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終わらない戯言


今日の三限の授業は3年の合同授業での魔法史だった。ヴィルは必要な教科書やノートをまとめて、少し早めに教室へ向かう。何事もギリギリは嫌いだ。焦って用意したって、なにも良いことはない。必ず綻びがあるものである。彼はその信念のもと、早めに授業へ向かうのである。彼が教室に入ると、もう既に着いている生徒が何名か居たが、その中に一人、早く来るのは珍しい生徒がいた。周囲は、彼の席の周りだけ避けており、そこだけやたらと席が空いていた。

(マレウスが早めに教室にいるなんて珍しいわね)

そう思いながら周囲をキョロ、と見回す。どうやら知り合いはまだ来ていないらしい。他の席はマレウスを避けているせいか、混んでいるような印象を受けた。周りがゴチャゴチャしていたら勉強に集中できない、とヴィルはマレウスの後ろの席を選択した。マレウスとは寮長会議で(来ないことが多いとはいえ)顔見知りだったから、周囲のように避ける必要もなかった。だからといって仲良く、なんてこともないが。それはどの寮長もそうである。他の寮長も我が強く、自分の意見を全くねじ曲げない。だから仲良くするなんてことは今後ないだろう。自分のことは棚に上げてそう思うヴィルなのである。

まだまだ授業まで時間がある、とヴィルが教科書を開いた時である。ガラ、と教室の扉が開いたので、なんとなくそちらを見ると、この時間には現れないような人物が現れて目を見開いた。

「おいトカゲ野郎。」

レオナだ。普段はギリギリにラギーが連れて来るか、遅刻して来るかのどちらかだというのに、何故こんな早く着いたのか。そして、彼が教室に入ってくるなり発した言葉によって、一気に教室に緊張感が走った。周りの息を飲む音が聞こえる。ヴィルは何となく内容を察した。つい先日、早朝にやって来た女の顔が思い浮かぶ。なまえはこの前、別れると息巻いていたが、そういえば結局どうなったのだろうか。ヴィルに報告はなかったし、最近彼の前に彼女が現れないので、聞かずじまいでいた。しかし、なまえの話では、彼らはお互いに交際しているのを知らないはずである。何故レオナはわざわざマレウスに構うのか、ヴィルは分からなかった。

「何だ。何しにきたんだ、キングスカラー。その可愛らしい耳が垂れているようだが。何か嫌なことでも?」

マレウスが、口を歪めてニヤリと笑う。どうしてこいつらはわざわざお互いを煽り合うのか。野蛮だわ、とヴィルはため息を吐いた。途端にレオナも、マレウスと同じような表情を浮かべた。ツカツカ、とマレウスの前まで行く。レオナが前に来たところで、マレウスはガタリと立ち上がった。間にあるのは机のみだ。ヴィルが周囲を見れば、やってきたばかりのトレイとケイトが、またかーといった表情で、向かいの席に着いていた。ケイトは思いっきりカメラを向けている。レオナが口を開いた。

「はっ分かってんだろ?お前、なまえに振られたそうじゃねぇか。」
「……はて?何の話だ?僕はお前がなまえに振られたと噂に聞いたのだが?」

先程より教室に緊張感が流れる。お互いが「は?」という顔をしていた。どうやら互いの従者がそう伝えていたらしく、話が違う、といった様子だ。しかし、このままじゃ授業が出来なくなってしまう。この二人のせいで自分を磨く時間が削られるのは嫌だったので、ヴィルも席を立って二人のところへ向かった。ジロ、ケイトを睨めば、ちぇ〜と言いながら携帯をしまう。

「アンタたちまだやってんの?暑苦しいったらありゃしない。やめなさいよいい加減。」

二人はヴィルをチラリ、と見たが、またお互いを睨みだした。このアタシを無視ですって……?!と、頭に血が上っていたヴィルを構うことなく、二人は話を続けた。

「……土曜日はずいぶんとあいつと一緒に居たようだな、キングスカラー。おかげでなまえの体が獣臭くて敵わなかった。背後から術をかけてすぐ消したがな。忌々しい。今すぐなまえの前から消えろ。」
「ハッ。それはこっちの台詞だトカゲ野郎。最近朝にあいつに会うとトカゲ臭くて最悪だ。しょっちゅうマーキングしてるのに可笑しな話だよなぁ?そういえばうちの寮生が夜にオンボロ寮の周りをウロウロしてる不審者を見かけたと言っていたが、その不審者ってお前のことじゃねぇのか。なまえの周りうろつくんじゃねぇ邪魔だ消えろ。」
「そうか、何故夜に寮生がわざわざオンボロ寮周りをうろついているんだ?お前はそれを咎めなかったのか、寮長として怠慢なのでは?それと、僕が別日にオンボロ寮に行くと、何故か当たり一面に防衛魔法がかけてあったが、あれは何だったのか。まぁ僕にはかすり傷一つも付かなかったが。」
「はぁ?お前こそ寮長なのにオンボロ寮ウロウロしてんじゃねーかよ。周りの従者はお前に何も言わないのか?あ、そうか、まず出て行ってることは気付かれてないのか。いっつも会議とか、パーティーとか誘われねぇもんなぁ、嫌われもんのトカゲ野郎はよぉ。ところで、俺があいつにあげた指輪はどうだった?綺麗だったろ?」
「何、やっぱりアンタたち気付いてたわけ。」

ヴィルが重いため息を吐く。思ったよりもなまえは事態をややこしくしてしまったらしい。二人の言葉の応酬に、頭が痛くなった。お互いに頭が良いだけに、言い合いが止まらない。このままだと魔法を使いだしそうな勢いである。ヴィルの一言に、二人は言い合いを止めた。周囲の三年が、ホッと一息をつく。どうかこのまま終わってくれますように、そんな心の内が聞こえてくるようだった。

「何がだ?俺はあいつが流されやすくて馬鹿なのは知っているがまさかトカゲ野郎と無理矢理付き合ってるとか知らねーぞ。」
「僕もあの人の子が愚かで騙されやすいのは知っているが、脅しに屈してキングスカラーとも交際していることは知らない。」
「知ってるじゃないのよ。」

再び流れ出す張り詰めた空気。今入ってきたイデアのヒィ!という悲鳴が教室に響いた。何故こんな時に彼は珍しく教室に来てしまったのか。

「ふざけんな死ね。」
「そこで野垂れ死んでいろ。」
「…こりゃどっちかが連れ去ってエンドじゃないと終わらないわね。」

ヴィルがやれやれ、と頭を抑えて立ち去ろうとすると、ちょっと待て、とレオナが彼を呼び止めた。うんざりした顔でヴィルがレオナの方を見れば、彼はまたニヤリとした顔でこちらを見ていた。

「お前だろ、なまえに妙なこと吹き込んだのは。」
「妙なことって何よ。」
「別れ話だよ。されたんだよこの前。知ってるんだろ?」
「……何のことだか。」
「もうネタは上がってるんだよ。お前もなまえ誑かしてんじゃねぇぞ。」
「……あのねぇ!別れ話したいって言ったのはあの子なの!あの子の意思!なまえの話聞いてればアンタらわがまま放題して……!そりゃあ怠慢な男と傲慢な男だったらアタシの方がいいわね、絶対!そのうちあの子に捨てられるわよ。」
「いやそれは絶対にない。」
「言い切れるのが気持ち悪いわね……。」
「この前の別れ話止めた時に確信した。あいつは俺を捨てねぇ。」
「その執着の仕方やめた方が良いわよ。」
「待てシェーンハイト。」
「何よマレウス。」
「人の子は僕のことで思い悩んでいたんだな?」
「……そうだけど?」
「そうか……そうなのか……僕のことで頭が一杯に……ふふ、ふふふふふ。」

突然笑い出したマレウスに、ヴィルは正直引いてしまっていた。周りの三年ときたら、ケイトは爆笑してまた携帯を手にしているし、ルークは「獅子の君!行け!押すんだ!」と囃し立てている。イデアは何でこんな時に来たんだ早く部屋に戻りたいとブツブツ行っているし、頼みの綱のトレイは、今日は授業ができないかもしれないと判断して自習を始めていた。みんな自分勝手なのである。

「ヴィルさん〜。この前のお礼と報告に来たんです、け、ど……。」

何故今くる。なまえは教室に着いた途端凍りついていた。ヴィルは彼女が入ってくるのを見てさらに頭が痛くなった。最悪だ。三年の合同授業の時間くらい、頭に入れていて欲しい。

「きょ、今日合同授業だったんだぁ〜〜へ、へぇ〜。し、失礼しました!」
「待て人の子よ。」
「うわ、つ、ま、マレウスさん!」
「なまえは、僕に会いに来てくれたのだろう?」
「違うよな、なまえ?この俺に会いに来たんだよな?」
「れ、レオナさん?」
「なまえ、正直に言いなさい。どっちも違いますって。」
「え、ヴィルさん。」
「なまえちゃーん、結局どっちにするのー?」

なまえはケイトの楽しそうな一言に目眩がした。何故二人が言い争いをしているのかも、三年生にこんなに知られているのかも。あんなに頑張って隠していたのに、何故こんなことになっているのか。
結局この騒動を収めたのは、トレインと一緒に入ってきたリリアであった。彼はマレウスの首根っこを掴んで無理やり席に着かせた。レオナもトレインに注意され、渋々席に戻った。なまえはというと、あまりにも帰ってくるのが遅いもんだから、心配したデュースが迎えに来た。しかしデュースは、レオナとマレウスに睨まれてしまって寿命が縮んだ心地がしたのでダッシュで逃げてしまい、なまえもそれを追いかけるように逃げた。

もう終わりだ。なまえは逃げながら涙を流すのであった。