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勇者は魔物に恋をする








グレイグ騎士団長は、勇者に頼まれたものを受け取って勇者の部屋に向かった。
しかし、勇者は不在だと聞かされて、居場所を問うと、城の離れにある棟に向かったと勇者付けの侍女に話を聞けた。当初、侍女は話すのを躊躇ったが、グレイグの圧力に根負けして白状したのだ。


「それにしても、なぜあんな離れに?」


「あそこの棟には、一ヶ月ほど前に城を襲った魔物が厳重に囚われているそうです。勇者様は魔王を滅ぼすため、ほぼ毎日魔物に尋問されているそうですわ」


そう侍女に言われて、グレイグは一ヶ月前の激戦を思い返した。

今こうして城が平和なのが奇跡のようだが、まだ城下町は戦渦の跡が消えないままだ。国を襲った魔王軍はいつものような低級魔物たちではなく、人型の上級クラスの魔物が率いる軍勢だった。おそらく、魔王の仕業だろう。勇者が現れて以降、魔王はより一層国を滅ぼそうと躍起になった。しかしまさか、上級クラスの魔物が攻めいるとは、誰が思っただろうか。

町が燃え、城に攻め入られた際、グレイグも魔物と戦った。明らかに今までの魔物とは違い、今回の魔物たちは統率がうまく取れており、何より強かった。上級クラスの魔物が率いる魔王軍の魔物たちはかくも強いのかと歯を食い縛ったほどだ。

城に侵入され、あと一歩手前で国王が殺されそうになったところを止めたのが、勇者である。
勇者は魔王軍を率いる上級クラスの魔物と戦い、倒した。それさはそれは激戦だった。上級クラスの魔物は人型で、人間とは逸脱した禍々しさを放っており、剣ひと振りで何十人もの兵士が死んだ。あの時の恐怖は、今でも忘れない。


勇者は上級クラスの魔物を倒したが、その魔物は生きていた。勇者は魔物を捕らえると、牢獄へ閉じ込めたのだ。尋問し魔王の居場所を突き止めるそうだが、あの勇者ならやりかねない。強そうな上級クラスの魔物まで倒してしまうのだから、魔王までやってしまいそうなのだ。


「運命に抗うこともなく、熱心な勇者様だな」


「ええ、全くですわ。素晴らしいお人柄ですし、わたくしどもは勇者様に頭が上がりません」


侍女はそう言うと、庭から一歩先の森の中を指差した。


「…この森を抜ければ、離れの別棟ですわ。そこに、勇者様はいらっしゃると思われます」


「なんて薄暗い森だ。この森も、城が?」


「ええ。王族が管理する森ですわ。その昔、別棟はかつての勇者様の別荘だったそうですの」


そんな価値のある別棟に、あの勇者様は魔物なんぞを監禁しているのか。

グレイグはそう思わざる得なかったが、別棟は代々勇者のものだ。グレイグがどうこう言うべきではないと頭を振り、侍女に見送られて森の中へと歩を進めた。








獣道をしばらく歩いて抜けると、かつての勇者の別荘だったらしい古風な建物が現れた。

白い外壁に高い塔のシンプルな外装は、どうにも勇者が所有するような建物には見えない。代々、勇者は庶民の出身だったからなのか、それとも勇者とは欲のない生き物なのか、華美な装飾は一切ない建物にグレイグは足を踏み入れた。




扉を開けると、真っ赤なカーペットが敷かれたフロントが広がっていた。やはり無駄な装飾はない。人っ子一人いない空間に不思議な気持ちになりながらも、グレイグは勇者を探した。
二階へ上がると、この棟の管理者である男がひょっこりとグレイグの前に現れた。彼は確か、王族の使用人だった男だ。グレイグには見覚えがある。いなくなったと思ったら、勇者の棟の管理人をしていたのか。


「あれ、グレイグ騎士団長様! 勇者様に御用でしょうか?」


「ああ、頼まれていた物を渡しに。勇者はいるか?」


「はい、最上階にいらっしゃいますよ! お手数ですので、わたくしがお届けいたしましょうか?」


管理人は最上階まで行かせることに引け目を感じたのか、そう言ってきた。


「いいや、勇者に直接届けるように言われていてな…。せっかくだ、勇者の顔を見るついでに、捕らわれた魔物も見ていこう。魔物はどこにいる?」


そうグレイグが言うと、分かりやすく管理人の顔が引きつる。グレイグが眉間に皺を寄せると、管理人は怯えたように息を呑んだ。


「例の、ま、魔物ですか…。あの魔物なら、勇者様のお部屋に…」


「勇者の部屋!?」


驚いてつい声をあげると、管理人は肩を揺らし、ひどく怯えて返事をした。


「は、はい…っ! 勇者様がご自分のお部屋に檻を設置して、その檻に捕らえていらっしゃいます…!」


「なんだって!? あの人型の上級魔物を!?」


グレイグは驚いて管理人の肩を掴んで叫んだ。管理人はすっかり怯えると、その場で崩れ落ちてカタカタと震えだす始末。落ち着いてしまった、と息を吐くと、管理人の言葉を思い出して頭を抱えた。


「尋問しているとは聞いていたが…自室で捕らえているとは…」


あの上級魔物は、魔物の中でも圧倒的な強さを誇る暴君フェンリルだったはず。魔王軍を率いる少数精鋭のうちの一体で、魔王直属の手下だったはずだ。
そんな危険な魔物を自室で捕らえるとは、大人しそうな見た目のわりに随分と大胆な勇者様だ。


「管理人、すぐに勇者の部屋に案内してくれ」


座り込む管理人にそう言うと、はっとした管理人は返事をして立ち上がり、震えながら最上階へ続く階段へと案内し始めた。
そしてとある階段の前で管理人は立ち止まった。


「…こ、この先が、勇者様のお部屋となっております…。わたくしは、ここから先は立ち入るなと勇者様から言付かっておりますので、ここまでしか案内できません」


「そうか、分かった。すまないな」


怯える管理人に落ち着かせようと肩を優しく叩くと、管理人はびくりともせずにお辞儀をして立ち去った。
その様子に、グレイグは疑問符を浮かべる。


(声を荒らげた俺に怯えているわけでなかった。そうなると、やはりこの先の…魔物が怖くて仕方ないのか)


勇者がいる限り大丈夫だろうが、相手は上級魔物である。管理人ほどの人間にとっては魔王と遜色ないほどの恐怖心を煽るのだろう。


(しかし…ここまで来ても、闇の気配が薄いな。上級魔物特有の圧迫感もない……)


階段を登るにつれ、不思議に思ってしまうほど闇の気配が少ない。本当にここに上級魔物がいるのか、本当は勇者が殺してしまったのではないかと勘繰っているうちに、最上階へとたどり着いた。

最上階は部屋が一つしかなく、赤いカーペットの廊下の先に扉があった。そこから、何やらくぐもった誰かの声が聞こえる。


「…? 勇者か?」


そっと近付くにつれ、何かの断続的な破裂音も聞こえる。扉が目の前に迫ったとき、一際大きな声が聞こえてグレイグは飛び退いた。


『っひゃうぅっ……!』


『ああ…ジオっジオ…っ!』


「なっ……!」


明らかに、情事の声だ。
勇者と思われる上擦った声に、ひっきりなしに聞こえる嬌声。
まさか自室に女を連れ込んで行為をしているのかと訪問を諦めたその時、勇者のはっきりとした声が届いた。


「グレイグ騎士団長、来たんだね。開けていいよ」


気配でグレイグを察知したのだろう。入室の許可をもらったグレイグだったが、入るに入りにくい。しかしまた用を増やすのも面倒なので、グレイグは思いきって扉を開けた。




そしてその目に飛び込んできた光景に、グレイグは固まってしまったのだ。





「あっ、ひっ、あぁぁっ」


「ジオ、ごめんね。お客さんが来ちゃった。いい子にして待っててね」




勇者が優しい言葉をかけ、その逞しい腕に抱いたものにキスをする。
その腕の中にいる人物に、グレイグは目が離せなかった。



「見苦しいところをすまないね、グレイグ騎士団長。…グレイグ騎士団長?」


勇者が首を傾げて、固まるグレイグを見つめる。グレイグは指を差して、ぱくぱくと口を開けながらなんとか言葉を紡いだ。


「な………なぜ……魔物が……!」





グレイグが指差した先には、人型の魔物が横たわっていた。
檻の中で力なく横たわる魔物は、城を襲った魔王軍のあの上級魔物に違いなかった。流れるような銀の髪に、頭に生えた二対の角。褐色の肌に浮かぶ黒い紋様はまさに、あの時城で勇者と熾烈に戦った恐ろしいフェンリルの魔物だった。

その魔物が、丸くて張りのある若い尻をこちらに向け、その広がる鮮やかな桃色の穴からはしたなく白い液体を吹きこぼしているではないか。その無駄な肉ひとつない締まった体にも白い液体をつけ、禍々しく濁った赤い目は突然現れたグレイグを見ることもなく遠くを見ている。
異様な光景に、グレイグは何が起きているのか理解できぬほど馬鹿ではなかった。


「ああ、彼のこと? 彼は一ヶ月前、城を襲った魔王軍のリーダーの魔物だよ。貴方も見たでしょう?」


勇者はそう言うと、力なく横たわる魔物を抱き上げた。抵抗もせずに抱き上げられた魔物の筋肉の締まった腕には、壁に繋がれた手枷が嵌められている。

魔物はうっすらと目を開けると、真っ赤な瞳をグレイグに向けた。そして「貴様…」と呟くと、「ひっ!」と突然目を見開いた。


「あっ……ひぅ!」


「だーめだよ、ジオ。僕以外の男を見ちゃだめ。君は僕のものなんだから、僕だけを見て?」


どうやら、いきなり挿入されたらしい。魔物の体は人間と相違なかった。褐色の美しい肌は刺青なのか、魔物特有のものなのか分からないが黒い紋様がところどころあり、細い腰付近にも美しい装飾の紋様があった。萎えている男根も人間のものとは変わりなく、揺らされてぶるんぶるんとバウンドしては引き締まった腹にぶつかっている。その男根ははっきり言って人間の中でも大きい方だが、色味が美しく、ピンクがかったそれは果実のように芳醇だった。そして勇者のグロテスクな赤黒い巨根が激しく出入りする肛門は、真っ赤に腫れ上がりそこから止めどなく精液が溢れていた。


そんな魔物の無惨な姿と勇者の異様な雰囲気に、グレイグは驚きを隠せずにいる。


あの恐ろしい魔物が、人間である勇者にめちゃくちゃに犯されて悲しいほどの喘ぎ声をあげている。

人型の魔物は頭部の角や尖った耳、赤い目以外は人間と変わりなく、火照った顔は信じられないほど整っており美しいとまで思わされてしまう。
勇者に激しく腰を打ち付けられている魔物は、涙を散らして快楽に呑まれていた。



「…これは、どういうことだ……」


「どういうことって、こういうことだよ、グレイグ騎士団長。ジオはね、僕のものになったんだ。美しいでしょ?」


ずんっ、と一際激しく腰を打ち付けられ、魔物の背中が弓なりに仰け反った。すると勇者がすかさず魔物に口付けをして、剥き出しの首筋にむしゃぶりつく。


魔物は涙を流しながら「いやぁっ!」と抵抗するが、最後は快楽に負けて達した。そそり勃った男根から、透明な液体が飛び出る。


「今日もたくさん出たね…。見られてるから興奮しているの?」


勇者はいやらしく魔物の体を撫でながら、息を切らす魔物の耳元で囁く。魔物はビクンビクンと体を震わせながら、美しい褐色の肢体をだらんとさせて座り込んだ。萎えた男根はびしょ濡れで、グレイグからでも見える赤く腫れ上がった肛門からは大量の精液が溢れている。それを見て、グレイグは顔を歪めた。


「…勇者よ、正気ではないな。魔物を抱くなど」


フェンリルの魔物は城に攻め入った時の威圧や恐怖心を煽る圧倒的な強者のオーラを失い、まるで娼婦のような妖艶なオンナに成り果てていた。
勇者は魔物に口付けをし、その頬を撫でると、衣服を整えてグレイグの元へ歩み寄った。


「正気ではない…ね。良いね、僕、それ好きだよ」


にこりと笑う勇者は、いつもの人好きのする雰囲気だった。
グレイグはため息をつくと、勇者を睨む。


「その気味の悪い笑顔を今すぐやめるんだな」


勇者はそんなグレイグに怯むことなく、楽しそうに笑った。


「ふふ、酷いなぁ。グレイグ騎士団長は、僕にだけ優しくない」


「お前の本性は昔からよく知っているからな。毎度突飛なことを仕出かしては全て俺に対処させていただろう」


「そうだったね。懐かしいなぁ」


人好きのする笑顔から一変、嫌味な顔をする勇者に、グレイグは何度目かのため息をついた。そして横目でぐったりとしている魔物を見ると、勇者に言った。


「あの行為は、新しい尋問スタイルか?」


「尋問? まさか。愛の行為だよ。ジオは僕のお嫁さんになってもらうからね」


ジオ、というのは、あの魔物の名前だろうか。グレイグは勇者の発言がとてもじゃないが本気だとは思えなかった。


「何を言っているんだ? あれは魔物だぞ。しかも、危険な上級魔物で、魔王直属の手下…一刻も早く尋問して、殺さなければならない」


「そうだね。ジオは魔王の直属の部下で、魔王軍の数少ない精鋭みたいだし。でも、僕に負けて囚われ、人間に飼われてる。ジオはこれからもずっとここにいてもらうつもりだよ。殺しはしない」


「それを魔王が知って城を滅ぼそうとしたらどうする!?」


「それは都合がいいんじゃない? 尻尾が掴めるってことだよ。それに、君が思ってるよりもジオは簡単に口を割らない。今の今まで、ジオはどんなに抱かれて辱しめを受けても魔王のことは口に出さなかった」


勇者はねっとりとした視線をジオに向けた。ジオは気を失っているのか、壁に寄りかかって目を閉じていた。トロトロと後肛から溢れる精液が、耽美で生々しい。


「…それに、僕はジオが欲しい。初めから、ジオを捕らえて僕のものにするつもりだったからね」


「……なんだって?」


グレイグは勇者を信じられないと言った顔で見つめた。


「前から、僕はジオに恋をしていた。ジオこそが僕の本当に欲しいもの。この王国を救ったら、すぐにでも僕はジオを捕らえて自分のものにするつもりだったんだ」


「相手は魔物だぞ。正気か?」


「一目惚れなんだ。初めて魔王軍が僕の前に現れた時から。ジオみたいな輝きを持つ美しい人に、僕は会ったことがない」


すでに人ではないのだが。
そんなツッコミをしつつも、グレイグは恍惚とした勇者の表情に何とも言えない気持ちになった。



この勇者は、代々の勇者よりもさらに欲が少ない男だった。

中流家庭の出身で、たまたまその右腕に勇者の証を受けて生まれた勇者は、幼いうちから城で生活することとなった。

勇者はその頃から、勇者として様々な厳しい訓練を受けた。はっきり言って、子供にさせるようなものではない訓練も多く、当時グレイグもその様子を見ながら苦い思いをしたものだ。運命とはどうしてかくも厳しいのか。勇者の証を受け継いだだけで、国民の期待を一心に受けて。
そんなものは、大人のグレイグですら酷い重圧だ。


そんな世界で生きた勇者は、まるで欲のない人間に育った。
町を恐怖に陥れた魔物を倒したときも、礼や褒美はいらないと言ってのけ、それでも何かさせてくれと頼まれると剣を磨いてくれとたった一言、そう言っただけだった。グレイグはそんな勇者を見てきたからこそ、そこまでこの魔物に執着する勇者は珍しいと思ったのだ。

それに、今回の報酬で珍しく勇者が欲しいものを王に伝えたと聞いたが、それもこの魔物のためだったなんて。


グレイグはそこまで思うと、鎧の中に潜めていたものを取り出して勇者に渡した。


「…例の頼まれていたものだ。どうせそれも、その魔物のためだろう」


「ああ、ありがとう。やっぱりこれは貴方に頼んでおいて正解だった」


勇者が袋から取り出したのは、赤い玉。中では何やら煙のようなものがゆらゆらと動いており、美しい輝きを放っている。


「“レッドオーブ”。炎を操る者が手にすると、不思議な力が発動する…フェンリルは元来、炎属性の魔物だ。すでに反応しているな」


ジオに目をやると、ジオはうっすらと目を開けているところだった。勇者はにこりと笑うと、ジオに近付いて美しい銀髪を優しく撫でた。


「気持ちいい? ジオ」


「は……ぁ…」


ジオは半開きの唇から艶かしい声を出すと、うっすらと笑みを浮かべた。その様子は、鳥肌が立つほど美しいとグレイグすらも思ってしまうほど。


「気持ちいい…あたたかい…」


「ふふ、でしょ。レッドオーブだよ。君のために、造ってもらったんだ。君はこれがないと、魔力を消耗して死んでしまうからね…」


「ん…」


勇者はネックレス状に造られたレッドオーブをジオに優しくかけると、ゆっくりと檻の中に設置された柔らかなベッドに寝かせた。ジオはうっすらと開いた目を勇者に向けて、勇者が唇を寄せると抵抗せずに受け止めた。その様子は、まるで愛し合う恋人同士のよう。


ちゅ、と唇を離した勇者は、寝てしまったジオに布をかけると、檻から出た。そして厳重に檻に鍵を閉めると、魔法をかける。緊縛の呪文だ。


「随分となついてるな」


「レッドオーブの力さ。いつもは、罵倒して暴れて大変なんだ」


そう言うわりに、勇者はいとおしいと言うように檻の中で眠る魔物を見つめる。


「初めて無理矢理抱いた日は、危うく殺されかけてね。まあ、と言っても手枷には最高位の禁魔力の魔法がかけられてるから、どうってことないんだけど。さすがフェンリルって言うのかな…ちょっとした隙に、残りわずかの魔力で攻撃して来てね」


「最高位の魔法でも全ての魔力を吸いとられなかったのか。さすがは魔王軍の精鋭だな」


「ふふ、でも、僕が魔法で自由をなくすと、やれ『殺してやる!』だの、『人間めが!』って怒鳴り始めて、犯してる最中も僕を呪うような顔で睨んでくるの。それが可愛くて」


のろけ話をし出したと思いきや、グレイグには分からない心境である。
どこをどう見たら、自分を殺そうとしている魔物にときめくのだろうか。


「あのジオがようやく僕の腕の中で、僕に犯されてるのが嬉しくて。あとは僕の子供を産んでくれたら、彼は永遠に僕のものになるんだ」


勇者の言葉で聞き捨てならない言葉が聞こえて、グレイグは眉間に皺を寄せた。


「何言ってる。コイツはオスだろう。子供なんて産めるはずがない」


グレイグは先程、魔物の裸体についている立派な男の象徴を見たばかりである。

すると勇者は、「グレイグ騎士団長は知らないんだ?」と笑った。


「魔物はオスとメスの区別が、人間よりも曖昧なんだよ」


「…は?」


「魔物は圧倒的な繁殖力がある。それはなぜだと思う? 別に、一度に多くの子供を産むわけじゃない。何度も子供を産むのも、繁殖期がない魔物だけだ。でも、繁殖力は人間よりも強い。なぜだと思う…?」


グレイグは、その答えが分かってしまいそうで怖かった。
黙っていると、勇者は「まあ、人間ではありえないよね」と笑った。


「魔物は、オスでも子供を産めるんだ。言ったでしょう、オスとメスの区別が曖昧だって。フェンリルなんかは特に、繁殖期になるとオス同士でも盛って子供を作れる。ジオも同じなんだ」


「だからと言って…なぜ永遠にお前のものになる?」


「フェンリルは誇り高い魔物。それと同時に、自分より上だと認めた者には従うんだ。オス同士の交尾の場合、フェンリルはメス側になるオスがオス側のオスに従うようになる。子供が産まれると、メス側のオスはオス側のオスに逆らうことは絶対に出来ない。力が全ての種族だからね。だから、僕の子供をジオが産めば、ジオは僕に逆らいたくても逆らえなくなる。そういう仕来たりが脳内にすでに組み込まれてるから」


グレイグは勇者の言葉に、なんだか少しゾッとした。
愛するジオとの間に純粋に子供が欲しいわけではなく、ジオを従わせて自分のものにしたいだけだなんて…。なんとなく、囚われの魔物が哀れに思えてきてしまった。


「ああ……早くジオが妊娠しないかな。繁殖期はまだかなぁ? 今が繁殖期だったら、ずーっと種付けしてるし妊娠するはずなんだけど」


「…俺の前でそんなはしたない話はやめろ。それに、魔物との間に子供なんて出来るのか?」


「さあ? でも、出来なくないでしょ。魔物は繁殖力が強いんだから、どんな生物とでも繁殖できる」


「なるほど………って、違う!」


普通に会話していて、グレイグはハッと気が付く。なにか根本的なことを忘れていた。


「勇者、お前は本当に正気か!? 世界を救う勇者が、たった一体の魔物に傾倒して魔物との子を作るなど言語道断! 王に知られれば何と言われるか……」


「え? でも、魔物を捕らえて孕ませて僕のものにしていいか王様に聞いたら、『好きにせよ』と言われたけど」


「あンンンのテキトージジイ!!!!」





その日、グレイグの怒号が別棟に響き渡ったと言う。









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