箱庭遊戯(前) | ナノ




#臨静、サイ津前提で臨静、サイ静、臨津、サイ津、津静描写有



 ぱちり。広い部屋に相応しいキングサイズのベッドの上で、静雄は深い眠りから覚醒した。周囲に人の気配はなく、穏やかな空気があたりを包んでいる。何度か瞬いてしばらくぼんやり天井とにらめっこをしていたが、自分が今までここで誰と何をしていたのか、その事実を思い出してひとり顔を赤らめ、布団に顔を埋めた。
 そう、昨夜は恋人の折原臨也に呼ばれて一緒に酒を飲んでいて、酔った勢いでそのまま事に及んでしまったのだ、道理で全身が悲鳴をあげているわけである。少し布団を持ち上げて中を覗くと、何も身につけていない肢体に点々と赤い痕が残されているのがわかった。じわじわと込み上げてくる羞恥心に耐えきれず周辺をきょろきょろと見回してみるが、行為の前に脱いだはずのバーテン服は見当たらない。しかしいつまでもこんな格好でいるわけにもいかないだろう。
 今臨也は家を空けているようだが、帰ってくるのもきっと時間の問題だ。適当に服を見繕ってこっそり出て行こう。ああ、でもその前にシャワーも浴びたい。いろいろなもので身体がべっとりとしていて気持ち悪いし、そういえば腹も減った。冷蔵庫の中になら少しは何か食べるものがあるはずだ。……待てよ、臨也がいなくともあの秘書は仕事をしているかもしれない。このまま出て行くのは危険だろうか? いや、自分たちの関係はあの女にもとっくにバレているし……とにかくこうして考えていても仕方がない。ここは思いきって覚悟を決めるべきだ。
 しかし、重く気だるい腰に眉を寄せながらもしぶしぶと静雄が上体を起こしたその瞬間、目の前のドアがキイ、と小さく音を立てて開いた。びくっと身体を強張らせた静雄だったが、ドアを開けた主の正体に気づくとともに安堵の溜息を洩らす。

「……シズちゃん?」
「ああ、なんだ……サイケか。びっくりさせんなよ……」

 臨也とそっくりの、しかしどこか幼い雰囲気を漂わせる、ヘッドホンに白いコートという妙な組み合わせの格好をしたこの人物はサイケデリックと名づけられ、静雄も弟のようにかわいがっている存在だ。しかしサイケはあくまで臨也のパソコンの住人であり、臨也や静雄のように実在する人間というわけではない。たまにこうしてパソコンの外に出てきてしまうことがあるだけで、サイケの存在を知る者は臨也と静雄、それに秘書の波江、あとはサイケと同様にパソコンの中に住む、これはまた静雄そっくりの、

「……あれ、津軽はどうした?」
「つがるはね、まだねてるんだよー。ね、シズちゃん」
「ん?」
「どうしておようふくきてないの?」

 いつの間にかいまだベッドから動けずにいる自分の上に乗っかり、至近距離から純粋な瞳でこちらを見つめていたサイケに、静雄は思わず固まった。いくら別人だと認識していてもやはり顔のつくりは臨也とまったく同じなわけで、それに反応してしまう情けない自分がいるわけで。僅かに熱をもちはじめた下半身を無視し、静雄はやんわりとサイケの身体を押し戻す。厄介なことになる前にこの状況を何とかして打開しなければ。
 しかしサイケはそんな静雄に気づいてか気づかないでか、ますますぐいぐいと接近を試みる。静雄の顔も徐々に赤らんでいき、もう隠し通すことができない。唇の隙間から洩れる己の吐息が色を帯びていることに若干ショックを受けつつも、静雄は抵抗をやめるわけにはいかなかった。そうしてしばらく攻防戦を続けていた二人だったが、ふとサイケの動きが止まり、ああ、ようやく諦めたか、静雄が気を緩めた一瞬の隙を突いて、サイケは静雄の身体を難なくシーツに縫いつけてきた。

「っ、サイケ、やめ……んんっ!」
「だってシズちゃんがかわいかったから……ごめんね?」

 息を荒げ興奮した様子でちゅっちゅっと唇を愛らしく啄ばんでくるサイケに、もちろん静雄は抗った。だが、サイケはサイケだ。臨也ではない。いつものように力いっぱい抵抗すれば傷つけ、壊してしまうかもしれない。それが怖くてうまく抗うことができず、そうしているうちにどんどん流されてしまう。最初は嫌がっていたはずなのに、今ではそれを普通に受け入れている自分を心底いやらしく思いつつも、静雄はサイケのキスに応えた。
 どれくらい口づけを交わしていただろう。胸元に違和感を覚えそちらにすっと視線を向けた静雄は、突起を捏ねくり回すサイケの指に慌てて身体を突き放した。ぷは、と透明な糸を引きながら名残惜しく剥がされた唇に不服そうな顔をしたサイケだったが、そんなことで諦めるはずもなく。右側をぐりぐりと指で押し潰しながら左側にぱくりと食いつき、舌でちろちろと刺激しはじめる。左右同時に与えられる快感に当然頭は追いつかず、くたりとシーツの波に身体を沈ませておとなしく静雄は喘ぎだした。

「あ、っ、ふぅ……」
「シズちゃんのちくび、つがるとおんなじピンクいろだね」
「や、ばかぁ……いっちゃ、やだ……!」
「そんなかわいいこえだされたらもっといじめたくなっちゃうよ?」
「ひ……っ、あ、いざやぁ……」
「……あーあ、なんでそこでいざやくんの名前呼ぶかなぁ……」

 サイケは臨也と違い、とても純粋な生き物なのだと静雄は信じていた。この瞬間までは。瞳の先に映るサイケの表情、それはまるで悪魔のようにひどく歪みきっていて、思わず息をすることすら忘れてしまうほどに胸を詰まらせる。逃げなければならないと訴えてくる本能に従おうとするも身体がいうことをきかず、静雄は指を動かすことすら侭ならない状態だった。
 満足そうに怯えた様子の静雄を見下し、サイケはおもむろにヘッドホンから伸びたピンク色のコードを片手で握って至極楽しそうに微笑む。執拗に乳首をいじられるままの静雄は切なそうに吐息を洩らすだけで、サイケがこれから何をしようとしているのかなど想像する余裕もない。だが、にやり、その笑みが濃くなると、背筋にぞっと悪寒が走るのをひしひしと実感した。

「ねえシズちゃん、えっちしてるときに他の男の人の名前呼んだらダメだって、いざやくんに教えてもらわなかったの?」
「サイケ、もうやめろよ、こんなっ……」
「おれの質問には答えてくれないんだあ……ふーん……」

 どこか遠くを見るような目で、何か納得したようにこくりと頷き、それからサイケは今までに見たこともないようなうれしそうな顔で笑う。子供が見せるような無邪気なそれは、しかし静雄にとって恐怖の対象でしかない。もう一度にっこりと笑い、びくびくと身体を震わせる静雄の上に跨っていたサイケは、騒ぎ出さないうちにと下半身を隠していた布団を剥ぎ取り、緩く勃ち上がった性器に目を向け裏筋を人差し指ですっとなぞった。直接与えられる刺激に静雄の身体は大きく反応し、ひっ、と甲高い声が上がる。慌てて口を塞ぐも、すでに聞かれてしまったのだろう、声を上げて笑うサイケが視界に広がる。臨也以外の前でこんな醜態を晒してしまうだなんて。感じてしまう自分が憎らしくてたまらないのに、もっと触ってほしいと思いはじめている正直な自分もいる。最悪だ。だが自己嫌悪に陥る静雄をサイケはより陰湿な方法で責め立てる。握っていたヘッドホンのコードで静雄の勃起したペニスをきつく縛りだしたのだ。

「な……っ、なにして……!」
「んー? シズちゃんがいけない子だからお仕置きするんだよ?」
「だめっ、サイケ、いた……ぁ……っ」
「いざやくんがね、シズちゃんは痛くすると悦ぶヘンタイだって言ってたんだあ。だからほんとはこういうのも気持ちいいんだよね?」

 長いコードをぐるぐると巻き終え、脱力しきった静雄の足を大きく開かせると、サイケは容赦なくアナルに己の指を一本挿入した。ぐちゅり、簡単にそれを飲み込んでしまった淫らな身体に耐えられず、静雄は思わず涙をこぼす。ろくな抵抗もできずに、恋人以外の他人を、それがたとえ指の一本だとしても受け入れてしまったという事実があまりにつらくて。悲しそうにしゃくり上げる静雄を横目で見つつ、それでもサイケは中で動かしているそれを抜こうとはしない。むしろ本数を増やし、傷つく静雄など知ったことではないといったふうにぐちゃぐちゃと腸壁を抉った。
 ただひたすら泣いていた静雄だったが、やはり快感を無視することはできない。臨也に散々教え込まれた肉体は本人の意思とは無関係に疼き出し、肥大した性器も欲を吐き出したそうに脈打っている。せめて、せめてこのコードさえほどいてもらえたら。訴えかけるように涙で濡れた瞳で見つめてくる静雄に、サイケは思わずごくりと喉を鳴らした。

「サイケぇ、これ……ほどいてっ、……!」
「えー……ダメだよ、そしたらシズちゃんひとりでイっちゃうでしょ? おれ全然気持ちよくなれないじゃん」
「そん、な……あ、どうすれば、っ、あん!」
「うーん、そうだな……あ! ほどいてあげるかわりに、シズちゃんの中におれのおちんちん入れさせてよ」
「っ!? だめ、それは、それだけはだめぇ……!」
「アハハ! そんなに嫌なの? ……じゃ、入れちゃお」

 残酷な言葉が吐かれ、静雄の顔色が一瞬にしてさっと青ざめる。だめだ。そんなことを許すわけにはいかない。許してはならない。それなのに、身体が、動かない。ごそごそと昂った性器を取り出すサイケに、静雄はどうしていいかわからなくなる。何としても阻止しなくてはならないのに、早く終わらせてほしいとも思う。蠢いていた指がずぷりと引き抜かれ、入口にぴとりと宛がわれるそれは見慣れた臨也のものとは違うのに、いやだ、やめてと泣き叫ぶことしかできない自分があまりに無力で、臨也以外の誰かが侵入してくるのが怖くて、ぎゅっと目を瞑って。

「ちょっと、なに人のもんに手出してんの?」
「い、ざ……っ……?」
「……あれ、思ったより早かったねえ……いざやくん」

 開け放ったドアの前に佇み、不機嫌なオーラを醸し出している恋人に静雄はごくりと息を呑む。その視線は明らかに乱れきった自分に向けられていて、唇からは聞こえないだけでありとあらゆる罵詈雑言が発せられているような気がして。言い訳する気にもなれず、ただふいと顔を背けることしかできない。その態度がますます気に入らないのか、つかつかとこちらへ歩み寄ってくる臨也に目を向けつつ、サイケはぺろりと舌なめずりをし、そうして無常にも静雄に宛がったペニスを一気に奥まで挿入した。
 声にならない悲痛な叫び。恋人の目の前で違う男、それも恋人に瓜二つの男に犯されて、喘いでいる自分のなんと愚かなことか。静雄は必死に手で口を塞いで声を抑えたが、それはすぐにサイケによって振り払われ、シーツの上に押しつけられる。臨也が冷めた視線でこちらを見つめているのがわかる。それも当然だろうとは思った。嫌だ、こんなの。もうやめてくれ。もはや静雄は抵抗することを諦め、この行為が早く終わってくれることをひたすらに望むだけだった。

「っ、シズちゃんの中、柔らかくてきもちいね……きゅって締めつけてくるよ……」
「ひあ、ア、ああんっ、や、いやぁ……っ、んあ……!」
「ね、いざやくん、今どんな気分? ねえねえ!」
「うるさいな……いいから一回抜け」
「え……ちょっ、なにするの!」

 冷静にサイケの腕を掴んで静雄の身体から引き剥がし、臨也はふうと溜息をつく。中途半端な状態で抜かれたため、すでに理性を失いつつある静雄が物欲しそうな目で見上げてきたが、それを無視してあらためてサイケの方に向き直った。こんなことになった元凶である当の本人は不服そうにぷうっと頬を膨らませ、なにかぶつぶつと文句を垂れている。……こんな子供に本気で嫉妬するなんて自分も相当余裕がないようだ、などと心の片隅で思いながらも、とりあえず頭に拳骨を一発くらわせた。

「いったぁーい! いざやくんのバカ! 暴力反対!」
「黙れ。これで許してやるんだから俺に感謝しなよ。まったく…ちょっと目を離した隙にこれだ。お前には津軽がいるだろ」
「つがる今寝てるし……」
「だったら寝込みでも襲えばいいじゃない。言っとくけどこいつは俺のだからね」
「そんなのわかってるよ……イタズラしてみたかっただけだもん」
「……はあ……もういい、そこどいて」
「やだ」
「……サイケ」
「おれ、まだイってないもん」
「オナニーでもしてろよ」
「やだー!」
「……俺と同じ顔して駄々捏ねないでくれる? 心底吐き気がするよ……早くどけ」
「ぶー……あっ! ねえいざやくん、おれと、いざやくんと、シズちゃんの三人で楽しめばいいんだよ、ね! そうすればみんな気持ちよくなれるよ」

 楽しそうに息を弾ませながら、さり気なく強烈なことを言ってのける己の分身に半ば呆れ返っていた臨也だったが、実際自分にそこまでの余裕がないことも確かで。淫らに誘う恋人の姿を目の前にして我慢ができるほどよくできた人間ではない。布を押し上げて主張している自身をちらりと見やり、それから無邪気な笑みを湛えるサイケ、すでに限界の近い静雄を交互に見て、臨也は諦めたように溜息を吐きベッドの上に体重をかけた。
 期待に満ちた瞳で、だがしかしどこか怯えたようにびくびくとこちらを見上げる静雄とは、何時間か前まで身体を重ねていたというのに、こんなにも下半身が疼いて仕方ない。そっと頬を撫でるときゅっと目を瞑り、唇から甘い吐息を洩らす。ああ、今すぐに犯して啼かせてやりたい。臨也はかちゃかちゃとバックルを外し、勃起したペニスを静雄のアナルに宛がうと一気に貫いた。

「いっ……あ、ああ! や、いざやぁっ……!」
「……なあに、痛いのシズちゃん? でもこれお仕置きだから」
「ふぁっ、ごめ……ごめんなさ……あ、あっ」
「そんなにすぐに許したらお仕置きにならないでしょ? ここに俺以外のちんこ突っ込まれて喘ぐなんてさあ……ほんと、いやらしいよね」
「ねえ、いざやくん! おれも突っ込みたいよ!」
「何だよ……そんなに突っ込みたいんなら口にでも突っ込んであげれば?」
「やだやだ! シズちゃんのお尻がいい!」

 じたばたと暴れるサイケを無視し、臨也はぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら静雄を犯すことに夢中になっている。しばらく駄々を捏ねているも一向に相手にされず、二人は完全に快楽に呑まれてしまったようだ。さて、どうやってこちらに気を引かせるか。サイケは必死に頭を使って考え、不意に何か思いついたようにぱあっと顔を輝かせると、ぷっくり熟れた静雄の乳首に自らの性器を激しく擦りつけた。臨也しか目に映っていなかった静雄は突然の刺激に思わず悲鳴を上げる。

「やぁっ! あ、サイケ、やめっ……ふ……」
「シズちゃんの乳首、ほんとにえっちだよね……」
「あ、……はう、ん……っ……も、無理……! イっちゃ……!」
「こんなにコードぐるぐる巻かれてたらイけないと思うけどねえ?」
「いざやくん、それほどいちゃダメだよ!」
「わかってるって。……でもまあ、そろそろシズちゃんもつらいかな? かわいそうに……こんなに泣いちゃって」

 双方からの快感に涙を溜めながら歯を食い縛って耐える静雄に、臨也もサイケもますます興奮して動きを速める。静雄はといえば、先ほどからうわ言のように、もうだめ、イかせてと繰り返しているにもかかわらず、解放される気配がまるでない。コードできゅうきゅうと締めつけられたペニスは先走りを垂らし、まるで本当に泣いているかのようにさえ見える。そんな光景をさすがに不憫に思い、臨也は律動を続けたままコードに指を引っ掛け、静雄の耳元で甘く囁いた。

「イかせてほしかったらおねだりできるよね?」
「う、あっ……? おねだ、り……って、ん、んっ」
「そう。いつもみたいにかわいく……ちゃんとサイケにも聞こえるようにさ」
「シズちゃんがちゃんとおねだりできたらほどいてあげてもいいよ?」
「ほら、……ね」

 ねっとりと耳の内側に舌を這わせ、耳朶を甘噛みすると静雄の身体がびくんびくんと過剰に反応する。その間にもサイケが乳首をこりこりと性器で押し潰し、頭の中は真っ白に等しい状態であった。どうにかなってしまいそう、だ。何を言っている、理性などとっくにどこかへ消えてなくなってしまっているのだ、もうどうにでもなってしまえばいい。そんな悪魔の饒舌な誘惑に抗うことなどできるはずもなく。静雄は唇を開き、途切れ途切れに、だがしっかりと言葉を選んで発した。

「おれのせーし、いっぱい出させてくださ……ぁ、おねがい、します……っ」
「……いいよ、いっぱい出しな」









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