×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
嘘をついてみた


カレンダーを見ていて思い出す。
仕事に忙殺されすっかり忘れていたが、そういえば今日はエイプリルフールだ。
普段は仕事ばかりしているけれど、こういうイベント事くらい楽しみたい。しかしこの時間になっても残って仕事をしているのは私くらいだった。もうすっかり暗くなってしまっている。私が嘘をつけるのはこの後会う恋人くらいだろう。
そう思うと悪戯心が芽生えてきた。
どんな嘘をついたら驚いてくれるだろうか。

「ただいま。」
「おかえり、なまえちゃん。」
「あ、来てたの。」

どんな嘘をつこうか考えてちょっとワクワクしながら一人暮らしの自宅へ戻ると、中には既に恋人の薫がいた。今日はちょっと早めに仕事が終わるというのは聞いていたけど、家に先に入っているのには少し驚いた。
部屋の中央にあるローテーブルには、ちょっとした料理が乗っている。

「うわ、ご飯作ってくれたの?ありがとう。」
「ううん、全然。こんなのわけないよ。今日は仕事終わるの珍しく早かったし、お仕事詰めのなまえちゃんにちょっとでもリラックスして欲しかったんだよね。ほら、一緒に食べよ。」

薫は柔らかい笑みを浮かべながら私の後ろに周り、トレンチコートを脱がしてくれた。そのままクローゼットにかける。零さんの世話を焼いているせいか、最近は特に世話焼きになった。薫に「手、洗いなよ〜」と言われたのでそのまま洗面所へ行く。いつのまにか持っていたカバンは彼に取られて、いつもの定位置に置かれた。


薫のご飯は美味しい。最近は寮暮らしをしているのもあって、たまに暇だったら作るらしい。何でも卒なくこなせるのは格好いい。しかし、私の脳内は今別のことで占められていた。エイプリルフール。早く嘘ついて驚かせたい。なんて言おうかな。薫の驚いた顔、ちょっと見てみたいな。ちびちびご飯を食べながらくだらないことばかり考えているのである。お子ちゃまだと笑われるだろう。

「なまえちゃん?何か考え事?仕事で何かあった?」
「あ、いや、うーん。」
「俺で良かったらなんでも聞くからさ、教えて?」

や、優しい…!ちょっと胸が痛む。まさかこんなくだらないことで悩んでるなんてちょっと言えないなぁ。でももうすぐ日付を跨いでしまうし、早めに嘘つかないとただの嘘つきになってしまう。何の使命感でやっているんだと思うが、普段仕事ばっかりしているからこれくらい許して欲しい。
焦って咄嗟に口が滑った。

「あのね、薫。」
「ん?」
「別れて欲し、」
「冗談でも別れて欲しいなんて言わないでね。そんなこと言ったら、俺、なまえちゃんの目の前で死ぬから。」

言い切る前に早口で言われた。

「そうなったらどうなるかなぁ。なまえちゃん、ショックで永遠に恋愛なんてできないだろうね。ていうかバッシング凄そう。もう普通に社会で生きていけないんじゃない?」
「ちょ、薫、」

あまりにも捲し立てられるもんだから半泣きになった。いつも優しい薫から聞いたことのないような責める口調で、とんでもないことを言われた。緊張で汗が滲む。い、今すぐ謝らなければならない。

「ご、ごめん、薫、その、」
「なーんてね!」
「へ。」
「冗談だよ〜!なまえちゃん今日エイプリルフールだからって、楽しみにして嘘つくんじゃないかな〜って思って、嘘ついたら俺も反撃しよってざっと考えてたんだ。どう?俺、演技も結構できるでしょ?」
「う、うそ、あ〜そ、そうなの!もう、び、びっくりしたじゃーん!」

私が薫の背中をバン、と叩く。薫は痛い!と言いながら大袈裟によろけた。それにしても、確かに演技派である。やっぱり綺麗な人の真顔は恐ろしい。

「まぁでも俺は、いつだってそういう気持ちでなまえちゃんを想っているよ。」

そう言って薫は微笑んでいた。