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「あの人たちがお互いに付き合ってることを知った日から、一ミリも対抗心を隠してくることなく迫ってきて心がしんどいです。」

ふぅ、とわざとらしく息を吐いたが、目の前のヴィルさんはそれを無視して、ネイルを塗っていた。このヴィル様のリラックスタイムに訪ねてきたので当然の対応であるが、無視するなんてひどい。こっちは大変なんだ。
あの三年の教室から逃げ出した次の日。なんと学校中になまえがマレウスとレオナを誑かしているという噂が回っていた。違う、違う!って言ってもエースには「なまえチャン魔性の女じゃ〜ん」ってずーっと言われるし、デュースには「なまえ、そ、そういうのは駄目だと思うぞ!誠意を見せろ!」って大真面目に言われた。ジャックは何かを察していたのかポンと手を肩に置いてくれた。ありがとうジャック。お前だけはマブダチだ。それに対してセベク、お前だけは許さねぇ。朝から顔を合わせるなり、「不敬だぞ、人間!若様だけに愛情を示せ!!!!」と大声を出してきて私の耳が死んだ。ち、違うよぉって言っても聞く耳を持たない。すれ違うだけでセベクに怒られて、私は本当に参ってしまった。ちなみに一緒に行動してるエースとデュース、グリムの耳も参ってしまっていた。グリムなんてセベクを見ただけで耳をパタリと閉じるようになった。

もっと参ったのは昼食の時である。午前の授業が終わったので、いつも通り一年でご飯を食べようとしたら、教室の前にレオナさんとツノ太郎がいた。仲良くお喋りしてたみたいだから私は遠慮させてもらお、って思ってエースの後ろに隠れながら食堂に向かおうとした私の首根っこをレオナさんは掴んだ。チラッとレオナさんを向けば、見たこともない笑顔を向けていたので、焦ってエースたちを見やれば、なんといつの間にか遠くへ歩いてしまっていた。おい、ジャック!お前も何故行っているんだ!

「なまえ。」
「はい。」
「俺と一緒に飯、食うよな?」
「は、はい。」
「おい。なまえと昼食を取るのは僕だ。なまえは僕の、恋人だからな。お前はどうやら夢を見ているようだが、もう昼も過ぎているのだから夢から覚めたらどうだ?」
「は?妄想癖も大概にしろよトカゲ野郎。なまえと付き合ってんのは俺だ。寝言は寝て言え。」
「ふん、キングスカラーと話していても拉致が明かない。なまえ、お前はどちらといたい?」
「ひぇ……。」

どっちかなんて選べるわけない。だって見てみ?二人の目。あれは"マジの"目だ。ヤがつく職業の人だよ……。目がゴ◯ゴ並みに死んでいる。本音を言うなら私はいつものメンバーで昼食を取りたい。しかしそんなことが不可能なのは、周りが私たち周辺をあからさまに避けているのが目に見えて分かったため、苦渋の決断で二人に挟まれて食堂でご飯を食べた。二人は私にそれぞれ話しかけたが、正直何を話したか全然覚えてないし、二人が話すたびに衝突するので気が気じゃなかった。遠くからケイト先輩が写真を撮っているのが分かる。あの野郎、後で撮影料取ってやる。
しかし悲しいことに、そのような生活は数日、数週間続いてしまっている。朝はレオナさんと(時々ラギーさんと)登校して、昼はレオナさんとツノ太郎とご飯食べて、夜はツノ太郎と散歩して、というルーティンが継続され、プライベートタイムが存在しない。レオナさんは薄々思っていたが束縛がきついので、寮にいる時もずっとスマホで連絡してたし、ツノ太郎は毎日夜にやってきたが、ものすごい嫉妬深いので、レオナさんの匂いがきつい日は荒れ狂って怖かった。ヴィルさんと会っているこの時間は、私がやっと手にした自由時間だった。ヴィルさんは、爪に向かって息を吹きかけた。どうやら魔法で一瞬で乾いたらしく、もう紅茶の入ったカップに手をかけた。

「最近じゃないわよ、最初から気付いてたみたいよ。あいつら。」
「え、そうなんですか。異常に勘が良い気が……そんな頭が回る人たちに捕まって、私この先大丈夫なんでしょうか……。」
「あの時絆されて別れられなかったあんたの負けよ。諦めなさい。」
「そんなぁ。助けてくださいよ。この前オンボロ寮に二人とも来たかと思ったら目の前で口論した挙句、近づいてきて、そのまま三人で……」

あの時の恐ろしい出来事を思い出して青ざめていたら、ヴィルさんも青ざめながら私の口を閉ざした。
あ、ヴィルさん……手もいい匂いなんですね……。

「それ以上はやめなさい。」
「はい。」

ヴィルさんは眉をひそめていた。確かにこんな話聞きたかないだろう。私はあの日、今日が命日なのかな?って思ったけれど、こうやって生きているので案外図太いらしい。ヴィルさんがパッと手を離したので、私はそのままいれてくれた紅茶を飲んだ。アップルティーの香りが心地良い。りんごといえばエペルくんだけど、エペルくんは、「レオナサンと付き合えるなんて、なまえすげぇ!男見る目ある!」って興奮を露わにして言われたので完全に私の敵だった。エペルくん、私の理解者だと思っていたんだけどな。ヴィルさんに言いつけてやる。ぼんやりと考え事をしていた私を他所に、ヴィルさんがえっ、と私の首元を見て目を見開いていた。顔に嫌悪感が現れている。

「うわぁ、すっごい噛み跡じゃない。隠すことなくなってきたからやりたい放題ね。」
「見つかりましたか。」
「なまえ、あんたほんと慣れてきたわね……。」
「しばらくずっとこんな感じですからね……。慣れって怖いですよね。レオナさんも前までしないでって言ったら言うこと聞いてくれたんですけど、最近は全くで……。」
「あいつも焦ってんのね。まぁマレウスも大概だけど。」
「体持つかなぁ……。もう前より会う頻度も増えてるし……。メンタル死んじゃう……。ていうかこんなフラフラしてる女だって分かったのにどうして別れてくれないの……?」

あああ、と頭を抑えて項垂れる。レオナさんもツノ太郎も、確かに何もなければ優しいし、良い人だけれど、二人が絡むと碌な事がない。一緒にいると、二股しているという罪悪感が半端ないから、何かお願いごとをされると断りにくいし、何かにつけて、

「またあいつのところ行くのか?……俺を置いて。」
「僕は誘ってくれないのか?キングスカラーとはいたのに?」

って罪悪感を煽られる。最初はグサっときたが、最近分かってきた。あれはわざとだ。もしかして別れ話の時もわざとだったんでは……?我ながら、自分の流されやすさには目を見張るものがある。
私がうんうん唸っていたら、向かいのソファに座っていたヴィルさんがいつの間にか私の隣に座っていた。頭を撫でられる。

「だいぶんやられてるわね。……助けてあげる方法、一個だけあるけれど。」
「え?!あるんですか?!」
「そう。聞く?」
「はい!」

ヴィルさんが珍しく私を助けてくれようとしている。それだけで気持ちが晴れた。この学園で、レオナさんやツノ太郎に対抗できる人なんていないから、明らかに青ざめている私を見てもみーんな素知らぬ顔だ。学園長も、レオナさんがよく学校に来るので万々歳らしい。これからも頼みますよ、って言われてしまった。
だから、ヴィルさんのような強い魔力を持っている人が助けてくれるなんて、こんな好機を逃すわけにはいかない。

「本当に良い?」
「……は、はい?」

ヴィルさんが念押ししてきたので怖くなってきた。
どっかのタコの先輩のせいで、取引する時は莫大な対価が必要だ、という思考が根付いてしまったので、ヴィルさんがどんな提案をしてくるか怖い。そもそも、レオナさんやツノ太郎に対抗できるような方法なんて、一体どのようなものなのか。考えていたら、ヴィルさんがギュッと私の手を握った。え?てか、なんか、近くないですか?


「アタシ、あなたのこと好き。だから付き合って頂戴。」
「ヴィル、お前もか。」