渇望*

「ヴォルデモート、さ、ま、」

膝の上に乗せられて、後ろから包まれるように抱かれて、でも彼はデスクに置いた本を片手で捲り続ける。もう片方の手はわたしのワンピースの中に滑り込み、するすると肌の表面を蛇のように這っている。読めない動きでわたしの身体を撫で回しているのだ。

この体勢だけでも体が熱くなってしまうというのに、こんなに甘い責苦をその分厚い本の1章を読み終えるまで耐え抜いただけでも褒めてもらいたい。

のに。

「……読書中だ。静かにしろ」
「っ……ごめんなさい」

窘められて、顔に熱が集中した。

ヴォルデモートはときどきわたしに意地悪をする。じわじわと追い詰めて、わたしが耐えられなくなり自分から求め始めるまで待つのだ。今までこの手口で散々恥ずかしいことを言わされてきた。その手に乗るものかといつも少しは耐えてみるのだが、そんなものは足掻いているだけで、結局は絆されてしまう。

今回も、音を上げて降参の意を込めて彼の名前を呼んだのに。いつもなら漸くかとばかりに事が始まるのに。

更に焦らされている。

手のひらを使ってやわやわと肉を揉んだり、指をつうっとなぞらせたり。読書の片手間でよくもこんなに器用に愛撫ができるものだ。

「っ」

ついに。手が上にのぼってきて、胸の膨らみを下からやんわりと包み込まれる。手のひらで押し潰すように揉まれ、好きなように形を変えられて、羞恥心が一段と高まった。

どくどくと勢いを強める心臓の動きも知られてしまっているだろう。呼吸の乱れも分かっている筈だ。

こんなに厭らしい触り方をしてくるくせに、黙って耐えろと言うの。

「ひ」

ふと。
細長い指に突起を弾かれ、声を上げてしまう。

するとヴォルデモートの手の動きが止まり、一寸置いてパタンと本が閉じられた。

しまった、と手で口を塞ごうとして。

「……まったく」

本に伸ばされていた彼の手が、それを阻む。手首を掴まれ後ろに引かれれば、体の重心は彼に委ねられる。

「うるさいぞ……ナナシ」
「あっ」

耳を濡れた唇に食べられ、より高い声が出てしまった。

……ああ。
わたしは、こうされるのを待っていた。

「……、……っ」

わたしの耳を啄ばみながら、ヴォルデモートはわたしの秘部へ手を這わす。下着を横にずらして直に触れられると、暫く密着した状態で体を撫で回されたわたしの内部はすっかり濡れそぼっていて、溢れた蜜が彼の指をぬるりと湿らせた。

「こんなに濡らして……だらしのない奴め」
「あぁ……っ」

ヴォルデモートの指が侵入してきて、耳を侵される音と中をかき混ぜられる音が混ざり合い、脳の奥がじいんと痺れる。

指2本が揃って腹側の膣壁を擦り、その刺激に背中を反らせると、ヴォルデモートに体を擦り付けるようになった。その拍子に彼の唇がわたしの耳を離れたが、今度は首筋を舐められる。擽ったさに頭を傾けると、横顔と横顔がくっついた。

「あっ……あ、っ、ぁ」

待ちに待った快楽に満たされて、声を抑えることができない。

至近距離でわたしの喘ぎを聞くこととなったヴォルデモートの体が反応する様を、腰に直に感じる。彼のものが硬さを増し、熱を放っているのを知って、もう、もう、堪らなかった。

早く、満たしてほしい。

あなたでいっぱいにしてほしい。

欲を言えば、ずっと、あなたと1つで在りたい。

「っ!」

ヴォルデモートがわたしを抱えたまま立ち上がる。そのままデスクに膝をつかされ、ワンピースを腰の上まで捲り上げられた。下着を剥かれ、わたしは彼に背を向けたまま、下半身を見せつけるような体勢だ。

かなり恥ずかしい格好だが我儘を言っていられないほどわたしは彼が欲しくて堪らない。無言で待っていると、衣擦れの音がしたのち、尻に彼のものをあてられる。

しかし。

「……えっ」

ヴォルデモートはそのままわたしの尻たぶにペニスを擦り付け、自慰を始めた。

しゅっしゅっと彼のものとわたしの肌が律動的に擦れて、彼の熱がわたしを襲う。硬く張っているそれはいつもわたしの中に入ってわたしを支配するのに。何故こんな、あんまりだ。膣が彼を求めてひくつき、じんじんと痺れる。しかし彼は入ってくる気配はなく、一方的に高まっていくだけ。

「ゃ……っ、どう、して、」
「……、……っ」
「ひゃうっ」

ふいに空いた方の手に肉芽を捏ねられ、鋭い快感に膝が崩れてデスクに突っ伏すようになった。押し潰すように刺激されて、自分の腕に唇を押し付けて声が漏れないように耐える。声を上げれば上げるほど、お預けを食らうような気がした。

「んっ、……ん、くぅ」

気持ちいいのに、切ない。

熱が篭って、でも発散できない。
濡れているのに、意味を成さない。

「……! っ!」

時折彼のものが滑って後ろの穴に触れると、うさぎのように体が跳ねた。

もう嫌だ。わたしだけ求めていて。少しご褒美を貰っただけでこんなにも悦んでしまう。はしたない。恥ずかしい。寂しい。

だんだんとヴォルデモートの息が荒くなっていく。

突然肩を掴まれ、ひっくり返され、デスクの上に仰向けにされた。そして今度はその状態で秘部にペニスを擦り付けられる。

「ぅあ、……っあ! やっ」

肉芽を何度も上から擦られて、時折強い快楽がわたしを襲った。でも絶頂に向かうまでではない。

足りない。

「…………くっ」

暫くするとヴォルデモートはわたしの下腹の上に射精した。どろりと液が伝って、わたしの秘部を上から湿らせる。

切なくて、苦しい。

「どうして、こんな」

なんとか声を上げると、ヴォルデモートは伏せていた赤い瞳をわたしに向けた。

「……感じていただろう?」

傷付いてしまう。

わたしがあなたを欲しがってるって分かってる筈なのに。どうして突き放すんだろう。ずき、と涙腺が痛む。

「……寂しかったです……置いて行かれてるみたいで……」

正直に感じたことを伝えると、ヴォルデモートは目を眇めた。それに怯えながらも1番の不安を彼にぶつける。

「も、求められてない、感じがして……」

自分で言って、目が潤んだ。

こんな風に肌を寄せてくれるだけ嬉しいことで、贅沢な悩みなのかもしれない。ヴォルデモートの部屋に来る前はもっと冷たいセックスをされたことも沢山あった。でも、心を通わせたあの夜からこんな風に扱われたのは初めてで、やはり寂しいと思ってしまって、ずきずきと胸が痛む。

わたしばかり相手にしていたから飽きてしまったのだろうか。
わたしを相手にするのは面倒になってしまったのだろうか。

「ナナシ」

名前を呼ばれて、それに答えるように視線を送ると、ヴォルデモートは1つ溜め息を吐いた。それから顔と顔を近付けるように屈み、わたしの片頬をその骨張った手で包み込む。熱っぽい瞳に捉えられて、体の奥が疼いた。

触れ合う直前に。

「逆だ……」

囁きが唇を擽る。

「おまえが欲しくて堪らないから、」
「え、……ひゃっ!」

突然。
秘部にペニスが入り込んできて、わたしは素っ頓狂な声を上げた。心の準備なんてできていなくて、でもしっかりと濡れていたわたしは悦んで彼を咥え込む。

焦らされに焦らされたから、快感が大きくて。

「ま、って、……あ! んむっ」

1度動きを止めて貰おうと口を開くも、彼の唇に蓋をされる。舌を絡めとられ、言葉は封じられて、ちゅくちゅくと唾液の交じり合う音が耳を侵す。

キスをしながら、彼はわたしの脚を掴み、持ち上げた。股が大きく開いて空いたスペースを詰められれば、内部への侵入がより深くなる。そのまま太ももを引き寄せられながら腰を振られれば、奥へ力強く突かれることとなった。

「――〜〜!! っ、っ、」

キスも、ピストンも、激しくて。
先程溢れないように耐え抜いた涙がぽろりとこぼれる。

――――気持ち、いい。

わたしの中がヴォルデモート様でいっぱいで。
わたしたちは今、繋がっている。

この上なく幸せだ。

「、っ! っ、んんっ、!」

唾液はもう溢れて、口の端から垂れていた。上顎を執拗に舐められてゾクゾクと首筋に電流が走る。かたや、ヴォルデモートのペニスがわたしの膣壁を擦り、律動的に子宮口に刺激を送る。ぱんぱんと肌がぶつかり合う音と、ちゃぷちゃぷと液が熱い肉棒に掻き混ぜられる音が、とても厭らしい。

絶頂が迫り来るのを、感じる。

ヴォルデモートはわたしをキスから解放し、その代わりに首筋に甘く噛み付いた。荒い呼吸で揺れる首が彼の歯に押さえつけられる。

「〜〜っは、は、……ああ――――!」

奥をぐりっと擦られれば、わたしは絶頂を迎え、彼のものを思い切り締め付けた。

「っ、っ」
「ナナシ……!」
「……あぁっ……」

数回に分けて熱くどろりとした精液が奥に放たれ、わたしは悦びに震える。自分の腕が自由であることに気づいて、ヴォルデモートの頭部を抱き締めるようにしながら彼の射精を味わう。
我慢していたことも相成り、幸せで幸せでたまらなかった。

繋がったままで、絶頂の余韻が消えない。

ヴォルデモートは少しだけ頭を起こし、わたしの涙を舐めとる。頬を舌が伝うざらりとした感覚に体が跳ねてしまいそうになるのを、身を縮こめて耐えた。

「……時折、お前を……泣かせてやりたくなる」

「俺様のせいで傷付き、悩み、苦しんでほしいと、思う」

「……お前の頭を俺様だけにしてやりたい……」

心臓がきゅんと鳴いた。

先程の行動の意味は、そういうことだったのだ。
だからわざと、焦らして、突き放した。

ああもう、本当にすき。
わたしの幸せは、この人なしにはあり得ない。

「……わたしはいつも、あなたのことばかり考えてます」

「だから……いじわる、しないで……」

ヴォルデモートの瞳が揺れた。

それと同時に、いまだ繋がったままのそこが押し拡げられ、彼のものが再び熱を帯び始めたことが分かる。

もうそれだけで感じてしまうほど敏感になっていて。彼の首に回していた腕に力を込め、声を抑えようと、その刺激に耐えようとしたところで――。

「っ……! あ、あぁ!」
「……ナナシ……!!」
「まってぇ……っ」

またも深く速く腰を打ち付けられ、悲鳴にも似た声を上げてしまった。

「〜〜ヴォ、っる、、!」

放たれた精液かわたしの愛液か――潤滑油となり、先程よりも速く攻められる。溢れる液でデスクの上は汚れてしまっただろう。この勢いに、絶頂がすぐさま駆け戻ってきて、ものの十数秒突かれただけで達してしまう。

「……!!」

しかし。
彼は動きを緩めることはなくて。

「だ、だめ、ぇ……!」
「……何故、だ……っ。欲しがっていただろう……!」
「っ止まらない、です、」
「……っ、……」
「ず、と、イって……ッ!! うぁあんっ」

頭がおかしくなりそうだ。
絶頂が、快楽が、止まらない。

半ば泣きながら、わたしは彼の貪るようなセックスを受け続け、甘い傲慢に耐える。繋がったところから指先、足先まで甘い電流が流れて、全身が性感帯になったかのようだった。わたしはヴォルデモートを力強く抱き締め、ヴォルデモートはそれを受け入れてわたしの首筋に頭を埋めたまま快楽に入り込む。

意識が飛びそうになる寸前。ヴォルデモートがびくりと跳ね、わたしの中に欲望を吐き出し、動きが緩慢になった。熱い精液に満たされる感覚にぼうっとしたが、なんとか意識を引き戻し息を整える。啜り泣きのような声が出てしまう。

「ナナシ……大丈夫か……?」

ヴォルデモートは呼吸が落ち着くと頭を上げたので、そろりと腕の力を緩めた。

「大丈夫じゃないです……気持ち良すぎて、死んじゃうかと思いました……」
「……この唇が可愛いことを言うのが悪い」

そう言って押し付けるだけのキスをくれるものだから、顔が熱くなる。蕩けきっていた頭には刺激的で、まるでのぼせたような感覚になった。

「すき……すき……ヴォルデモート様……」
「ナナシ……」

何度も何度もキスを重ねる。唇を食べ合って、濡らし合う。その感触に溺れていると、お互いにまた燃え上がるものを感じた。

スイッチが壊れて切れなくなってしまったような、油を注がれ続けるエンジンのような、そんな感覚だ。

ヴォルデモートは繋がったままわたしを抱き上げる。少し硬くなった彼のものが奥に食い込んで、快楽が全身を貫いた。

「あぁっ」

そのままベッドへ運ばれる。1歩1歩ヴォルデモートが歩くたび子宮を押される衝撃に耐えながら、わたしは彼の首にしがみついた。

「今夜は寝かせてやらんぞ……」
「ぁ、ヴォルデモートさま、!」

ベッドに横たえられれば、そのまま腰を振られ、緩やかな抜き差しが始まる。

「ナナシ……まだだ……」
「……ああ……っ、っ、」
「もっとだ、俺様を感じろ……」

甘い夜が更けていく。

わたしたちは一晩中求め合い、繋がり、互いの存在を感じ合った。

互いに疲れ果てているのに、どうしてか、足りなくて。もっと欲しいと、もっと1つになっていたいと足掻き、止まらなかった。

暑くなって目を覚ませば陽が窓から差し込んできていて、しかし時計を見て愕然とする。もう夕方の18時だった。イギリスは現在サマータイムで、日の入りが遅いのだ。どう終わったのか記憶に無いが、とても長い時間眠りこけていたらしい。

ヴォルデモートは起きてはいたが、珍しくベッドに横たわったままだった。2人の汗と行為後独特の匂いが充満していて、昨晩の激しさを思い出し、恥ずかしくなる。

「……夏ですね」

その甘ったるさを誤魔化すように関係の無い話題を振った。

「気が早いな。これから5月を迎えるところだぞ」
「……日が長いなって……ヴォルデモート様と夏を過ごすのは初めてです」

わたしがイギリスに連れてこられたのは12月。ヴォルデモートと過ごした時間がまだ浅いことに気付かされて、複雑な気持ちになる。

そんな心情を読み取ったのかは分からないが、ヴォルデモートはわたしに腕を回し、体を抱き寄せた。

そのままわたしの耳に口を寄せ、掠れた声で囁く。

「これまでで1番暑い夏になるだろう」

ぶわっと顔が熱くなって、それを隠すように彼の胸に顔を伏せると、ヴォルデモートがくつくつと笑うのが分かった。

ああ、ずっとこんな風に、2人で時を重ねていきたい。

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