▼ かくれんぼの続き (1/10)
私は忍になるまで、外の世界を知らずに生きてきた。
広大な砂漠の向こうには、どんなに目を凝らして見てもやっぱり砂しかなくて、だから私は自分の里を人類最後の砦のように勘違いしていたのかもしれない。
里の中が世界の全てで、他は無に等しい。
そんな概念すら根付いていたものだから、この里の同世代は「どうして」とか「なんで」とか、そんな疑問の入る余地もないほど当たり前に「友達」だった。
そして下忍昇格前だったその頃の私は、その友達に囲まれて毎日砂埃をあげながら遊びに勤しんでいた。
みんな友達。
ただ一人の例外――我愛羅を除いて。
数年前までは……
手を伸ばせば届く距離に、彼はいた。
物影から遊んでいる私たちをいつも物寂しそうに眺めていた。
しかし私たちは彼に手を差し延べる事はなかった。
それどころか、すがるように伸ばされた手さえ振り払ってきた。
我愛羅は化け物だから――
理由はそれだけで充分だった。
だけどどうだ。
今では彼の方が手の届かない存在。
私たちがあらん限りの力を込めて手を伸ばしたとして、彼に届くにはその距離はあまりにも遠かった。
風影は、遠すぎる存在だ。
笑っちゃうよ、ホント。
昔我愛羅に罵声を浴びせて逃げ回っていた連中が、今は黄色い声をあげて逆に追いかけているんだもの。
笑っちゃうよ、ホント。
周りの子は彼の風影就任を機にそうやって変わる事が出来たのに、私だけその波に取り残されてしまったんだもの。
そう、私は今でも彼を恐れている。
恐怖からではない。
昔自分が彼にしたことの負い目から私は彼と向き合う事を避け続けている。
今更手の平を返したように媚びへつらって何なんだと、糾弾されるのが怖かった。
もちろん誰もから愛されるあの風影様がそんな心の持ち主だとは思っていない。
それに彼が私を覚えていると思う事すら思い上がりもいいところだろう。
それでももしもや万が一を考え始めると、いっそ消えてしまいたいと思うくらいにやるせなさが込み上げてきた。
今では誰もが恋い焦がれるその差し延ばされた手を、だから私は振り払った。
暗部入隊を断った時……
彼の固い表情が、微かに動いた。
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