掌編小説 | ナノ


▼キバ×GPS

「な、お願いだから。このとおり!」

そう言って土下座をし嘆願するのはキバだった。
普段のオレ様態度からは考えられないほどの変わり様に、十班一同が唖然とする。
連携の自主練習を止めてこの稀な状況を理解しようと努めている。
足元を見ればパートナーの赤丸も主人にならって頭を垂れていた。

「べつにオレたちの修業を見てるのは構わないんだけどよ…」

「でもなんでわざわざアスマ先生に?」

「そうよね。何もむさいおっさんに変化しなくても…」

出てくるのは歯切れの悪い言葉ばかり。
しかし三人が訝しがるのも無理はない。
単なるライバルの偵察かと思いきや、キバが申し出たのは“アスマ先生に変化して”の修行見学だった。
「駄目なら修業は見ねェ!」と断言するあたり、本命は明らかに変化の方にある。

「事情くらい話しなさいよ」

「いや、それは…」

「いいから、話しなさい。それくらい義務でしょう?」

八班ではまずありえない事態であろう、女の子に気圧されてキバは重たい口を開いた。
事の始まりは先週の修行でのことだった。
たまには変わったやり方でもしようかと言い出したのは他でもない紅先生だった。
プライベートでいいことでもあったのか、その日はやけに上機嫌だったらしい。

『うちの班は探索に長けているんだし、たまにはこういうのはどう?』

そうして出された課題は、まさかのかくれんぼだった。

かくれんぼ?
ガキじゃあるまいし。

初めはそう思ったキバだったが、これが案外お互いの長所を伸ばすいい修行になった。
キバは赤丸と一緒に嗅覚で、シノは蟲を使い、ヒナタは白眼による探索。
アカデミー以来の懐かしい遊びのおかげか、修行の最中は童心にかえりそれなりに楽しかった。
しかし日が暮れるまで続いた修行の末、その日いちばんの成績不振者はキバだったのだ。

『シノは操れる蟲の規模が桁違いだし、ヒナタは血系限界の持ち主。まあ仕方ないか――』

何気なく言った紅の一言は、キバに火をつけるのに十分だった。
その次の日からだ。
修行や任務が終わってから、半ば強引に誘ってかくれんぼをするのだが、自分はいつもすぐに見つけられる。

「だから変化して隠れるって…」

それはさすがに反則では、と温厚なチョウジまでもが微妙な視線をキバに送る。

「うっせぇな、忍のかくれんぼなんだから、何だってアリアリ何だよッ」

「べつにいいけどさー、何でうちの班?」

「あのとき紅先生が機嫌よかったっていったら、お前らの上司絡みだろ。少しはつき合ってもらわねーと癪だと思うだろ、普通」

「どんな理論だよ、それは」

眉間にしわを寄せたシカマルだったが、キバが何気なく携帯を取り出して時間を確認した時だった、ふいに糸が切れたように笑い出した。

「おいいの、確かあのタイプの携帯ってよ、お前が欲しがってた奴だよな」

「あ、そうね。…え、てことは、まさか」

「そのまさかだろうな」

つられて笑い出すいのに、すべてを理解しそれに続くチョウジと、意味が分からず呆然とするキバ。
何なんだよと毒づくキバの肩に、触れる者があった。

「変化とはせこいな、キバ」

まぎれもなくシノ、後ろには控え目だがヒナタもいる。
時刻を確認すれば最短記録。
それを知ったキバは、盛大にため息をついた。

「あーあ、もう少し遅けりゃ作戦成功だったのによ。もう使えねェじゃねーか」

しかしシカマルは直ぐさまそれを否定する。

「いんや、変化なんかしたところで無意味だな。盲点はそこだ」

シカマルの指差すそこには、キバが握っている携帯が。
種明かしをしてやれと言うシカマルに、シノはさも残念だといった仕草をした。
まるで面白いおもちゃを取られそうな子どものような――しかしヒナタに、そろそろ言ってあげようよと促されると、仕方ないかといった落胆を見せてから、静かにキバに告げた。

「キバ、お前はいかに上手く隠れようと、いかに上手く変化しようと、オレたちから逃れることは出来ない。なぜなら、お前は時間を確認するため常に携帯を持ち歩いているからだ」

「はぁ?何だそりゃ」

頭脳派のシノに比べ頭の弱いキバは頭をひねった。
それを見兼ね、ヒナタが補足説明をする。

「あ、あのね、キバ君。実はキバ君の携帯…GPS機能がついてるの!!」

それを聞いたキバの反応がどうだったかは――言うまでもない。

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