捧げ物 | ナノ


▼ 女心と春の空 (1/13)

「こんなんで足りるかなぁ……」

今し方受け取ったばかりの領収書を確認しながら、名前が、ぽつりと言った。


夕方だった。
オレたちは薄暗くなりかけた商店街を、自分の影を追うように並んで歩いていた。
傾いた日が、名前の顔を陰らせる。
そのせいで表情は読めなかったが、やけに熱心に見直しているようだった。
歩調に合わせ微かに上下する目線は、ただ一枚の紙切れに独占されたままだ。

人通りの少ない今の時間帯は、客を呼び込む声もなく、顔見知り同士が控えめに話し込んでいる他はこれといって気を引く音もない。
数年前の惨事が過去の話として語られるようになった今となっては、上忍を緊急召集する鳥の鳴く声すら滅多に聞かない。
そのためか、話し相手を失い手持ち無沙汰になったオレには、ビニール袋のこすれ合う音がやけに大きく感じられる。


そんなに肩に力をいれねぇでも……


必死になる名前を見る度、オレはそう思ってしまう。
これはオレの長年の悪癖だった。

一生懸命頑張る奴(サスケ)を見てはよくやるなと人事のように感じ、一生懸命張り合う奴(ナルト)を見ては敵いっこないだろと鼻で笑い、一生懸命目立とうとする奴(キバ)を見てはまたうるさくなったなと視線を逸らす。
“一生懸命”という言葉がつくと、どんな行動も、呑気に生きていたかったオレからすれば「めんどくせぇ」ことに変わりなかった。
だから周りが騒がしい時は静かな場所に避難して、雲でも眺めて。
そんなアカデミー時代を過ごしていた。
そしてそんなオレの隣には、同じような思考の持ち主の名前がいた。

そんな名前が変わり始めたのは下忍になった頃だった。
成り行き上とは言え曲がりなりにも付き合っていたオレたちだったが、その頃のオレは、その意識があまりに低かったために、名前ばかりに負担を強いていた時期があった。
お互いアカデミー生の時は同じ教室にいたから会うのも楽だったが、忍として任務をこなすようになるとそうもいかない。
忙しさにかまけ、会えない日が続くのに歯止めをかけるのは、いつも名前の方だった。
今でこそ夜遅くまで家の前でオレの帰りを待っていた名前を健気だと思うが、当時はその事について特に何も感じなかった。
その後ろめたさが後を引いているのだろう。

一生懸命になっている名前を見ると何もせずにいた自分が浮き彫りになるようで、名前が頑張れば頑張るほどオレの頑張りが帳消しになるようで、落ち着かない。
だから名前には頑張ってほしくねぇと、そう思う。

問題のすり替えなのは百も承知。
要はオレが名前以上に努力すればいいだけの話だ。

だがオレにできる事なんざ高が知れているという事も、頭の片隅で気づいている。
今だって買い物に付き合って荷物持ちに手を貸すのがせいぜいだった。
それでも周囲から見ればそんな事でも大きな進歩らしく、その事で今までの自分が如何に情けなかったか思い知らされる。
そんな時、絶対的に高い壁の存在に圧倒される。
もう何もかもがどうでもよく、「めんどくせぇ」の一言で全てを投げ出したくなりもする。

それでも――オレは、自分に誓ったから。

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