ひたすら文章

中途半端な書き綴りたち。いずれなにかに使うかも。


Sep
6th



 眠い…と欠伸を噛み殺した委員会の最中、#ナマエ#はふと借り物を返し忘れたことに気がついてうわぁと若干気を落とした。クラスメイトから先週借りたDVDを昨日返しそびれ、今日こそはと思っていた矢先、放課後は月一の定例会が入っていたことがすっかり頭から抜けていたことに付随して報告のまとめと慌ただしすぎて、いまのいま思い出してしまった。
 仕方ない、部活先にまで顔を出しに行って返すしかないかと思案して、そういえばと思い出したように三年の座る席側へと視線を向けた。報告書に目を落とす彼は、確かクラスメイトと同じ部活でキャプテンを務めていたはずだ。名前は…なんと言っただろうか。もう一人のクラスメイトは「キャプテン」と呼んでいるから名前を聞いたことはない。図々しいが彼に頼んで返してもらおうかなとも思った#ナマエ#だったが、思うだけで実行することはできないことは重々承知していた。
「他、質問や疑問点がなければ終わりにするぞー」と担任もとい委員会顧問の声がかかり誰も口を開くことはなく「なにもないみたいだから解散なー、お疲れさん」「お疲れ様でしたー」と各々が挨拶を口にして席を立つ。

月に二回、風紀委員の服装検査というものが朝八時過ぎの登校時間に行われる。




Aug
26th



 人通りの少ない路地にひっそり佇む、隠れ家めいた喫茶店・アザレア。芳醇なコーヒーの香りがたちこめる店内は、クラシカルな内装に北欧風のインテリアで温かみのある空間がつくられ、ほどよいジャズの音色がゆったりとした時間の流れをつくっていた。
 そのカウンターの内側にはいつも若い男女の姿があるが、今日は届いたばかりの珈琲豆を保存瓶に移す作業を行う少女の姿のみがあった。休日の昼間だというのに客の姿は珍しくどこにも見当たらない。

 ちりん、ちりん――。

 来客を告げるベルの音に、#ナマエ#の手が止まり視線は入口へと向けられた。

『いらっしゃい、祥吾』

 来客者への挨拶は意味をなさないことを知りつつも、#ナマエ#は彼に営業スマイルをむける。ジーパンのポケットに両手を突っ込んだまま、ずかずかと入ってきた長身の灰色の髪の少年はまっすぐと彼女の元にやってくると、ぼすっ、と何かが入っているビニール袋をカウンターへと置く。そして飲みかけの珈琲が入ったマグを手に取って口つける彼を諭すわけでもなく、#ナマエ#はビニール袋へと視線を向けた。『これは?』

「……てめぇにやる」
『日本語通じてないー…』

 苦笑を浮かべてがさりとビニール袋の中を覗けば、お高いチョコレート菓子が複数入っていたことに一瞬目を瞠る。そして少年と袋の中身を交互に見やれば、盛大な舌打ちをしてそっぽを向いた彼に#ナマエ#は声をたてて笑う。

『ありがとね、祥吾』
「うっせ」
『それ、今日届いたばっかのコロンビア産の豆なんだけど、どう? 美味しい? それともいつもの淹れる?』
「……新品だせや」
『よかった。じゃあ準備するからちょっと待っててね』

 威圧的な凶悪面の彼――灰崎祥吾の不遜な態度にも顔色一つ変えずに対応する少女、というのは傍から見たら異様な光景かもしれない。だが出会った当初の手の施しようもないクソガキだった。一年前までは素行は非常に悪く、髪型もコーンロウだった「THE 不良少年」は、人相はそう変わらないものの髪を短く切り揃え、言動は少し柔らかくなり暴力沙汰も控えるようになったのだから、あの頃に比べればずいぶんと大人しくなったものだと#ナマエ#は懐かしく思い忍び笑いを浮かべる。

『祥吾、今日ご飯食べていく?』
「………」
『お兄ちゃんがね、今日のご飯は唐揚げにしようかって言ってたんだけど』
「食ってく」



Aug
25th

「におぉおお―――――――――――!!!!!」


 元気のいい声は廊下中に、いやこれ上の階にも下の階にも響いているような…職員室に届いていたらどうしよ。っていつものことか。放任主義者教諭の多い学校だし問題ないけど、流石にそんなに大声で自分の名前を呼ばれたら恥ずかしいったらありゃしない。
 ちょうど図書室から出てきたばかりの私を見つけてぶんぶんと手を振って駆け寄ってくる(廊下は走っちゃいけないんだけどな…)、クラスメイトの姿に苦笑いを浮かべて後ろ手で図書室の扉を閉めた。パタパタと駆け寄ってきたクラスメイトは鼻息荒く目の前で立ち止まった。その身長差は実に34センチもあるので、見上げる私の首はその内やってくるであろう痛みにいまはまだ気づかない。

「廊下走ったり大声出したりしたらだめだよー、早川くん」
「ん、ごめんっ! 次から気をつけ(る)!」

 そしてこの早口とラ行が言えないという可愛さである。隣の席の早川くんは何を言っているかわからないほど大声で早口だけど、私からしたらちょっときゃんきゃん騒ぐくらいの人懐こい大型犬にしか見えない。いまだって耳と尻尾が見える不思議を他校の友人に言ったら「ちょ、眼科行ったほうがいいよ」と言われるに違いないが。

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