ひたすら文章

中途半端な書き綴りたち。いずれなにかに使うかも。


Sep
25th

『いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?』


 にこり。といつも通りの接客の笑みを張りつけて注文を伺えば、割と常連客な青年は珍しい注文を口にした。

「アーモンドトフィートリプルチョコレートフラペチーノ、トールサイズをお願いします」
『(――ん?)はい。アーモンドトフィートリプルチョコレートフラペチーノトールサイズをお一つですね』

 不思議に思いながらも注文を繰り返してお会計への流れへと続けば、彼の後ろにいた同僚である爽やかな男性(彼も常連客で、確か名前はタザキさん)が「今日はコーヒーじゃないのか」と珍しげに尋ねた。
 そう、そうだ。いつもならドリップコーヒーのトールサイズとサンドイッチを頼むのに、今日に限ってフラペチーノとは一体どんな心変わりだろうか。

「実はさあ、最近イイ感じの女の子にスタボの最新作美味しいんで是非飲んで感想聞かせてください!って言われちゃってさ〜。頼まれたら飲むしかないだろ」
「女の子のことになると身体張ってるな…」

 若干呆れ気味のタザキさんに同感とばかりに内心で大きく頷く。本当にこの人達ときたら店に来るたび女の話で盛り上がっているんだから…。まあ、二人とも顔は上の上、性格はどうあれ飛びつく女は山ほどいるでしょうし、より取り見取りなんだから結構な遊び人なんだろう。

 お会計を済ませて受け取り口への案内をした後、同僚男性の注文も同じように済ませる。



Sep
25th

私がこの世界について知っていることは、二つ。


 
 ここが、私の住んでいた世界とは違う世界であるということ。
 そしてここは、私が良く知る漫画の世界であるということ。


 そのことに#ミョウジ##ナマエ#が気づいたのは、この世界に転生トリップというものをしてから実に十二年程の月日が流れてからだ。遅すぎるだろ自分!というツッコミを入れつつも既にこの世界に溶け込み馴染んでしまっていた為に、全てを思い出したときにはちょうど反抗期が差し迫る頃だったが、如何せん中身は成人を終えて大人の仲間入りを果たし社会に出ていた身なので狂気に陥ることもなく――もう一度学生生活やり直せるぜヒャッハー!と狂喜乱舞はしたが――その後色々なことに巻き込まれつつも#ナマエ#は楽しく生きていた。
 ただその二度目の人生の中の一度目の悲劇は中学二年の終わり――まだ肌寒さを残しながら春を迎えようとしていた時に、彼女の此方での両親が不慮の事故により他界したことだった。
 全てを思い出しても大切な家族に変わりなかった人達を失くした悲しみに暮れる日々はそう長くは続かず、すぐに叔父夫婦の元に引き取られることが決定し明るい叔父夫婦と気遣いのできる従兄弟に支えられ以前と変わりない日々を送るようになった。一つ変わったといえば叔父夫婦が両親に、従兄弟が兄に変わったことくらいだろう。
 中学を無事に卒業し、その後梟谷学園高校へと進学した#ナマエ#は男子バレーボール部のマネージャーとして過ごしている。兄の衛輔には「マネージャーやるなら音駒にくればよかったのに」といまでも散々いびられるが、「音駒も梟谷学園グループに含まれているんだから練習試合や合宿で嫌でも顔合わせられるでしょう」と窘めるのは毎度のことだ。

「#ナマエ#、部活遅れるぞ」
『ああ、ごめん京治くん。いま行く』

 クラスメイトの掛け声に#ナマエ#は慌ててエナメルのスポーツバッグを手にしてその背を追った。まさかあと数分後――とんだ巻き込まれ事故に遭うとも知らずに。
 かちゃり。と携帯のストラップが音を立てて揺れた。

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Sep
12th



 ほんの少しだけ薄暗い北欧調の店内に備えつけられたソファやテーブルに腰かける者はなく、物言わぬ雑貨小物たちはただ定位置に収まっている。そんなあたたかく落ち着いてほっと寛げるような空間は、時間を気にせずゆっくりできる雰囲気が漂う。
 昼過ぎから降り続く雨は深夜まで続くのだと、おは朝のお天気お姉さんの予報は大的中。おかげで店に訪れる客足は遠のき、閉店時間の一時間も前に閉める始末だ。#ナマエ#は一つ溜息をこぼしながら、店の扉の看板をOPENからCLOSEへと変える為に玄関先へと向かう。そしてドアノブを回した瞬間、その扉が押してもないのに急に向こうに持っていかれてバランスを崩しそうになり咄嗟に手を離す。その向こうのドアノブを引っ張った相手も、見開いて驚いている様子だった。

「…びっくりした」
『それ、こっちの台詞なんですが…まぁ、いらっしゃい』
「……とりあえず、中入らせてもらっていいか?」

 閉じた傘を手に、降り続く雨に肩を濡らす青年に#ナマエ#は大きく頷いた。

『ああ、うん。ついでに看板クローズにしてもらっていい?』
「なんだ、閉めるのか」
『見てのとおりの現状ですからね。でも気にしないでいいよ、ゆっくりしていって』

 訪れた友人を快く中へと招き入れ、#ナマエ#は木目のブラインドを下ろす作業に取り掛かる。青年は彼女に言われた通り看板をクローズにすると黒傘を傘立てに立てかけ、特等席であるカウンターへと移動し上着を脱いで隣席の背凭れへと掛けた。#ナマエ#はキッチン側へと移動しながら彼へ『なに飲む?』と尋ねれば間髪入れずに「ホットコーヒー」と分かり切った返事が返ってくる。

『今日は早番?』お湯を沸かし準備の為に手を動かしながらも#ナマエ#は青年へと話しかける。
「ああ。そんで明日休み」
『良かったねー。あ、そういえば一昨日早川くん来たよ』
「本人から聞いた。お土産も貰ったしな」
『え。食べた?』
「まあ、食ったけど。…なんだその質問?」
『いや…ちょっと味に自信なかったから。どうだったかなーと思って』
「…ふつーに美味かったけど」
『けど?』
「…美味かった」
『なんかごめん。次はもっとマシなの作るから。お腹は減ってない?なんか口にする?』

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