真水と潮水は交わらない
毎日、海へ来ては瓶から真水を流している。真水と潮水はずっと交わることはないらしい。いくら流し続けたとしても交わらないのなら、この行為に意味など全くなくなってしまうのだろうか。でも、もしかしたら、いつか、いつか交わることがあるのではないかと。そう祈り続けて私は、今日も。
「本当にヴァリアーに帰るの?一色?」
まだ薄暗い夜明け、キャリーバッグを片手に門を開こうとする私を呼び止めたのはここのアジトのボス、沢田綱吉だった。
「うん。なんか新人の子が入ったから、戻って来て欲しいってザンザスが。仕事面で私が教えることは何もないだろうけど。ヴァリアーの幹部に入る子だし。でも何か手のかかる子らしいから面倒みて欲しいって。」
「フランかぁ。そういえば何かスクアーロやベルも困ってる感じだったなぁ。」
「スクアーロやベルが手を焼くってどんな子なんだろう。それはそれで楽しみな気もするけど。私、子守は得意じゃないんだけどなぁ。まぁ、ザンザスから戻ってこいって言われたら、戻らざるを得ないというか。ボスだからね。」
ふ、と笑ってキャリーバッグを握る手に力を込める。ここで長話をしていても時間の無駄だ。
「いつでも帰っておいで。ここも一色の居場所だから」
そう言って笑う綱吉の顔を一目だけみて、お辞儀をしてその場を後にした。
後ろは振り返らない。ボンゴレでの平和な日常はとても、心が安らいだ。でも、そこは私の居場所ではない。平和な日常が私にとっては非日常だったのだ。元に戻るんだ。暗殺部隊の幹部としての私に戻るのだ。