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中学生の時だ。なんとなく不穏な空気がしていたのは、鈍感な俺でも分かっていた。確か、なまえちゃんが俺を避けるようになったのはその頃やったと思う。その時も、彼女は昨日俺に告げた言葉と同じ言葉を投げつけた。あんまりにも一方的すぎて、中学生の俺は確か泣いたんやったっけか。




「うげぇ。」

朝早くから待ちかねていた人がようやく出てきたと思えば、俺の姿を見るなりそう言って顔をしかめた。なまえちゃんは女の子なのだからうげぇなんて汚い言葉あんま使わん方が良いと思う。いや、そういうことを言いにきたわけちゃうくてやな。

「……どういうことなん、昨日の。」
「どうって、あのままですけれど。」

するとなまえちゃんは俺の横をスタスタと素通りしてしまった。いつもやったら俺を置いて行かへんのに、昨日の発言通り一人で学校へ行くつもりらしい。それにちゃんとした理由があるならば俺かて一人で学校へ行くし、別になまえちゃんだって一人で学校行ったらええと思うねん。けど。けどやで。

「俺、昨日の電話、全く納得してないんやけど。」

そう俺が言うと、なまえちゃんはぴく、として止まったかと思えば、また歩き出した。慌てて俺も後を着いて行く。それを分かったのか、なまえちゃんはだいぶと早歩きになった。くう、朝から早歩きはしんどい。なまえちゃんだってそのはずやねんけどなぁ。

「急に何なん。俺と学校行かれへんって言われても、よく分からへん。部活の朝練とか無いやん。なまえちゃん部活入ってへんし。」
「……。」
「朝の読書タイムに間に合わへんからって言うんやったら俺はもっと早く来るよ。早起き、ちょっと苦手やけど頑張って起きるし。」
「……。」
「な、何でさっきから何も言わへんの。俺のこと嫌いになったって言うんやったら、はっきり言ってや。直すから。やから、そんな冷たい態度取らんとって。お願い。」

あ、あかん。泣きそうや。泣いてる場合ちゃうのに。俺、男やのになぁ。それでも、何を言っても聞いてくれそうにないなまえちゃんは、さっさと普通科の棟の方へ行ってしまった。俺はただただなまえちゃんの後ろを着いて行っただけになった。ま、まさか完全に無視されるやなんて。

B組の教室へ向かう途中、俺は昔のことを少し思い出していた。なまえちゃんが俺を避けるようになったのは確か中学2年生の時……やんな、確か。俺が背が伸びだした時やから多分そう。その時期、俺はなまえちゃんに今以上にべったりしてて、登下校も一緒やった。今は登校だけやけど。その時も、なまえちゃんは相変わらず俺のことなんか気にも留めずに過ごしていた。俺は正直なまえちゃんが中学に入ってから可愛くなりだして焦りしかなかったというのに。

「みかって好きな子いないの? 」

しかし、恋のこの字も無さそうななまえちゃんからある日急にこんなことを問われた。そんなこと聞かれるとも思わんかったから、ええ、と狼狽えたことは覚えている。その後、確かなまえちゃんは、最近みんなみかのことかっこいいって言ってるよ!モテ期かな??! と俺を茶化して来た。色気も何もない。でもこれがなまえちゃんらしいなぁと思って笑ってしまったのだ。

「明日から一緒に登校できない。」

あの時も、ある日突然、そう言われるなんて予想にもしていなかった。



そう思い出している間に、B組の教室に着いていた。俺は鞄を置いて机に突っ伏した。早起きをしてなまえちゃんを待っていたからだろう、眠気が急に襲ってきた。

「はぁ、また何か余計なこと考えてるんやろなぁ。どうしたらええんやろう……。」
「余計なこと? 」

俺が上を向くと、なるちゃんが不思議そうに俺を見ている。こんな意味分からん独り言言ったところで、困らせてしまうだけやから適当に濁すと、なるちゃんは不満そうな顔をしていたが、何も触れてこなかった。なるちゃんのこういう所が心地よいと思う。

「そういえばね、昨日なまえちゃんとパフェ食べに行ったのよ。苺パフェ、とても美味しかったからまたみかちゃんも行きましょ。」
「あ、そうなん? 行く行く。……なまえちゃん元気そうやった? 」
「え〜まぁそうね。元気だったかしらね。あ、そういえば変なこと言ってたわよ。」
「変なこと? 」
「そう、確かね〜……。誰かから一心の愛を受けるのは、しんどいとかどうとか……。どういうことなのかしらね? って、みかちゃん、聞いてる? 」


俺は鈍感やから分からんことが多い。それでも、不穏な空気がしていることは何となく理解できた。