掌編小説 | ナノ


▼アスマ)片手に花

禁煙を指摘されることほど面倒なことはない。
これまで一週間も経たずに断念している姿を見せてきたのだ。
そろそろ諦めてくれないものか、と思っていたところで、教え子に新たな手を打たれた。

「いのの奴…」

ライターをカチカチ鳴らしてつぶやくと、喫煙所の常連が笑い出した。

ポケットに入れていたタバコがすべて、違う銘柄にすり替えられていた。
仕方なく一本取り出し火をつけるが、花柄がついているせいでどうも締まりない。

「吸うならせめて、私の好きな匂いにしてよね!…ってとこでしょーよ」

通りすがりのカカシが茶化すと、ますます面白がられる。

「あー分かる。飲むならノンアルコールにしろってうちの女房も言ってくるわ」

「ノンアルで酔えるか!」

「そうそう。妥協したものじゃ満足できねェって、そこを分かってくれない」

女に不満があるのはどこでも同じらしい。
だが、体調を気にかけてもらっていると知っているから、聞こえる文句にも本気の怒りはない。
いのもいので、自分の金で買うところがいじらしい。

しかしなぁ、とアスマはゆっくり息を吐いた。
この喫煙所で匂いが混ざれば、またいのに怒られるだろう。

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