マギ | ナノ


燃え尽き炎帝と隠匿皇后

 緑陰の下で、珂燿は紅炎に抱きしめられていた。禁城の喧噪と隔絶された二人は、静かに時が過ぎるのを待っていた。

「いつまでこうしていられますでしょうか」
「流石にそろそろ出ていかんとまずいだろうな。俺としてはこのままでいたいものだが……」
「私だってそうですよ」

 言葉を聞くだけなら別れを惜しむかのようだが、二人が惜しむのはお互いではない。この、何もしていない緩慢な時間とのことだった。
 重要な式典を前に、二人は揃って……ある意味仲良く、逐電していた。似た者同士、と臣下に溜息を吐かれるのはここである。式典自体はまだ始まっていないのだが、式典の前にある宴や、有力者達の挨拶がこれまた面倒なのだ。

「……玉座にひたすら座っているだけなら、寝ていても構わないか?」
「丞相に気付かれなければありと思います。例えば瞼を開けたまま寝る、とか」
「そんな特技は持ち合わせていない」
「それは残念でしたね」
「心が篭ってないな」
「ひょんふぁほふぉありまへんっふぇぶぁ」

 珂燿はむっとしたらしい紅炎に、口の端を摘まれて引っ張られた。生憎と両手が気の操作の為に塞がっているので、珂燿はびー、と抗議の声を上げるしかない。ひとしきり伸びる餅のような感触を堪能したのか、唐突に紅炎のその行為は終わった。引っ張られた箇所がむずむずしたので、珂燿は紅炎に頬を擦りつける。

「私だって自分の悩みで頭一杯なんですよ。簪ぶすぶす刺して髪引っ張って編み上げて頭皮突っ張らせた状態で座っていなくちゃいけないとか……」
「鬘を被ったらどうだ。少なくとも頭皮の問題は無くなる」
「私の髪色なんてどの辺りで入手するんですか?」
「染めたとでも言っておけ」
「大雑把な」

 えい、とハゲみたいに言われた珂燿は憎らしい程に固い胸板に頭突きをしてやる。重い一撃にごふっ、と紅炎が噎せた。しかし珂燿も珂燿で、衝撃の反動に脳が揺れて少しくらくらした。
 鳥の羽ばたく音に、捜索の兵が再び回ってきたのだと二人は気付く。二人でいればいくらでも隠れていることは可能なのだが――現に見つからなかっただけで、二度程見回りの者とニアミスした――流石に紅明のお小言を貰うだろうし、式典自体をすっぽかしては素直に式典に出る以上に面倒なことになる。

「行くか」
「はい」

 畢竟、限界までサボってから二人は憂鬱な数時間へと向かった。

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