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恋と誤差


その日、オクタヴィネル寮生のたった一言によって、寮に大きな衝撃が走った。

「オレ、小エビちゃんのこと好きなのかもしんない……。」

ポッと頬を染めて照れているフロイド・リーチの側には、作業していた手を止めて彼を見つめる片割れであるジェイド・リーチと、寮長であるアズール・アーシェングロットがいた。二人はパチパチ、と瞬きをする。何を言い出したのかこいつは。またいつもの気まぐれか。それにしては見たこともないような気持ち悪い顔をしているな。二人の思考は、この時は一緒であった。この状況の中で先に口を開いたのはジェイドであった。

「フロイド。今は作業中ですよ。監督生さんのことを思うのは結構ですが、いつもみたいに気まぐれに行動しないでください。」

そう彼を見ることもなく告げた。今、彼は少しイライラしていた。今日はモストロラウンジが忙しく、ただでさえ残業になったというのに、レジの金銭誤差が発覚し、チマチマとレシートを確認するのに時間を費やしていたからだ。魔法がある世界だというのにこのようなところは未だに原始的なのである。彼はテキパキとレシートを仕分けていく。その様子を見ていたアズールも、当然のようにオーナーであるため忙しい。そのため、再び手を動かし始めた。今フロイドの気まぐれに付き合うわけにもいかないのである。小銭が合っているのか確認し、50枚溜まったら束にしていく。その作業を繰り返していた。しかし、フロイドが震えているのをジェイドは見過ごさなかった。いけません!と言って、咄嗟に束になっていないレシートを抑える。すると、バンっとフロイドが机を叩いた。アズールの近くにあったレシートは、その瞬間にバラバラになる。シーン、と静寂に包まれた。

「おい、ちゃんと話聞けよ!ふざけんな!真剣に二人に話したのに!」
「フロイド。貴方今何の時間か分かります?残業ですよ残業。しかも元はと言えば貴方のレジミスでしょう。今日はフロイドがレジ担当ですからね。」
「今仕事の話してねーじゃん!小エビちゃんの話してんじゃん!」
「今必要な話なんですか?僕の自由時間が奪われているのに?大体、学生の店なんですからちょっとのレジミスくらい仕方ないって言ったのに横の守銭奴がブツブツ言うからこんなことしてるんですよ。」
「……おいフロイド。」
「なぁに、アズール。アズールからもジェイドに言ってやってよ!」
「僕が、コツコツとカードで払ったかそうでないか分けたレシートを……!よくも……!」

アズールは半泣きであった。無理もない。誤差の原因が数時間やっていても見当たらなかったのに、集めていたレシートを崩されたからである。アズール自身もイライラが募っていた時にこれだった。そもそも、最近は金銭誤差が多発していた。それもフロイドがレジ担当の時に。基本的に店ではミスをしない奴だったのに。最初に誤差を起こした時は、まさに先程言っていた監督生が店に来た日であり、その時はご機嫌でニコニコしながら接客を行ったため、来た客を怯えさせたのだが、監督生が帰り際にフロイドに何か話しかけて言った後、フロイドは機能が停止した。その日の金銭誤差は本当に酷かった。その後も言わずもがなである。アズールがジェイドに聞いたところ、フロイドは最近ずっと何か考え事をしている、との返答が返ってきたので、何か悩みでも抱えているんだろうか、なんて思っていた日もあった。
しかし、今日の誤差は酷すぎたので、フロイドが悩み相談をしても、全く右から左だった。アズールは、まさか一万マドルも違うなんて、と今日のレジ閉めをして青ざめた。その上、フロイドはどこで間違えたのか全く覚えていない。アズールの目は血走っていた。

「ちょ、ちょっと〜、そんな怒んないでよ、本気で悩んでるんだよ?オレ。」
「……もしかして、最近上の空だったのは監督生さん関連ですか?」
「そう。小エビちゃんのこと、ずーっと考えてたの。」

フロイドが言うには、あの日、ナマエに帰り際声をかけられたそうだ。いつも通りからかってやろう、とまで思っていた。すると、ナマエはフロイドに食事のお礼を伝え、「お仕事ご苦労様です」と、キャンディーを差し出したらしい。その時に、彼女はフロイドに向かって微笑んだ。ピシャーン。何かが落ちる音がした。その後監督生はすぐに帰ったが、フロイドはしばらく硬直したままであった。コエビチャン、エガオ、カワイイと頭の中で何度も繰り返した。フロイドはしばらく胸のモヤモヤと戦った。この感情が何かよく分からなかったのだ。レジ打ちも物凄く間違えた。フロイドは飽き性なので、いつまでもこのモヤモヤに悩まされることにだんだん苛ついてきて、偶然会ったリドルに問いかけた。リドルは内心意味がわからなかったが、彼の今まで読んできた本を頭の中で整理し、その中から概ね当てはまるであろう答えをフロイドに与えた。

「それは恋じゃないかな?」

恋、という言葉が頭の中を駆け巡る。フロイドは、リドルにお礼の一つも言わず、ふらり、と歩き出した。リドルは無礼な態度に顔を真っ赤にして怒っていた。

「ってことがあってね。オレ、小エビちゃんと会うとすっごい嬉しいし、フワフワするし……。今何してるのかなぁってすっごい考えちゃう。はぁ、会いたいなぁ。」
「フロイド……。」
「後男と喋ってたら殺してやろうかって気分になる。」
「フロイド。」
「……つまりずっとナマエさんのことを考えてレジの打ち間違えをしていたと……。」
「そう〜だから確かにオレが悪いけど、小エビちゃんも悪いじゃん?オレばっかり責めないでよ〜。」
「そうですか。じゃあフロイドの恋の悩みが解消されればこの誤差は解決するんですね?」
「え?まぁそうなんじゃない?知らないけど〜。」

アズールはジェイドと目を合わせた。ジェイドはここ最近金銭誤差のせいで、日課のテラリウムが全く出来ていなかったのでストレスが溜まっていた。アズールも同様に、自分の時間が取れていない。しかし、フロイドの悩みと、解決方法がハッキリしているのであれば、答えは決まっていた。




「と、いうわけで、フロイドと付き合ってくれません?」
「何がというわけなんですか?」

翌日、ジェイドの前には、怪訝な顔をしたナマエが立っていた。