郵送で返却/サワノさん



※靖幸+未鷺



未鷺の見上げる先にはプラスチック製で青色のバケツが二つある。
寮の裏にあるゴミ倉庫の上のそれは、山口野原の制裁のために親衛隊が用意したものだった。
呼び出して水をぶっかける、という古典的な虐めをする予定だったらしい。
数人の親衛隊が倉庫の屋根に上って野原を待っていたのを、先程情報を受けた未鷺と佐助が取り締まった。
連行は佐助に任せて未鷺は片付けをするために残っている。

バケツより澄んだ青の秋空の下で陰険な行為が行われようとしていたことを不快に思いつつ、未鷺は倉庫にハシゴを立てかけ、上り始めた。

ハシゴは安定感がなくぐらぐらとしているが、難無く上まで行くとバケツに手をかける。

ちょうどその時、突風が未鷺を襲った。
ブレザーが風を受け、未鷺の身体が風圧で傾き、ハシゴの片足が宙を浮いた。

未鷺が息を飲んで慌てて掴んだのはバケツのヘリだった。
ひっくり返ったバケツの水を頭から被ってしまう。

風が止んでハシゴが安定すると、ひとまずもう一つのバケツを回収してハシゴから下りた。

髪からぽたぽたと水滴が落ちる。
秋風が濡れた肌に冷たい。
かなりの量の水を頭から受けて、シャツまで濡れてしまっていた。
服を着たままシャワーを浴びたようになっている。

どうしようか、と未鷺は無表情の内で途方に暮れた。

「風紀委員の仕事は大変そうだ」

上から聞こえた声は、未鷺が嫌うものだった。
眉を寄せて見上げた先、寮の二階の窓には、淵に頬杖を付いて笑みを浮かべる靖幸がいた。

「生徒会には水を被る仕事はないからな」
「……うるさい」

未鷺は先程の自分の失態が靖幸に見られていたことに気付いて、苛立ちと羞恥を覚える。

「気分はどうだ?見てる分には楽しかったが」
「お前の顔を見たから最悪だ」
「へぇ?」

言葉通り楽しそうに言った靖幸は窓辺からいなくなった。
未鷺はその窓をしばらく睨んでから、どうすべきか考える。

このまま寮に入ればびしょ濡れの姿をたくさんの生徒に見られるだろう。
プライドの高い未鷺はそれは避けたかった。

誰かを呼び出してタオルなどを持って来てもらうにしても、相手が思いつかない。
元秋の顔が浮かんだが、情けない姿を見られたくなかった。

そう考えているうちに濡れた身体は寒くなってきた。
小さくくしゃみをし、仕方なく寮に戻ることを決意したとき、視界が白いもので被われた。
頭からかかる柔らかい物を手にとると、大判のタオルだった。

見上げると、同じ窓辺に靖幸が居た。

「何か言うことはねぇの」

ない、と言えたら良かったが、タオルの温かさは事実だ。

「……ありがとう」

眉間に皺を寄せ、視線を逸らして言う。
靖幸が笑った気配がして、さらに何かが降ってきた。

未鷺は反射的にそれを受け取る。
靖幸のブレザーだった。

「俺の部屋に返しに来いよ」
「誰が……!」

未鷺が言い返す前に靖幸の顔は引っ込み、窓が閉まる音がした。

未鷺は恨みがましい目で靖幸のブレザーと閉まった窓を交互に見ていたが、自分の濡れたブレザーを脱いで、靖幸の物を着た。
その温かさに安堵してしまったことに自己嫌悪する。

後日、生徒会室にクリーニングがかけられたブレザーが届けられることとなる。




end




サワノさんリクの『ドジを踏んだ未鷺を靖幸がからかう』でした!
靖幸出番少なくてすみません!
楽しく書かせていただきましたー♪
リクありがとうございました。


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