▼三代目火影×簡単ケータイ
本来、人と人とは、顔を突き合わせて話すが礼儀。
そこに己の地位など関係ない。
他者がいれば慈しみ、敬う。
崇高な考えの三代目火影の元には、常日頃から自然と人が集まってくる。
だから木ノ葉の火影は、携帯がなくとも不便に感じたことはなかった。
彼の周りでは、これまで築いてきた信頼が、絆となって確かに繋がっているからだ。
しかし、イルカは気がついていた。
「いやぁ、遠く離れていても、息子の成長を見守っていると、里のために頑張ろうって思えますよね」
長期任務から帰ってきた上忍が同僚相手に子どもの写メを自慢する。
張り詰めた緊張感が解かれ、親バカぶりを発揮している上忍の様子を、火影が羨ましげに眺めていることに――。
それから数日が経ったある日。
アカデミーの一室で任務を振り分ける火影を目指し、とたとたと忙しない足音が近づいてきた。
「じじィ、届け物だぞコレ!」
勢いよく扉を開け放ったのは、愛しの孫。
最近はめっきり転ぶ回数も減ったので、脇に抱えていた届け物という小箱も無事のようだった。
「おお、もう届いたのか。配達ご苦労、すまんかったのォ」
顔を緩ませ労う火影は、それじゃ、と帰りそうになる孫を「まあ、ちと待て」と止めた。
開封した箱の中身は新品の携帯だった。
火影はそれを取り出すと、さっそく本体を裏返してみたが、目当てのものは見つからないらしい。
少しどころか任務報告をしに来た忍を待たせる祖父に、木ノ葉丸が呆れたように伝える。
「じじィ、それ簡単ケータイだから、カメラ機能はないぞコレ」
「なんじゃと?」
「どうせ扱いきれないから、最低限の機能だけあればいいだろうって」
「なんたること、人を年寄り扱いしよって!!」
カメラがないのであれば、可愛い孫の写真を撮るという目的が達成されないではないか。
憤慨する三代目に木ノ葉孫が冷静に返す。
「でもじじィ、きっと写真撮っても、保存場所が分からなくて見返せないぞコレ」
「そのくらい、使いこなせるわい!カメラも、メエルも!」
「文句ならアスマおじちゃんに直接言うんだなコレ」
「ああ、待て!」
今度の制止には、木ノ葉丸も足を止めなかった。
途方に暮れた火影が腰を浮かせる。
「直接、直接…」
しかし便利な通信手段が己の手の中にあることに気づき、ふと手元の携帯を見つめる。
それからすぐに傍らに控えていたイルカを見上げると、携帯を差し出しながらこう言った。
「イルカよ、すまんがアスマに電話を掛けてくれんか?」
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