掌編小説 | ナノ


▼第十夜 「お化け屋敷」

これはそう昔の話じゃないから、記憶している人もいるかもしれないわね。
数年前、夏祭りの余興としてある企画が持ち上がった。
それが忍限定のお化け屋敷――。

忍に限定するだけあって、ただのお化け屋敷とは違ったわ。
幻のみで客を怖がらせるってい触れ込みで、腕に自信のある幻術使いが里中から一気に押し寄せた。
企画段階でそんな騒ぎだから、それが宣伝になってさらに人々の興味をひいて、注目が集まれば集まるほど、開催側も力が入った。

本当なら上忍の助けも欲しかったんでしょうけど、彼らも暇じゃない。
そのせいか当時まだ中忍だった私にも白羽の矢が立った。
正直あまり気乗りはしなかったわ。
けど、同期の頼みでもあったから、結局受けざるを得なかったのよね。

そんな経緯で、バイト感覚で請け負った仕事だったけど、当然客の方も忍だから、下手な幻術だと簡単に突破されてしまう。
前日からかい半分で上忍がよく顔を出したのもあって、その日の私は少しムキになり始めていた。
そして私の担当区画に人が入って来る気配がして、本気で術をかけたときだった。
突然わっと泣き出す声がした。

驚いた私はすぐに術を解いた。
そこにはまだアカデミー生くらいのほんの小さな子供がいた。
下忍になりたての子も入れないよう配慮して、年齢制限もあったから、そんな小さな子がいるはずなんてなかったのに。
それでも現実にはそこに子供がいて、泣きわめいている。

簡易テントだったから、隙間から入り込んだのかもしれない。
そう思って外に連れ出したんだけど、外には私にこの話を持ち掛けた同期のくノ一がいて、まだ時間じゃないのにって、私を見たら急に怒りだすのよね。
だから私も子供がいたからって、その子を前に押し出そうとしたら…。
しっかり手を繋いでいたはずなのに、私の手は何も掴んでいなかった。
後で聞いた話、私が外に出るまでに私を目撃した他の忍の誰もが、口をそろえてこう言うのよ。
紅は一体、なんで右手をあんなに反らして歩いていたんだろう、って。

――あのとき、本当に幻術にかけられていたのは、誰だったのかしらね…。

- 12 -

prev / next


back

[ back to top ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -