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「…!」
気づいたらもう下校時刻間近になっていた。
辺りは既に薄暗く、外を見ると部活動を終えた生徒達が帰り支度を始めていた。
「(イタチが来る前に片づけとこ。)」
ゆめはすっかりつけ忘れていた明かりをパチ、とつけて片づけを始めた。
「ゆめ、帰る…なんだ、今日は随分早いな。」
「お疲れーイタチ。」
ガラリと入って来たイタチは物珍しそうにゆめを見た。
ゆめはイタチが来たのを確認するとスタスタと美術室を出た。
「あんまり待たせるとまた飛段が拗ねるからさ。」
「飛段ならいないぞ。」
「なぬ!?」
「部活の練習中、足首を捻ったらしい。今日は角都の車で帰るとさっき角都に言われた。」
鍵をかけながらイタチは言った。
「えー…。」
「そこまでひどくはないそうだから心配するな、と飛段が。」
「だろうね、飛段だもんね。」
「暫くは2人で下校だな。」
イタチは鍵をチャリン、と手で弄びながらゆめを見て微笑んだ。
「そうゆうのは意中の女の子に言うもんじゃないの?」
「それがお前だと言ったら?」
「嘘だね。」
「バレたか。」
「それはそれで傷つくなー。」
2人でそんな冗談を言い合う。
イタチはゆめだから言えることなのだろう、他の女子に言ったら間違いなく本気にされて後々面倒なことになる。
「イタチは親友。」
「光栄だな。」
「あと飛段も。大丈夫かな?あいつ。」
「ジュースでも奢ってやるか?」
「そうだね、野菜ジュースでも。」
そうして2人で笑い合う。
ゆめにとってもイタチにとってもこの空間はとても心地よいものだった。
「そういえば今日、生徒会室に来たと聞いたんだが。」
「ん?あ、あー…、」
「なにか用があったのか?」
用ではなく、ただ気分転換に絵のモデルになって欲しかっただけだ。
言おうと思ったが言う必要もないので濁した。
「んーん、なんでもないよ。」
「そうか?」
「すごかったね、イタチの人気っぷり。あそこまでいくとさすがに引くわ。」
笑って言うとイタチは少々げんなりした。
「生徒会室にまで押しかけるのはやめてくれと以前注意したんだが…あまり効果がなくてな。」
「彼女作れば?そしたら少しはファンが減るんじゃないの。」
「俺は理想が高いんだ。」
「これだからボンボンは…。」
呆れたようにため息を吐いて悪態をつく。
まァゆめにとっては、そこら辺のチャラチャラしたいい加減な女よりも、きちっと教育されたおしとやかなお嬢様タイプの方がいくらか安心する訳なのだが。
イタチ自身が物静かな性格なのであまりグイグイくる女子は、逆にイタチにとっては鬱陶しいだけだと思う。
ファンの女達はそこら辺を全く理解していない。
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