めいん | ナノ
お好きなように。



「美しい、なあ」


鮮やかな青色のキャンバスに描かれたような白。その二つが織りなす色合いのコントラストが絶妙で、毎日こうして外で見上げる空も飽きることなく眺めていられる。
ただ何かをするのではなく、ゆっくりあたたかく柔らかな日差しを浴びることが好きだった、けど。


「おっ、あの雲パンツみてーな形してる。ははっ無地の白とかだっせぇーセンスねぇよな絶対俺は穿けねぇよあんなの、なあルビー。」


何故か最近、僕の至福のひとときを邪魔しにくる人が隣に現れた。

(センスがないのはアンタだよ)


「ゴールド先輩、」
「ん?」
「お願いですから僕の前でそういうこと言うのやめてもらえませんかね」


場違いなんで、と嫌みったらしく微笑むと爽やかな笑顔を返されて。この人は扱いづらいものだ。鬱陶しいほどギラギラしたその瞳とか、本当に邪魔で。


「素直な気持ちをさらけ出すのも大事だろ」
「へえ」


素っ気ない態度はいつものことで、その流れのまま同じように繰り返される日常茶飯事を僕は知っている。他人からみればこんなの、何の変哲もない会話にしか聞こえないのだろうか。


「構えよ」
「あなたに関わると疲れるんですよ」
「何でだよ」
「分かりませんか」
「おう」
「じゃあ一生悩んでいて下さい」


そう言ってその場から去ろうとすると、後ろから聞こえた言葉に更に呆れてしまって。


「それはおめぇのことをずっと考えてろっつーことだよな」
「そうなりますか」
「そうなるな」


悪知恵?屁理屈?どれも合ってる。ニヤニヤニヤニヤ、ああもう、汚い笑顔だ。背景に映えないその表情、もっとドロドロとしていた方がお似合いなのに。


「なあルビー」
「何ですか」
「お前俺のこと嫌いだよな」


いきなり何を言い出すかと思えばそんなこと。はい、と言えば良いんですか、いいえと言えば良いんですか。その問いに答えはあるんですか。


「当たってんだろ」
「今日は随分質問が多いんですね」
「んなこたあねぇよ」
「毎日毎日僕につきまとって何が楽しいんだか知る気もありませんが今までで今日が一番言葉数が多いで、す、」


しまった、勢いで出てしまったと口をおさえる。けどもう遅い。恐る恐る彼の顔を見れば今度は得意気な笑みを浮かべるから。

(表情がよく変わる人だなあ)


「なんだ、結構覚えてんじゃねえか」
「知ってますか、人はどうでもいい事ほど記憶に残るものなんですよ」
「へえ」


素っ気なく返された。さっきの僕と同じセリフ、仕返しか、仕返しなんですか。


「質問の答えですけど」
「おう」
「僕は一度も好きだとか嫌いだとか思ったことはありませんよ」


鬱陶しい、目障り、厄介、調子者、でも、すごいひと。
まわりに認められるだけのことはあるなといつも思っていた。それはこの人が僕に近づいてきた時から。だから、もしかしたらどこかで尊敬や期待というものも自分の中で生まれていたんじゃないかと、そう思った。


「納得しましたか」
「わっけわかんねぇ」
「でしょうね」
「俺のことバカにしてんだろ」
「先輩は僕のことどうなんですか」
「嫌い」


ああもうほんと何なのこの人。前言撤回ぜんぜんすごくなんかないし少しでも尊敬とか言った自分の記憶を抹消したいくらいだ。へらへら笑ってにこにこ笑ってにやにや笑って何でそこからそんな表情を作れるかな。


「今日はほんと、何なんですか」
「俺もうここ来れねぇんだわ」
「本当ですか」
「嘘だよ」
「この嘘吐き野郎が」
「おいおい口が悪いんじゃねえの」
「あなた程ではないですよ」


ふざけたような口振りも茶化した態度も全てが好かれる対象で、僕だって嫌な人間じゃないからこの人の良いところくらい少しは把握しているつもりだ。いや、そんなの、最初から、


「じゃあ仮に、もしそれが本当だったらどうするよ」
「どうするって、そんなの」


どうしようとも思わない。いや、正確には、どうすることも出来ない、と言った方が正しいか。


「例えば、修行で当分この地を離れたり、ただどうでもよくなって来なくなったりするかもっつー話」
「引き止めてほしいんですか」
「バァカ、驕るなよ」


表情は分かりやすいくらい変わるくせに、心の中まではさすがに読みとれないらしい。うん、まあ、当たり前なんだけど。


「先輩」
「なんだよ」
「僕も一つ聞いていいですか」


真っ直ぐな視線を。それなりに深い意味はないと、いつものトーンで零れた言葉はあまりにも非現実的で自分らしくなくて、散々論じたはずの美学にも欠けるようなものだった。


「もしも仮にそうなったあなたを僕がどこか知らないところに閉じこめて誰も助けを呼んだって人なんて来ない薄暗く汚い世界で二人きりでそれから頭の中はどうでもいいことなんて忘れてしまうまで壊れて馬鹿みたいに嘘を吐きながら愛し合って一生を終えたい、と言ったらどうしますか」


と言ってもこれはあくまでも仮の話であって別に本当に望んでいるわけでもないし、こんなの僕の冗談に過ぎないのだけど。
それなのにこの人は真剣な表情を浮かべたかと思うと


「ま、お前になら良いかな」


と、平気で言うものだから僕は呆れて溜め息を吐いて、吸い込んだ空気にはやけに重苦しかった。


「つうか何、お前は俺をそんな目で見てたのかよ、惚れたか?ん?」
「驕らないで下さい深い意味なんて無いですから」
「へーへーそりゃそうだろうな」


不思議と距離感のある会話はいつものことで、その流れのまま同じように繰り返される日常茶飯事を僕は思い知る。他人からみればこんなの、何の変哲もない会話にしか聞こえないのだろう。


「まあその気になればいつでも奪われてやるよ、じゃーな」


手を振り、僕の知らない道を歩き出したあの人の背中は今日も何も語らない。
鮮やかな青色のキャンバスに描かれた白はいつも通りコントラストが絶妙で、少し違うとすれば風に揺れる僕の心だ。
ただ何かをするのではなく、あたたかく柔らかな笑顔を見られることが好きなだけで、また明日もきっとそんなことを思うのだろう、見上げた空を仰ぎながら。
 
 
 
( お好きなように )
冗談か本気か、それとも

 
 
 
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素敵な企画に参加させていただき良い経験になりました、ありがとうございます。もっともっと金紅金が広まりますように!





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