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剣術も磨いた。
泳ぎも速くなった。
頭に褒められるのが嬉しくて。
また頭を撫でて欲しくて。
安いあたしはたったそれだけのことで何でも頑張れた。
『なァ、ナマエ。』
『何でしょう、頭。』
『その…変なこと、聞くがよ。』
『?何でもどうぞ。』
『………女ってのは、何もらったら嬉しいんだ?』
キッドの頭は、ある1人の町娘に惚れ込んだ。
とても可愛らしくて優しい笑顔の娘なんだそうだ。
ヒートとキラーで興味本位で見に行った。
『いらっしゃいませ。』
『…あ、』
『……あの、もしかしてキッドさんの船の方ですか?』
"キッドさん"。
名を呼ぶ程親しくなっていた。
あたし達のことは恐らく、頭が彼女に話していたんだろう。
その子は花のように可愛らしかった。
『…ナマエ……。』
『なァに、ヒート。』
『いや…その……、』
『大丈夫だよ。』
『え?』
『大丈夫だから。』
ヒートは気づいていた。
あたしの淡い恋心に。
でも言う訳にはいかなかった。
あたしはクルー、頭は船長。
所詮実るはずがない。
だから諦めは早かった。
胸の痛みにも流れてくる涙にも耐えることだってできた。
『は、はじめまして…リリスです。』
町娘のリリスは頭の女として船に乗ることになった。
元々親もおらず住み込みで働いていたんだそうだ。
それを知っていた頭は猛アタックし続けた。
リリスもそんな頭に惹かれていき、2人はめでたく両想いとなった。
『あ、あの…』
『……………。』
『私、航海とか初めてで…良かったらいろいろ教えていただけますか?』
嫌だ、と言えたらどんなに良かったか。
降りろ、と突っぱねることができたらどんなに気が楽だったか。
『…うん、いいよ!』
『あ、ありがとうございます!』
『嫌だなァ、敬語なんて。同じ女の子なんだからそーゆうのナシ!』
『はァ?ここに女はリリスしかいねェはずなんだかなァ。』
『うっさいっすよ頭!』
『…うん!ありがとう!』
言えなかった。
無理だった。
2人の幸せそうな顔を見たら。
あたしに選択肢なんてなかった。
でも良かった。
頭が幸せなら。
それで頭が笑ってくれるなら。
あたしは何もいらなかった。
その日、あたしはベッドで1人声を押し殺して泣いた。
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