掌編小説 | ナノ


▼第二十夜 「呼ばれる」

そういや、休日にアカデミーへ行ったことがある。
どうやら授業中に筆箱を落としていたようで、家で使おうと思ったら筆記用具が丸ごとなくなっていた。
休み明けに行ってもよかったが…何となく、することもなかったからか、思い出したときにはもう体が動いていた。

特に盗られて困る物もないからか、アカデミーの施錠は雑なものだった。
教室の窓は、いちばん後ろが鍵をかけられていなかったから、オレはそこから忍び込んだ。

そしていつもの席に座る。
足元の筆箱はすぐに見つかった。
用も済んだし帰るか。
そう思って席を立ち上がったときだった。

ふいに外から、名前を呼ばれた。
女の声だったと思う。
よく知る声だった気がしたから、幽霊の類ではないだろうと、恐怖はまったく感じなかった。

だが何で、名前を呼ばれた?
ここに来たのはたまたまで、誰にも伝えていないのに?

窓側に寄ってみたが、こちらを見上げる人は見えない。
ただ、手をかけたその窓枠は、油汚れがついていたのか、やたらすべった。
結局そこだけ掃除してから家に帰ったが、今になって思う。
もしオレがそのままあの窓から外に出ようとしていたら、あそこで足を踏み外して真っ逆さまに落ちていたかもしれない。

――世の中には…知人の声を使って人を惑わせる、そんな怪異もあるのかもな。

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