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シトシト、シトシト。
ああ、今日は雨なのか。
そういえば航海士が明日の昼間では雨続きだって…、
「…さむ、………」
木に凭れて呟く。
周りに倒れている海賊達はとっくに息絶えている。
その数、ざっと20人。
我ながら頑張ったと思う。
けれど負った怪我が多い。
血もだいぶ流した。
今座ってるここも血溜まりだ。
腹は刺されて斬られた。
足は撃たれた。
背中はズバッとやられた。
腕の肉は抉られた。
もうどこも動かせない。
雨に打たれ続けて身体が冷える。
血もなくなってきているから死に近づくスピードが早まっている。
「キ…ドの、かしらァ……、」
頭に出会ったのはいつだっけ。
確かヒートと一緒に入ったからだいぶ前だ。
あの頃はあの人が怖くて仕方なくて、いつもヒートやキラーの後ろにいた。
『てめェナマエ!!いつまでビクビクしてやがんだ!!』
『ぎゃー!!ごめんなさいごめんなさい!!』
『ハハ…キッドの頭、許してやってくれよ。こう見えても剣術は確かだから。』
『けっ、じゃなかったらとっくに海に放り出してるところだ。』
『キッドの顔が怖いんだろ。』
『ンだとキラー!!!』
いつもビクビクしてた。
怒鳴る度に泣きそうになった。
怒られる度に落ち込んだ。
いつの日だったか。
戦闘中に頭が海に落ちた。
頭は能力者だ。
いなくなってしまうことに恐怖を感じて無我夢中で飛び込んだ。
幸い泳ぎには自信があった。
飛び込んで泡のカーテンが落ち着いてきた頃に頭を探した。
その人はそこにいた。
暗い海底に引き込まれていく頭。
苦しそうにもがく頭。
必死に暴れてる頭。
見ていて怖くなってしまった。
青ざめたのをはっきりと覚えている。
手を伸ばしてしっかり握った。
大きなその手が握り返したのを確認して思い切り引き寄せた。
ぐったりしている頭の腕を肩にかけて外を目指した。
ただ、その時は必死だった。
この人を死なせたくないと思った。
何とか船に上げて。
服が海水を吸い上げていた上に、自分よりも大きな男の人を引き上げるのにはかなりの体力が強いられた。
それでも頭の意識が戻るまで不安で仕方なかったから。
船医が応急処置しているのをクルー達と一緒に見守っていた。
目を覚まして。
お願い、死なないで。
また声を聞かせて。
船医の処置もあって頭は目を覚ました。
そこで頭は真っ先にあたしを見て言ってくれた。
『ナマエ。』
『は、はいっ。』
『よくやった。』
『…へ、』
『お前のおかげで助かった。』
ありがとな、と言ってくれた。
あの時の笑顔は忘れない。
思えばあの時からあたしはキッドの頭に魅了されていた。
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