掌編小説 | ナノ


▼第八夜 「仏壇のお供え」

実はボクが下忍になったあたりから、ちょっとした不思議なことが起こるようになったんだよね。
っていうのも、お昼ご飯のおにぎりに、具が入ってないんだ。
あの厳しい修行の後の至福のひととき…。
白米の甘さと適度な塩気はもちろん、具のアクセントがあって初めて完璧な携帯食なるっていうのに!

それがあんまり続くようだから、母ちゃんに文句言ったんだよ。
だけど母ちゃんは毎朝ちゃんと入れてるって譲らなくて、その翌日、実際に作ってるとこ覗いてたんだよね。
そしたら母ちゃんが、赤くてすっぱそうな梅干しをおにぎりの上にぽんと置いて、優しい手つきでふわっと握っていたんだ。
今日はようやくまともな食事にありつけるって思ったらボクも嬉しくなった。
もう修行中もそれ考えただけでよだれが出そうなくらい楽しみにしてたんだ。
それなのに、お昼時におにぎりにかぶりついてびっくり。
その日もまた入ってなかったんだ。

これはおかしいぞ…。

いくらボクでも空腹のあまり無意識に食べてたってことはない。
だとすれば、原因は他にあるはずだ。
家に帰って家族に思い当たることはないか尋ねてみたら、父ちゃんがそういえばって言ってこう続けたんだ。

今仏壇にお供え物しているのは、誰だ?

その言葉にボクは慌てて仏壇のある部屋まで走った。
仏壇はここしばらく何も供えていなかったから、うっすら埃が積もってて、それが何だか申し訳なく感じたよ。
アスマ先生の煙草の話もそうだけど、死んでもやっぱりご飯は食べたいって気持ち、よく分かるからね。

ボクんちでは仏壇に白いご飯を供えるのがボクの毎朝の日課だったんだけど、それが下忍になって朝が早くなったから廃れちゃっていたんだ。
それに誰も気づかなくてこんなことになっちゃったんだよね。
その日、白いご飯を供えて、お線香をあげて手を合わせた。
そしたら、それ以降ぱったりと不思議なことは起こらなくなったよ。

――それからだったかな、ボクの修行にも身が入るようになったのは。

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