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「名前さんって結局誰が本命なんですか?」

P機関での会議も終わりに差し掛かり、少し皆んなでリラックスモードに入っていた時に、その発言が飛び出た。一斉に周りの大人の好奇の目が襲いかかる。またか、この質問……。

「誰ってどこからですか……。そもそも今好きな人いませんし。だって10代ですよまだ。」
「えー誰って……ねえ?」
「聞いてますよ色々ー。」
「それに10代っていったらまさに恋愛とか興味津々の年代でしょ?18歳から結婚だってできるしさー。」

大人たちが楽しそうに私の恋愛について話してくる。その左手の薬指にはキラリと光る指輪がある人もいる。あの人って確か私よりちょっと上だったような気がするけど。私が逆に教えて欲しい。どうやったら結婚できるのだろう。このままだったら仕事尽くしになって、結婚出来るビジョンが見えない。

「ほら、夢ノ咲のアイドルの子とかさぁー。あと最近人気の新ユニットの子とか。歳も近いし、仲良しなんでしょ?」
「えー。嫌ですよ。少なくとも私は自分より大事な人がいるような彼氏は嫌ですね。」
「え?なに、何の話?」
「すみません、独り言です。」

そう言ってお茶をすする。嫌だなぁ、例えば真緒くんと付き合ったら漏れなく凛月くんが付いてくるんでしょ?朝甘い声で友人を毎日起こしている彼氏を見るんでしょ?私が彼女だったらそれが原因で別れちゃうよなぁ普通に。仲良しなのは良いことだけど。まぁ私は彼女じゃないし友達だから良いんだよそれは。微笑ましいよね、あの二人……。

「あ、ね、ねえ、七種くんもそう思うよね?名前さんももっと恋愛するべきじゃない?」
「え。」
「そうですねぇー、たしかに名前さんの噂はかねがね伺いますが、自分的にはそんな話をする前にやるべきことがあるのではないかと思われますな!ハッハッハ!」

いつの間にかいた茨くんに、嫌味たっぷりにそう言われた。茨くんにスキャンダル写真のもみ消しを頼んで以来、言動がより刺々しくなった気がする。もみ消しの代わりにまたしても茨くんの仕事をちょこちょこ手伝っていたのだが、その時もまぁこき使われた。この前の日和さんの件は、どうやら茨くんには届いていない……と思いたい。届いていたらもっと言われるはずだろうから、大丈夫……。大丈夫だよね?ね?

「ところで名前さん、この後ニューディーに行くとおっしゃってませんでした?大丈夫なんですか?もう過ぎているように見えますが。」
「あ!そうだった!すみません、ちょっともう抜けさせてもらいます……!」
「いやーやはり大人気プロデューサーはお忙しいようで何より!やはりそういう面でも引く手数多では?」
「そういう面?と、とりあえず急ぎですので失礼いたします!」

茨くんに言われて時計を確認すれば、予定の時刻から5分程度時間が過ぎていた。今日は司くんに急に呼び出されていたのである。司くんは大人気アイドルで忙しいというのに、待たせてしまっているなんて何たる失敗だ。急がなければ。
失礼します、と一言だけ言って急いで事務所を出て行く。まぁほとんど会議もひと段落ついていたので問題はないだろう。後で議事録を確認しておこう。




「七種さん、俺らは応援してるんで!」
「七種さんもうちょっと押しましょう!頑張れ!」
「あなた方は先ほどから何の話をしているのですか?」



─────────


「つ、司くん!ごめん!会議思ったより長くなっちゃって……!」
「いえいえ、お姉様!突然呼び出した司が悪いのです。お姉様が忙しいのは承知の上なのですが……。突然申し訳ございません。」

司くんは困ったような顔をしてペコリとお辞儀をした。何という良い子なのだろう。最近あった様々な出来事を思い出しながら、一人でじんわりと感動した。一年前は甘えてくるような可愛らしい印象だったけど、今は会議でもしっかり意見を言っているのも見るし、リーダーも頑張ってるみたいだし、しっかりしてきているよなぁとぼんやりと思っていると、司くんがカバンを持ちながらお姉様、と声をかけてきた。

「なんでしょう。」
「ここでは話しにくいので、会議室を取ってあるんです。移動しましょう。」
「え?あ、はーい。」

そう言われて司くんに着いていく。いつもだったら普通に事務所で話するのに、何でだろう。コツ、コツ、とヒールの音を響かしながら考える。最近の司くんの仕事のことだろうか。確かに優良なお仕事がたくさん入っているのは知っているけど、最近はそこまで関わってなかった気がする。司くんは同い年である翠くんみたいに、撮影の応援にきてくれとかは言わないだろうし……。不安に思っていると、司くんが目の前で止まった。どうやらこの会議室らしい。

「お姉様、お先にどうぞ。」

司くんはドアを開けて、私に先に入るよう促した。これが俗に言うレディーファーストってやつか……と思いながら、会議室に入ると、後ろでガチャリ、と言う音がした。司くんがそのまま入ってきているのを見るに、先ほどの音は鍵を閉めた音だろう。ただの話で鍵をかけるなんて、こりゃよっぽど深刻なことが起きたに違いない。どんなことを言われてもびっくりしないようにしなければ。とりあえず会議室にある椅子に座ると、司くんも私の正面に座った。何だろう、泉さんにお菓子の食べ過ぎでキレられたとか?でもそんなことでわざわざ個室まで呼び出すかな?司くんをじっと見つめていると、持ってきていたファイルから書類を一枚取り出して机の上に置いた。

「司くん、何これ……、」
「お姉様、伺いました。お仕事辞められるとか。」
「え?まだ辞めるには至ってないけど……。どうかした?」
「すみません、お姉様が多忙で悩んでいることに気付かず……。確かにお姉様に皆さん最近甘え過ぎだと思う節があります。でも、私はお姉様に今までお世話になってきましたから、退職されると聞いてはい、そうですか、とは思えません。お姉様の今後をお手伝いさせてもらえれば、と思いまして、本日お呼びしたのです。」
「えっ」

あまりのことに思わず声が出た。今後のお手伝い……?お手伝いって、まさか就職とか勉強とかの?そ、そこまでやってくれるの?今まで退職したいなーという私の願望を聞いた知り合いたちの数々を思い出した。司くんのように落ち着いた反応をしている人たちが少なく、なんてできた子なんだろう、とちょっと感動してしまった。

「その書類にお姉様にbestなお仕事先をご紹介しているのでぜひ見ていただければと思いまして……。お勉強とも勿論両立できますよ。」
「え、勉強とも?」

ということはバイトのようなものなのかな。現在学校にはなんとか行けているものの、普通の受験生と比べれば追いついていないと思う。そもそも夢ノ咲の進度も結構早いんだよなぁ。

司くんからもらったら書類を見ると、数枚の書類に文字がびっちりと書かれていた。どうやら契約書のようなものらしい。勤務条件やら勤務先やら。確かに条件は良さそうだ。肝心な内容があんまり分からないけど、何をするのだろう。

「司くん、これ、業務が書いてないけど何をするの?」
「ああ、お姉様はただそこにいるだけで良いのですよ。そこで過ごしていただければ好きなことをしていただいて構いません。」

司くんはニコニコしながらそう言った。……受付みたいなことするってことかな。それにしては概要が不明すぎる。

「今の状況から考慮しても、とってもbestな条件だと思います。何より司はお姉様のお身体が一番ですので、今のままのお姉様を放っておけません。」
「司くん……あ、ありがとう。なんだかゆっくりもできそうだから退職できたらやらせてもらおうかな。」
「!本当ですか!良かったです、では、早速ですが3枚目の書類にsignを。」
「え、もう?」
「はい。お姉様が退職されたと伺うや否や、たくさんのところからscout…ええと、スカウトが来るでしょうから、早めに言質……ではなく契約を取っておこうと思いまして。お姉様は、Noが言えないから心配なのです。他の契約者に取られるんじゃないかって。だから今のうちに約束していただきたいのです。」

司くんは早口でそう語った。それをじっ……と見つめる。そこまで言われて、私は「はーい、OK★」となるタイプでなかった。なぜならたくさんの赤子……もとい厄介なアイドルたちと関わってきたからである。私の中のレーダーが反応した。これは限りなく怪しい。

「司くん。」
「はい!pencilですか?持っておりますのでこちらを」
「じゃなくて、ちょっと二枚目を見ても良いですか?」
「え。」
「契約書の2枚目。見てなかったなと思って。」
「ど、どちらでも構いませんが、先程司がお伝えしたこととほとんど変わりはないですよ?」
「いいから。いいよね?」
「……はい……。」

司くんは分かりやすくシュン……とした。これはもう絶対黒だ。司くん、この機会に乗じて何をお願いしようと思ってたのだろうか……。司くんだったら、基本的には何でも聞くのに。言ってくれたら良いのになぁ、と思いながら2枚目を確認した。

「え。」
「お、お姉様。」
「なんか朱桜司との婚約事項みたいなのが見えるんですけど。」

あまりのことにまたまた驚く。先ほどとは別の意味で。
二枚目を見ると、そこには「この契約を持って朱桜司との婚約を決定したものとする」と書かれている。他にはそれに関する細々としたものが連なっている。

「司くん、これは……。」
「チッ。」
「え。」
「はぁ、上手くいくと思ったのに。残念ですね。Knightsの皆様を出し抜くチャンスだったのですが。」
「司くん、ちょっと。どういうこと?」
「……お姉様、許してください。司は少し焦ってしまったのです。」
「焦りすぎだよ!まだ10代でしょ!!!」
「でもお姉さまは結婚はできますよね……?司はまだ一年は先なので、婚約という形でしか無理なんですけど、それでもお姉様と一緒にいたくて……。」
「可愛い顔してもダメ!!!あのね、はっきり言ってこれセクハラだからね!!!何でこんなことしたの!!!」

さっきまで「なんて出来た子なの……。」とか思ってたのを返して欲しい!とんだ策士ではないか!あー怖、もうちょいで私の将来が決まってしまうところだったよ!司くんは分かりやすく目をウルウルさせたが、もう騙されない!

「何でって……先程言ったと思うんですけど、」
「先程……?」
「お姉様、Noって言えないじゃないですか。」

そう言って怪しく微笑んだ司くんに、私はひぇ……としか返せなかった。