに私は吃驚ですよ』
「うっひゃー、名前ちゃん厳しーのー」

 さらりと暴言ともいえる毒を吐いた名前は、自身を迎えに図書室に現れた古橋と原を目の前にして大きな嘆息をこぼした。
 先輩相手に容赦ない毒を吐く可愛げの欠片もない後輩を、ほぼ毎日迎えに来る貴方方の精神のどこがガラスのハートだよ、と脳内でごちりながら彼女は読みかけの本を閉じた。嗚呼、いまいいところだったのに。

「ほんっと懲りないよねぇ、お前も。よく毎日毎日部活サボれるもんだ」
『その言葉そっくりそのままお返しします。先輩方も懲りませんよね、放っておけばいい私を迎えに来るの』
「お前がいないと花宮のとばっちり食うのオレ達なんだよ」
『どうぞ存分に味わってください、そして私を巻き込まないでください。そもそも私、バスケ部に所属してないんですからサボってないし行く義務はないです』

 この言葉を繰り返すのも、もう入学してから何度目だろうか。逐一数えているほど暇じゃないが、もうこうなったらギネス記録目指してもいいんじゃないだろうかとさえ名前は思う。
 名前がいま口にした通り、彼女は彼らの所属するバスケットボール部の人間じゃあない。無所属帰宅部の人間だ。だから古橋が口にした「サボる」は大きな間違いである。だが彼らの名前に対する認識は“バスケ部のマネージャー”である。彼女は本当に困ったものだと彼らのリーダーである同中出身の先輩の顔を思い浮かべて深く溜息をついた。

「何言ってんのもー。ほら、オレらの身の危険が迫っているんだから早くいくよー」

 がしっと二の腕が強い力で掴まれたかと思うと、名前はその力に引っ張られて無理矢理立たされる。二の腕を掴んでいた腕はいつの間にか手首へと移動しており、原の反対の手には彼女の荷物が収まっている。「れっつごー」と間延びした声に手を引かれる名前を、すれ違う生徒達が不思議そうに見てくるので彼女ははあ、と溜息をつく。
 名前の隣を颯爽と歩く古橋が「注目の的だな」と呑気な感想を口にするので、『誰のせいですかね』と不満を述べれば「花宮以外に誰がいんの」と至極真っ当な回答に彼女は諦めを悟った。
 花宮真。それが名前の同中出身の先輩の名前であり、彼女を迎えに来る彼らのキャプテンであり、そして苦手な人物の名前である。しかし同中出身ではあるが接点はほぼなく、一方的に名前を知っているだけの相手だったのに、どうしてこうなった。
 なんの因果があってか、東京に戻ることになり受験した霧崎第一高校には花宮がいた。何百校とある高校の中で、再び巡り合うことになってしまったのだ。名前は霧崎第一を選んだ自分を呪いたく思う。霧崎第二か第三にしておけばよかった。

『なんなんすかあの人……』
「なにってお前の先輩でオレらバスケ部のキャプテンじゃん?」
『そういうこと言いたいんじゃないんですよ。あー…転校しようかな』
「なに死にたいの」
『どうしてそう物騒なこと言うんですか古橋先輩』

 身長190に達しそうな少年二人に両脇をガードされるのにはもはや日課になりつつあるなあ、と名前は体育館の入口が見えてきたところでぼんやりと思っていた。
 ドリブルの音と部員達の掛け声に憂鬱な表情になりながら足を踏み入れた名前は、不機嫌丸出しの苦手な視線を受けてげっそりとする。なぜ毎日毎日こんな視線を受け入れなければいけないのか、いや、それよりそろそろ諦めて懲りてもいい頃じゃないのか。

『おはよーございまーす』
「なにがおはようございますだ、舐めてんのか、ああ?」

 嫌悪感丸出しの花宮を無視して名前は原から鞄を受け取ると、ブレザーを脱いで鞄の中から薄紫のパーカーを取り出して羽織った。

『業界用語使っただけじゃないですか。なに頭に血ぃ昇らせてんですかその良すぎる頭はジョークの一端もわかんないんですか?』
「おいてめぇ、死にてぇのか? 死にてぇんだな?」
『どうしてこうバスケ部の皆さんは私を殺したいんですかね。私自身、自虐心は持ち合わせていないですけど』

 やだやだ、これだからバスケ部嫌い。と呟いて名前はベンチに置かれたタオルを慣れた手つきで畳んでいく。ぴきりと青筋を浮かべた花宮は「お前の仕事はそれじゃねーよ!」と怒鳴ると、「あっちだろうがバァカ」とびっとドリンク作ってこいと親指を体育館の外へと向ける。

『あー……了解しました。んじゃお疲れ様でしたー』
「ちょっと待て誰が帰れつったよオイ」
『えー、先輩いま帰っていいって言わなかったですか?』
「言ってねぇよ! ドリンク作って来いっつったんだ!」
『わかりました。んじゃドリンク作ったら帰りますね』
「お前いまオレの話聞いてたのか」
『スルースキル発動させてましたすいません』
「ふざけんな死ね!!」

 そんな罵倒を背に浴びながら重い足取りで体育館の外へ向かう名前に、花宮はちっと一つ舌打ちをすればけらけらと隣にいた瀬戸が笑う。「嫌われてるねぇ花宮」

「ああ? オレだけじゃねーだろ」
「少なくともお前よりは嫌われてねー気がするよ。俺優しいし」
「自分で言ってんじゃねえよ」
「つーかさー、今日のドリンクなに入れてくると思う?」

 いつの間にか二人の側に来ていた古橋と原と山崎が会話に混ざってくる。

「オレそろそろ重曹でも入れられるんじゃないかって思う」
「昨日はレモンティーの粉一人三杯突っ込まれてたよな」
「その前は大匙一杯の味噌だろ……、ゲロマズかった」
「本格的に嫌われて死人出す前になんとかしなきゃいけないんじゃないのこれ?」

 下手すればサンポールでも突っ込まれそうだし、と原が苦い笑みを浮かべれば笑えない冗談だなと古橋が返した。

「ふはっ! 放っておけばいいさ。あいつは死人作るほど肝座ってねーよ」
「そりゃさあ、花宮はドリンクに悪戯されたことないからいいだろうけど…」
「つかなんで花宮嫌ってるくせにオレらに嫌がらせなのさ?」
「んなの簡単だろ。俺が怖いから嫌いでも俺には何もしてこない。ただそれだけだ」
「怖いっつってもさあ…、いつもはあんなに減らず口叩いてんのに?」

 山崎のおかしくね?と訝しがるそれに、花宮はくっと喉を鳴らした。

「口だけ達者な臆病者なんだよ、あいつは」





魔法使いの日常
(ブッフォオオ…! ちょ、いったい何入れたのコレ!?)
(原先輩ガムばかり噛んでるのでたまには飴でもいいかなと黒飴を)
(ぐっふ…オレのはなんだ!?)
(山崎先輩は短気で糖分足りてないと思ったのでココアをチョイスしましたよ)

2015/06/01

花宮後輩が日常的被害を被っている@



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