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連れ出される


なまえちんって、影片のこと好きなんだな
好きなんだな、好きなんだな、好きなんだなーー

二兎先輩の言葉が先程からエコーしっぱなしだ。おかげで授業は全く集中できず、先生に当てられたことにも気付かなかった。案の定反省文である。またか。前反省文を書いた時も、みか絡みだったな、そういえば。みかが一緒に登校してる時に泣き出して、遅刻した日のことを思い出す。ちょっと前のことだけど、私には随分前のことに思えた。好き?私が?みかのことを?ありえないな、いや、あってはならないな、そんなこと。

ーもうお師さんと喋らんといて

あってはならないのだ。
頭をブンブンと振ってみかの顔を頭から消す。私が先生から反省文の原稿を受け取って職員室から出ると、友人が待ち構えていた。心配そうに私の顔を見ている。

「なまえちゃん大丈夫?なんか今日ずっと上の空だったけど。」
「ああ、うん…。ごめん、心配かけて。ちょっと考え事してただけ。そしたら先生に怒られてまた反省文だよ〜最悪。」

あはは、と取り繕って笑った。いけない。こうやって考え事をしていると周りに心配をかけてしまう。友人も心配しているし、先生だってぼーっと話を聞く私を怪訝な顔をして見ていたし、両親だって、きっと心配するだろう。顔を合わせることは少ないけれど。それに、きっと、みかだって。
って、違う。みかはしばらく会わないんだ。違う、違う。先生から貰った原稿用紙をギュッと握りしめてしまい、用紙に皺ができてしまった。急いで紙を伸ばして元に戻すが、皺は元に戻らなかった。先生に汚いと怒られてしまう。

「なまえちゃんそういえば最近彼氏とはどうなの?」
「彼氏?」
「ほら、黒髪美少年!」
「え?え、あー。いや彼氏じゃないし。」
「またまたー。一緒に登校してたじゃーん。」
「…いや、もう登校しないよ。」

友人はまだ騒いでいたが、私はもうそれ以上口を開く気になれず、曖昧に返事をした。廊下では五限を知らせる予鈴が鳴り響いていた。




-------


「みょうじ」
「あれ、斎宮先輩。」

放課後、校門に、やたらとフリルの付いた服を着た派手めな人がいるな、と思ったら斎宮先輩だった。相変わらずむすっとした顔をしている。斎宮先輩の笑った顔なんてあんまり見たことないけど、どんな顔するのかな、この人。斎宮先輩は、私をじっと見ていた方思えば、くるりと方向を変え、前を歩き出した。着いて来いってことなのかな、と思ってそのまま後ろを着いていく。何しに来たんだろうって気になったけれど、斎宮先輩に質問責めをするとひどく怒られてしまうので、もうただ黙っていた。


先輩に着いて行くがまま向かった先は、アイドル科の校舎だった。門の所で先輩が守衛のおじさんに喋りかけていたから、たぶん私の入校許可をしてくれたのだろう。アイドル科の校舎は普通科とはまるで違った。お金のかけ方が普通科とは雲泥の差で、途中に謎の瓶とかが置いてあって困惑した。あれ割ったらどうなるんだろう。途中で何人かの人とすれ違ったが、皆好奇の目でこちらを見てきた。今年一人女の子が入ってきたと聞いていたが、それ以外は男子ばかりだからだろう、すれ違う人といつも目が合うので、ちょっと気まずくなって下を向いて歩いた。そのせいで斎宮先輩と歩幅の距離が取れず、「遅いのだよ!」と怒られてしまった。斎宮先輩の足が長いのも悪いと思う。

斎宮先輩に連れてこられたのは手芸部の部室だった。先輩が着くなり椅子に座り編み物を始めた。私は何故ここに連れてこられたか分からず、そのまま棒立ちしていた。先輩はちらりと私を見て、「座りたまえ」と彼の前にある椅子を手で指した。言われた通り腰掛ける。先輩は目の前で大きめの紙を取り出し、じっとそれを見つめた。どうやら人形の服のイメージ図らしい。かなり凝っている。

「君は何か迷っているようだね。」
「え?」
「影片とのことだ。」

先輩は紙を折りたたんで、次は数枚生地を取り出した。黒やグレーなど、暗めの色が中心である。作業を止めることなく告げられた言葉に、思わず顔を顰めた。先輩はそのまま作業を続けた。選んだ生地を型に沿って切っていく。いつだったか、ステージの衣装などは全てお師さんが作っているとみかが教えてくれたっけ。

「迷ってる、って……。」
「君に影片とは恋仲なのだろうと言えば、僕にやめろと言いながらそのままどこかへ行っただろう。」

そう言われてその時のことを思い出した。完全に忘れていたので、顔が青ざめる。かなり失礼な態度をとったのではなかろうか。まさか先輩からみかと付き合っていると誤解されているとは思わず、私も焦ってしまったのだ。みかは先輩が好きなので、先輩にそう思われていればみかの迷惑になる。このままではあの時の二の舞だ。そう思って、先輩を突き放すような態度を取ってしまった。

「あの時は、失礼いたしました!先輩に失礼なことをしてしまって……。」
「ふん、珍しくしおらしかったから気になっただけなのだよ。僕があの程度のことを気にするとでも?」
「いや、でも、冷たい態度を取っちゃったから……。」
「何か気に障ることでもしたのだろうと思ったけれど、僕はそんなものに構ってられない。あの後も作品を作る予定があったからね。確かに多少は苛ついたが、……君が元気がないのは少し気にはなった。」

先輩は切った布をようやく縫い始めた。サイズを見るに、先輩がいつも持ち歩いている人形用だろう。普通の人形より少しサイズが大きい。みかがマド姉って言っていたような。先輩の眼差しは真剣で、こちらから喋りかけるのは憚られた。目線を下に落とす。先輩の作業机は窓際の近くにあり、窓から影が差す。もう夕暮れだ。私は先輩の足元を見ながら、彼から話しかけるのを待つことにした。しばらく無言が続く。

「……影片が」
「……。」
「影片が、今日は全くレッスンが駄目でね。叱ったんだけれど、それでも顔が晴れないから、何があったのか聞いたのだよ。」

ー何かあったのか。
ーなまえちゃんと、その、……何もないです。お師さんごめんなさい、ちゃんと集中します

「まあ僕としては、何かあったからと言ってずっと顔を曇らせられると、僕の作品が乱れるからね。今日は帰れと言った。レッスンは中止するしかない。」
「……。」

先輩は手を止めて私の方を見た。じっと目線が合う。私は何故か目が反らせなかった。

「影片が言わないのなら君に聞くしかない。このままでは僕の作品に支障が出る。」
「何を……」
「ひとまず、君が思っていることを全て言ってもらおう。そうしなければ解決しない。ここ最近の影片を見る限り、君たちはずっと同じラインで悩んでいる気がするからね。」

先輩の言っていることは最もだった。確かにみかとは最近どこか噛み合わない。最近、というか結構前から、ちぐはぐな感じがする。いや、みかは私に合わせようとしてくれているのだろう。それを阻んでいるのは…そこまで考えてブンブンと首を振った。今は余計なことを考えないようにしよう。しかし、今のみかと私の関係は、先輩に迷惑をかけるくらいの域に達しているらしい。先輩はみかとずっと一緒にいる人だから、きっと私より今のみかに詳しいから。ここは先輩のいう通り、私の思っていることを伝えた方が良いだろう。全て、言っていいのだろうか。

「……みかにこのこと言わないでくださいね。」
「ああ。」
「あの、まず前提なんですけど、みかは先輩のことが好きなんですね。」
「は?」