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愛の印


「待ちくたびれたぞ人の子よ。」
「突然背後取るのやめない?」

ようやくレオナさんから解放された16時、私はオンボロ寮の前でツノ太郎に捕まった。背後を取るのはたまに行われるので構わない。だが背後から抱きしめられるのは駄目だ。一瞬まじで不審者かと思ってちびりそうになった。声で分かったけれど。ていうか、え?何でいるの?約束の時間は19時だったはずだ。三時間早い。あのディアソムニア寮長が時計を読めないとかあるのか?いやいやまさかな……。

「ツノ太郎、待ち合わせは19時だったはずだけど、どうしたの?」
「どうせ日曜日だから、お前が早く帰ってきて退屈になっているだろうと思って早めに来た。だが、それも思い違いだったようだが。」
「は、はははー。あんまり早いからびっくりしちゃったー。」
「オンボロ寮の狸は、早めに戻っていたようだが?なまえは何をしていた。」

ツノ太郎の声のトーンがだんだん下がってきた。後ろから抱きしめられているから、顔は確認できないけれど、絶対に怒っている。いや、勝手に早く来て勝手に怒ってんじゃん?何のために時間指定したのよ私は。うう、ツノ太郎の息がうなじにかかって妙に恥ずかしい。こうなりそうだったから朝には帰りたいって言ったのに、あのライオンめ。あのレオナさんが、一回だけと、チャラ男もびっくりのテンプレ台詞をのたまったと思えば、しっかり一回を越した。そこまでテンプレにしないで欲しい。おかげで私の足腰は生まれたての小鹿状態である。さらに、今上から大きい体に締め付けられてるので上半身も死んでしまいそうだ。

「ちょ、ツノ太郎痛い痛い!普通に買い物行ってただけだから!」
「買い物?」
「ご飯作ろうと思ったの!ほら食材!アイスとか入ってるから溶けるから、早く寮入ろ?!」
「……ご飯……。」

そう呟くと、ツノ太郎はパッと私の体を離し、寮へ向かった。心なしか嬉しそうだ。気付いたら私が持っていた袋は、ツノ太郎が持っていて、先に寮へ向かって行った。はぁ、危なかった……。まじで怖かった。
部屋に戻って冷蔵庫に食材を入れていると、そ〜っとグリムが近づいてきた。無言でツナ缶を渡す。グリムは私の協力者だった。まず、ツノ太郎が先に入ってグリムと話したというのはツノ太郎の会話から分かったが、あらかじめ私はグリムを買収しておいたのだ。万が一、ツノ太郎がここに来れば、私がサバナクローにいると決して言わぬこと、ハーツラビュルに共に行き、泊まったことを彼に伝えるようにお願いしていた。その対価がこのツナ缶なのだ。さらにもう一つそれを渡す。

「お、おぉ……。こ、これはちょっと値段の高いツナ缶……!」
「グリム、重ね重ね本当にすまないけれど、今夜も頼みますよ。」
「エースんとこ行けば良いんだろ?任せとけ!お前もあんま無理するんじゃねーゾ!」

グリム、このクソモンスターめ……!と何度も思ったことがあったけれど、最近は私とずっと一緒に行動してきたからか、少なくとも私に対する理解が増えてきた気がする。こんな突然のお願い聞いてくれてありがとうな、相棒。別にグリムには別部屋に行ってもらえば良い話なんだけれど、万が一、万が一だ、そういうことになった時にあんまり声を聞かせたくないのである。今日、寮でレオナさんと昼食を取っていた時に、ラギーさんに朝からお盛んですね……って言われて、いっそのこと殺してくれと思うぐらい恥ずかしかった。こんな何も知らない猛獣グリムに、聞かせるわけにはいかないのだ。グリムはいそいそとツナ缶を彼の専用のポーチに入れていた。宿泊の用意であろうか。エースとデュースには何にも言っていないけれど、きっと何とかしてくれるだろう。後でお礼のメッセージを送らなければ。来客用のカップに紅茶を注ぎ、ツノ太郎が待っている談話室のソファまで持って行った。彼は持ってきていたらしい本を読んでいたが、私に気付くと、パタンと本を閉じた。

「…あの狸は?何処かへ行ったようだが」
「グリムは今日もハーツラビュルに行くみたい。」
「そうか。では、二人きりだな。」

そう言うと、ツノ太郎はうっすら微笑んでいた。頬は心なしか赤く染まっている。あ〜顔が良い。そんな可愛らしい反応ができるのであれば、脅しながら告白しないで欲しかったよ、私は……。カップを机に置くと、ツノ太郎はすぐに口につけた。姿勢よくソファに座っている姿は非常に上品で、レオナさんとはまた違う。彼は彼で王族なんだな、と思う瞬間は多々あるけれど。

「……何か考え事をしているな?何だ。」
「へ?!あ、いえ。今からご飯作らなくちゃな〜って思って。」
「ご飯……何を作るんだ?」
「オムレツ。ツノ太郎のお口に合うか分からないけど、作ってくるね。」
「そ、そうか……!」

パァっと喜んでいるツノ太郎を横目に、私はホッと一息ついた。あ、危ねぇ〜〜〜。自分以外のこと考えている時の気付くスピードがえげつない。ツノ太郎と一言二言交わした後、キッチンに向かって使う食材を取り出した。なんとなく、ズボンのポケットに入れている指輪を触る。レオナさんに貰った指輪、どこかのタイミングで棚とかにしまいたいけど、できるかなぁ。


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ついにきた。きてしまった。夜になってお風呂に入った後に二人でいつも通り話していただけなのだが、ツノ太郎が不意に手を繋いできて、嬉しそうにこちらを見つめている。突如訪れる甘い空気、そっと体を寄せるツノ太郎。人の体より少し冷たい彼の体温を感じながら、私は一つのことを考えていた。

この持って行き方……レオナさんとはまた違うな……。

最低だ。そこまで考えて、私はなんて最低な女なんだろうと瞬時に思った。ツノ太郎に抱きしめられることは数回あったし、何だったらレオナさんの部屋に泊まる前日に初キッスまでしてしまっている。しかし、この状況になって、急に頭が冷めてきた。私は何をやっている?二人の男と付き合い、2日連続で二人とAtoZをこなしてしまっているって何?ていうか、まだ1週間も経っていない。早くないか?この人達。いやまぁ成人済みだもんなぁどっちも……。大人からしたら早くないのか?一人でグルグル考え事をしているうちに、ツノ太郎は私の服の間に手を入れ始めた。いけない。こんな人を誑かすような真似をしては。スルスルと動いている彼の手を掴んだ。

「つ、ツノ太郎。」
「……何だ。怖いのか?痛い思いはさせないから安心しろ。力を抜け。」
「あ、あのね、今日はやめない?ホラ、私、明日朝に先生に呼び出されていて早いし、」
「案ずるな。すぐ終わる。」
「い、いや、そういうことじゃないんだけどな、ってツノ太郎、ん、」

ツノ太郎は、全く言うことを聞かず、私に口付けた。ぐちゅ、ぐちゅ、と口内を荒らされ、喋ろうとしていた私の口からは、ふ、ん、としか声が出なかった。ぼーっとしている間に、彼が私のズボンに手を伸ばした瞬間である。

「ッ?!」
「ふっ、つ、ツノ太郎、どうしたの?」
「……ポケットに何を入れている。出せ。」
「……え。」

Q.ポケットに何を入れている?
A.レオナさんに貰った指輪です。
脳内で会話をして、一瞬で顔が青ざめる感覚がした。やばい。何でわかったの?あ、ゴールドだから?妖精さんだから……?妖精って鉄が苦手なんじゃなかったっけ。いや今はそんなこと考えている場合じゃない。ツノ太郎に何か入っているのはバレているから、ここで指輪を出すしかないけど、出して何て言おう。こんな綺麗な指輪がただの指輪なわけがないということは、十数年生きてきた私でも分かる。彼なら尚更であろう。ツノ太郎は、じっと私を見つめ、口を開いた。

「僕はそれに触れられない。おそらく金属だろう。出してくれ。」
「あ、えっと〜……。」
「何故出せない?僕はお前に触れたい。何もやましいことがなければ出せるだろう。何か僕には見せられない物なのか?」

何だろう。バレているわけではないと思うんだけど、浮気を責められている気分だ。実際二股という状況に陥っているんだが。ツノ太郎は、私の首筋に手を伸ばし、すっとなぞった。くすぐったいけれど、私は全く笑うことができなかった。ツウ、と汗が出る。

「できないのであれば僕はお前の首を噛み切る。」

そう言って、口角を上げた。笑った時に、鋭い歯が目につく。レオナさんの歯とまた違う。震える手で、何とかポケットから指輪を取り出した。彼の瞳にそれが映っている。ツノ太郎の目はドロドロに濁っている、気がした。

「指輪?何故お前がこんなものを持っている?」
「……れ、錬金術の授業で、」

口から出まかせだ。実際に錬金術で、アクセサリーを作ったことはあるから、苦しい嘘というわけでもない。

「そうなのか。こんな精巧な物を作れたのか?だとしたらすごい技術だな。禄に魔法も使えない人の子が、こんなものを短期間で作れるのだな。だとしたら優秀な生徒だな、お前は。」
「っ、いや、私じゃなくて、これは授業のサンプルを、貰い、ました……。」
「そうなのか。僕はこんな物見たことないがなぁ……。まぁ良い。なまえ、僕は続きがしたい。それは邪魔だ。床に捨てろ。」
「……え。」
「授業のサンプルで貰っただけだろう?そんなに大事なものなのか?」

正直ツノ太郎が言っていることは全く頭に入ってこないけれど、彼の手がうなじの辺りをなぞるから、私は先ほどの彼の言葉を思い出し、指輪を床に投げた。レオナさん、ごめんなさい。彼はそれを嬉しそうに眺めたと思ったら再び私に口付けをした。呼吸ができないから、ふぅ、ふぅと必死で息をしながら答えていたら、スルリとズボンを脱がされる。しかしそんなことより、私は先ほどから彼が片手で未だにうなじをスリスリしていたのが気になった。ねぇ、指輪投げたよね?

「はぁ、ね、ねぇ、ツノ太郎、くすぐったい、」
「ん?」
「いや、ん?じゃなく」
「お前の首は綺麗だな、こう、痕を付けたくなる。」
「いや、駄目ですよ!絶対付けないでください!」
「何故?」
「な、何故?み、見られるのが恥ずかしいじゃないですか、嫌です、やめてください、」
「人の子は本当に恥ずかしがりだな。交際しているのを隠したいと言うし、こうやって痕を付けるのを恥ずかしがるし……。しかし、それは聞けないな。」

ツノ太郎が口を開ける。それは瞬時の出来事だったけど、その瞬間だけは、スローモーションのように動いていた気がした。
ガブリ、思いっきりうなじに噛みつかれる。痛い。人間では体験できないような痛みに、私は声にならない声が出た。

「これは愛の印だ。夜はまだ長い。これから二人でゆっくり楽しんでいこう。」

つ、詰んだ。
恍惚とした表情を浮かべるツノ太郎を見ながら思った。床で指輪が無情にもキラキラと輝いていた。