カシャリ、と綺麗な音をたてて、グラスが割れた。



ルカが机の上にあったのを、手で払い落としたのだ。
ルカは真っ赤に腫れた目をこすると、はじかれたように飛び出して行った。
長いピンクの髪をなびかせて。


俺はぼんやりとする意識の中、割れたグラスを片付けようと、しゃがみこんで散り散りになったガラスを拾う。
ちくりと指先に痛みが走ったが、そんなことどうでもいい。



俺達は、こんなことがしたかったのか?





***



すれ違いが生じはじめたのはいつからだったのだろう。

"別れよう"

そう言えずに、刻々と月日は過ぎて行く。
ウイスキーの入ったグラスに、色褪せたルカの笑顔の残像が浮かんで消えた。



最近の俺達が喧嘩しないときはない。
些細な事ですぐ揉めて、怒号が絶えない暇などない。
俺とルカは、同じタイプだから、少しでも食い違うとすぐ揉めるのだ。

一昨日も昨日も今日も怒鳴りあった。
多分、明日も明後日も明々後日も、怒鳴りあうだろう。


「所詮こんなものさ」


誰かが呟いた。
ウイスキーが一粒水割りされた。



***



気付けば外は雨が降っていた。

土砂降りで視界は真っ白だ。


玄関の方から物音がしたので見に行くと、長い髪がぐっしゃり濡れて、ペッタリと顔や服に張り付いたルカが立っていた。


何も言わずに俺を見つめるその瞳に

光は、ない。


言え。言うんだ。

覚悟を決めて吐き出した言葉に、自身の心臓が跳ねた。
心の中も、土砂降りが降りはじめた。
先程の指先よりもひどい痛みが走った。

動悸がする。

息切れがする。



ルカは、自嘲の笑みを浮かべて、はらりはらりと涙をこぼしてうなずいた。








これでいい。


「これでおしまいかな」

















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