箱庭遊戯(後) | ナノ




 臨也がにんまりと満足そうに笑うと同時に、サイケは束縛していたコードをしゅるしゅると巻き取った。ようやく解放された安堵感で静雄のペニスからはどろどろとした精液が大量に吐き出され、臨也は体内に、サイケは顔に、それぞれ同じように射精する。べとべとに汚された恋人の肢体を見下ろし、さらに興奮する自身を恨めしくも思いながら、次はサイケに邪魔されないよう場所を移して、などと考えを巡らせる臨也だったが、その厄介者がまたしてもしつこく静雄に覆いかぶさり唇に吸いついているのを目の当たりにして思いきり舌を打つ。

「ん、んぅ、や……っふ、ぅ……」
「シズちゃん、次はおれとえっちしよ? ね?」
「いい加減にしろ」
「わっ! もう、なんなのさっきから……嫉妬はよくないよ、いざやくん」
「これは俺のなんだよ。お前は手出すな」
「えー……でもさあ、つまんない……」
「……サイケ?」
「……! つがるっ!」

 ドアの隙間からおそるおそるこちらを覗くのは、静雄そっくりの、白と青が基調の着物に身を包んだ青年だった。小さな声でサイケの名前を呼び、その姿を確認してほっと安心するも、ベッドの上で泣き腫らした静雄を見つけるなり驚いた様子で駆け寄ってくる。飛びついてくるサイケすら無視して一直線に臨也に向かい、青年、津軽はぐいぐいと彼の腕を引っ張る。何事かと首を傾げる臨也だったが、やがて納得した。
 サイケが臨也のコピーならば津軽は静雄のコピーである。前者は互いを忌み嫌うことが日常であったが、後者はまるで支えあうかのように寄り添って生きていた。津軽は静雄を兄のように慕い、そんな津軽を静雄は弟のようにかわいがり。それがまた臨也とサイケにはたまらなく耽美的に見えていたのだが、そういうことか。臨也に泣かされている静雄を放っておけなくて、助けようと間に入ったと。
 それにしてもかわいらしい。恋人と同じ姿をしているだけあって、臨也もまた津軽に対し、性的興奮を抱いていた。静雄のかわりに今ここで津軽を泣かせてやってもそれはそれでおもしろいかもしれないが。ふと視線を後ろにやると、何やら不機嫌そうなサイケがこちらを睨みつけている。ああ、アレがいい。臨也は津軽の腕を掴むと、おもむろにサイケの方へと向き直った。

「サイケ。津軽がうるさいからお仕置きしておいて」
「いざや、はなしてっ……、サイケ……?」
「……いいよ。……つがる、ちょっとこっちにおいで」
「だめ、しずお、ないてる……いざや、しずおにいじわる、やめて……」
「……つがる……いつからそんなに悪い子になっちゃったの? ねえ?」

 臨也から津軽を受け取ると、ベッドから少し離れた床の上に乱暴に身体を押し倒し、感情の読めない顔でサイケは笑う。衝撃で着物の袷が乱れて白い肌が覗き、ついこの間セックスをしたときにつけられた紅い痕が姿を現した。普段は壊れ物を扱うかのように自分にやさしいサイケがどこか怖くて、津軽は目を瞑って肌を手で隠そうとしたが、それもすぐに振り払われ、ぱしん、乾いた音が響く。一瞬何をされたのかわからず、津軽は瞑っていた目をそっと開くと、叩かれた頬を押さえて泣きそうな瞳でサイケを見つめた。

「サ、イケ……いたい、」
「叩いたんだから痛いのは当たり前でしょ」
「なんでっ……ふ……ぅ……」
「泣いてる顔もかわいいね、つがるは」

 叩かれたことがよほどショックだったのか、火がついたように泣き出す津軽を無視して、サイケの手は着物を脱がせていく。陶器のように滑らかな肌に吸いつき、片手はごそごそと下半身を探って、反応しはじめている性器を握る。いまだに慣れない感覚に戸惑うように足をばたばたと暴れさせる津軽は幼い子供のようで、余計にサイケの嗜虐心を煽った。そんなことにも気づかず、ぐずぐずといつまでも泣き止まない津軽の頬を再びばしばしと二度叩き、尖った乳首をきゅっと摘んでサイケは冷たい声で囁く。

「痛いのに気持ちよくなっちゃってるやらしいつがる……おれにお尻向けられるよね?」
「ふぇっ、あ……ぅ、や……サイケ……」
「早くこっちにケツ向けて犯してくださいっておねだりしろよ」
「ひっ……!」
「……ああ、ごめんね? ついうっかり……つがるが早くしてくれないとおれもなにしちゃうかわかんないからさあ……」

 にこにこ微笑みながら悪魔のような一言を放つサイケにただならぬ恐怖を覚え、よろよろと上体を起こすと、津軽はおとなしくサイケの方へ尻を向けるように四つん這いの体勢をとった。そのままじゃかわいいお尻が見えないよ、と背後で茶化すサイケに着物を捲し上げ、びくびくと震えながら相手の反応を待つ。自分で穴まで広げさせようかとも思ったが、さすがにそこまでしてしまったら津軽に嫌われてしまうかもしれない。
 何とか思い留まったところで昂ぶった性器を取り出し、慣らす間もなく突き立てる。静雄のそこと比べるとだいぶ窮屈ではあったが、抜き挿しを繰り返して徐々にほぐしながらもきつく締めつけてくる肉を抉っていく。ほっそりとした腰を掴んで激しい律動を続ければ、津軽の上半身は耐え切れずに崩れ落ち、ぐちゃぐちゃになった着物に涙が染み込む。かわいそうに。サイケはそう思いつつも津軽をひたすらに犯す。ただ乱暴に、己の欲望をぶつけるだけの行為。しかしそれもまた、ひとつの愛のかたちではあった。

「あっ、ん、あ、ああっ、ひぃ……」
「つがる、つがるっ……好き……」
「ふ、あ……ぁ、おれも、サイケ、すきっ……すきぃ……!」
「かわいいよ、つがる……おれの、おれだけのつがる……」
「…………なにあれ、ムカつく」

 繋がって愛を囁きあう自分たちそっくりの人形たちをつまらなさそうに見やり、臨也はぼそりと呟いた。てっきりサイケにひどいことをされて壊れる津軽が見れるだろうと思っていたのに。腹が立つ。悔しい。かわりに今自分が壊しにいってやろうか。考えてふと、繋がったままの結合部に目をやる。静雄はいまだにぐったりとしていて動かない。意識を失っているのだろうか、ぺちぺちと頬を叩くと僅かに唸ってゆっくりと瞳を開いた。昨夜からの疲れがとれないまま、先ほどまでセックスに溺れていたのだ、それも自分以外の相手と。肉体的にも、精神的にも相当参ってしまっているに違いない。…だからといって見逃してやるほど臨也はやさしくはなかったが。

「おはよう、シズちゃん」
「いざや……? あっ、やぁ、まだ中に入って……!」
「だって、終わってないのにシズちゃんが勝手に意識飛ばしたりするからさあ」
「っ……それ、は……あ、津軽は、津軽はどうした?」
「なに、シズちゃんもあいつのこと大好きだね? 同じ顔してるくせに……嫌だなあ、もしかして俺に隠れて津軽とセックスとかしたの?」
「ち、がっ……!」
「……でも、してみたいとは思ってるんでしょ? シズちゃんってば淫乱だもんねえ」

 言葉だけで追い詰めるように責めれば静雄はぐっと呑み込み、すぐに何も言い返せなくなってしまう。ただでさえ頭が弱いのにこんな状況で臨也に勝てるはずもなく、赤くなった顔をふいと逸らして静雄は黙り込む。そんな恋人の愛らしい様子にくすりと笑みをこぼす臨也だったが、ふとおもしろいことを思いつき、挿入されたままだったペニスを中からぐちゅりと引き抜いた。とろとろ溢れてくる白濁を一瞥したあと、次は何をされるのかと怯えた目でこちらを窺う静雄の頭を軽く撫で、臨也はゆっくりとベッドから足を下ろすとそのままサイケの方へ歩みを進めた。気配に気づいて見上げるサイケの瞳は邪魔をするなと明らかに物語っていたが、笑顔でそれを無視して津軽の正面に移動する。這いつくばって快感に耐えていた津軽はやっとのことで顔を上げ、そうしてにやにやといやらしく笑う臨也を視界に入れた。

「はぁ……っ、何の用? シズちゃんで遊んでたんじゃなかったの?」
「お前ばっかりさあ、都合がよすぎると思うんだよね。……シズちゃんと遊ばせてやったかわりにちょっと津軽で遊ばせてよ」
「ダメだよ! つがるはおれのなんだから!」
「いいじゃない、別に。何もケツに突っ込もうってわけじゃないんだからさ。津軽、お口あーんして?」
「それでもダメ! つがるにいざやくんの汚いそれを咥えさせるなんて……許せない……」
「津軽? ほうら、お口開けてよ。俺のちんこ舐めるの……できるでしょ?」
「んあ……あ、っふ……ん……」
「……そう、いい子いい子」

 同じく快楽に呑まれ思考が覚束ない津軽は臨也に従って口を開き、目の前に突き出された性器にしゃぶりついた。津軽の行動に衝撃を受けたサイケではあったが、それを制止する余裕すらなく、激しく腰を打ちつけ、津軽の絶頂を促すことに専念する。臨也はといえば津軽の拙い舌の動きにすら興奮していたのだが、すぐにでも射精してしまいそうになる衝動を堪え、ベッドにひとり横たわったままの静雄を見やる。自分以外の相手が恋人のペニスを咥えている光景がつらいのだろう、目が合うと視線を逸らして耐えるような素振りを見せた。
 本当に、どうしてこんなにも壊したくてたまらなくなるのだろう。自分がこう感じているのだ、どうせサイケだって、津軽のことを壊してしまいたいに決まっている。それでもそうしないのはほんの少しの価値観の差なのだろうか。そんなことはどうだっていいのだけれど。髪を鷲掴み、喉奥まで捩じ込んで苦しそうに咽ている津軽のその表情ですら、臨也にとっては一種の興奮材料に過ぎないのだ。

「津軽……も、いいよ……」
「ふぁっ……?」
「おれも、もう、出ちゃうっ……」
「あっ、ああ、ひあんっ、サイケ、いざやぁ……っ!」

 顔面に臨也の濃い精液を、体内にサイケのやや薄まった精液を吐き出され、己も腹部に熱いものを放出し、今度こそ津軽は床に突っ伏した。もともと静雄ほど体力のない津軽だ、こんなふうに無茶な行為を要求されたのもはじめてで、すでに限界を迎えているのかもしれない。ずぷり、サイケは性器を抜き取り、倒れて息を荒げている津軽の頬をやさしく撫で、触れるだけのキスを送ると途端にむっと顔を顰めた。

「……最悪。いざやくんの精液の味がつがるにこびりついちゃった」
「それは悪かったね。お前には言われたくないけど」
「あーあ……かわいそうなつがる……」
「……ねえサイケ、おもしろいことやってみない?」
「なに、またつがるになにかするの?」
「うーん……何かされる方でいったら、シズちゃんかなあ」

 何も知らない静雄にいつもの笑みを向ける臨也は、ぐったりとした津軽の腕を無理矢理掴み上げた。慌ててサイケがやめさせようとするも、臨也の方が力が強いせいでそれも敵わない。軽々と津軽の身体を持ち上げると、臨也はそれを静雄の寝そべったベッドの上に転がした。いきなり津軽が乗りかかってきたことにやや驚いた静雄だったが、体勢を立て直してその軽い肢体を支える。そんな寄り添う同じ顔をふたつ見下ろして、臨也は不敵に微笑むばかりだ。

「シズちゃん」
「なんだ……?」
「今からここで津軽とセックスしてよ」
「っ! 何言って……!?」
「ああ、もちろんシズちゃんは突っ込まれる方だからね。そのままさっきみたいに足開いて、津軽はそこに自分のちんこ突っ込むんだよ」
「や、いやだ……そんな……臨也、やだっ……!」
「だーめ。もう決まったことなの。ほら、津軽」

 津軽はというと、臨也の言っている意味がよくわかっていないのだろう、不思議そうに首を傾げてサイケを見上げる。また頭がおかしくなったのか、呆れたように臨也に視線を送っていたサイケだったが、これはきっとおもしろくなるに違いない。津軽の方を向いてにっこりと笑うと、静かに首を縦に振った。逆らわずにおとなしく言うことを聞けという無言の命令なのだろう。
 津軽はびくりと肩を震わせ、それからおずおずと静雄に向き直った。半ば青ざめた表情をしている静雄は首を左右に力なく振り、明らかに拒絶を示している。静雄を泣かせたくはない、けれどサイケにまた痛いことをされて自分が傷つくのも同じくらい嫌だ。どうしようか考えているうちに、後押しをするように臨也がぐいぐいと背中を押してくる。もうだめだ。耐えるようにぎゅっと目を瞑り、静雄の肩に手を置いて、いよいよ津軽は濡れそぼったアナルに自らの性器を押し込んだ。

「ひ、いっ……! や、だめ、つがる、つがるっ……」
「ふあっ……あ、き、つい……」
「あ、ああっ、あ、おねが、もうっ……いやぁ……!」
「しずお、なかないで……しずお……っ」

 どうしたらいいかわからずに無造作に腰を押し進め、不用意に前立腺を突いてくる津軽に、静雄はほろほろと涙をこぼす。自分と同じ顔をした人間に、恋人の前で犯されているという事実。今臨也がどんな顔をしてこちらを見ているかなど考えたくもない。やめさせてほしいのに、むしろそれを率先してやらせているだなんて。あまりにも残酷すぎて。それなのに、それなのにいつもより感じてしまっている自分が一番憎らしい。
 静雄は津軽の首に腕を回し、より快楽を求めようと身体を密着させてくる。着物が擦れるたびに過敏に反応し、つらそうに眉を寄せる静雄に、津軽はやさしく口づけて安心させるよう努めた。そんな二人をおもしろそうに視姦していた臨也もサイケも、己の下半身が熱を帯びはじめたのに気づき、顔を見合わせて笑う。
 津軽と静雄のセックスは見ているものを惹きつける魅力があり、とても淫靡なものであった。最初は触れるだけだったキスもいつの間にか激しさを増していて、今では互いを貪りあう獣のようにも見える。強くしなやかで美しい二匹の獣がじゃれあっている、これ以上にない極上の光景だった。

「なんかさ、こう……二人とも余裕ない感じでそそられない?」
「……いざやくん、最初からこれが目的だったんでしょ」
「まあね。でもいいもんだろ? たまにはこういうのも」
「……つがるもシズちゃんも、かわいすぎて心配になるよ」
「……いっそのこと、首輪でもつけて家で飼おうかなあ……」
「えー、いざやくんばっかりずるい! おれもつがる飼う!」
「もう飼ってるようなもんじゃないの?」

 冷静に会話をしながらも目ではベッドの上で繰り広げられる行為の行方を追っていて、余裕など欠片もありそうにない。だがしかしぐっと己の欲求を堪え、そのまま乱れる二人の様子を見守る作業を続ける。
 津軽の拙い動きがまた静雄を刺激し、奥を突かれるたびに嬌声が洩れ、そんな静雄を攻める津軽もまた、腸壁の締めつけにたまらず喘ぐ。同じ顔をした人間が目の前で、同じ声で啼いている現状に少なからず興奮している彼らを憐れに思いながら、臨也は満足そうに笑みを浮かべた。どんなに心に誓った恋人がいても、ほんの僅かな快楽を与えてやるだけでこんなにも簡単に赤の他人に堕ちてしまう。これだから、人間というものはおもしろくてたまらない。

「つがる、もうっ……だめ、イくから……ぁっ!」
「ん、は……おれも、でちゃ……う……」
「あ、やだ、抜いてぇ……っ」
「ふぅ、っ、しずお、あ、んんっ……!」
「ひあ、や、中はだめ、だめっ……ああああっ!」

 どぴゅ、とやや薄まった精液が静雄の性器から腹の上に吐き出されるとほぼ同時に、挿入されたままの津軽の性器からも同じものが腸内へと放出された。中に熱いそれが注ぎ込まれたことに静雄は一瞬我に返ってびくりと身体を強張らせたが、疲れ果ててくたりとよりかかってくる子供のような津軽に何も言えなくなり、そっと抱きしめる。そのまますぐ傍で一部始終を見届けていた臨也とサイケに目を向けるも、さすがに体力の限界に達したのか、すうっと瞳を閉じて静かに眠りについた。
 そうして小さく寝息を立てながら動かなくなった天使たちを見下ろし、ついに堪えきれなくなった臨也は声を上げて笑う。サイケも何やら自身の昂ぶりを隠し切れないようで、息を荒げながらぴょんぴょんとその場で飛び跳ねた。

「あはは! ……ああ、傑作だよ……いいもの見させてもらったなあ」
「つがる……かわいかった……起きたらまた犯してあげようっと!」
「さて、と……じゃあしっかり録画もしたことだし、もう一回見る?」
「さすがいざやくん、やることが違うね?」
「きっちり音拾ってたお前には言われたくないよ」

 くすくすと楽しそうに笑いながら、自分たちの乱れた服を軽く直して臨也とサイケは、ぱたり、部屋を後にする。抱き合うように眠る彼らに訪れる平穏はほんの一時であり、また次に目を覚ましたときにどんな仕打ちが待ち受けているかなどわかりはしない。それでも天使は悪魔から離れられず、深い底まで溺れていく運命なのだ。どこまでも、どこまでも、永遠に。



箱庭遊戯

(101031)
提出:MSB





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