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昔は仕事熱心な彼が好きだった。作曲のために、我を忘れて没頭している彼を見るのが好きだった。けれど、それもいつかは薄れていった。連絡が取れなくなるのも、一緒に会っているときにインスピレーションのままにどこかへ行ってしまうのも、私にはひどく辛いものだった。そんな時に、知り合いになったのが彼だった。寂しい、構って、と言えない私を満たしてくれる人だった。私はただ自分の感情を一時的に満たすためだけに、彼を利用した。

「別れなよ。」

いつだったか、偶然会った瀬名さんにそう言われた。私が酷い顔をしているのに気付いていたらしい。

「レオくんは変わんないよ。なまえだって自分を変えられないでしょ。俺は大事な人が傷つくのも、……傷付けられるのも見たくない。」

瀬名さんは私に対して冷たい目を向けていた。知っているのか、瀬名さんは。私は体が凍ってしまったかのように、固まってしまって何も言えなかった。瀬名さんは、分かりやすく溜息を吐く。その瞬間に、何か言わなくちゃ、と思って口を開いた。

「……ごめんなさい。」
「……何に対して謝ってんの?別に何も言ってないけど。」
「……でも、」
「とにかく俺は、それがお互いのためだと思うよ。それだけ。じゃあね。」

そう言って瀬名さんは、真っ直ぐ私とは逆方向の道へと進んでいった。瀬名さんはいつだって真っ当だ。正しく清い。それが私には苦しくて、レオに誘われても瀬名さんとは会わないようにしていた。レオが、瀬名さんのことを大事に思うのもすごく分かるけど。

果たして、瀬名さんはどこまで知っていたのか。レオにこのことを話したのか。そんなことをぐるぐる一人で考えても、本人たちに聞かないと分からない。今日はレオと話をするって決めたから。

しかし、いざ話すとなると帰路につく足が重くなる。いやだな。全てを話してレオから別れを告げられたらどうしよう。寂しいの、満たして、なんて他の男に言う癖に、結局のところ、レオに突き放されるのが怖いって、どの口が言うのだろう。それでも、私はレオと別れるのは嫌だった。気付けば時刻は8時を過ぎていた。残業したのも相まって、すっかり遅くなってしまった。もしかしたらレオはもう着いているかもしれない。待たせてはいけないから、連絡をしなければ、と思って、携帯を取り出そうとしたが、どこを探しても見当たらなかった。

「……あ、そうだ。家に置いてきちゃったんだった。」

急いでいて充電したまま家を飛び出したことを思い出す。一日中携帯の存在を忘れるほど思い悩んでいたらしい。馬鹿みたいだな、と一人呟いた。

どれだけ歩みを遅くしても、結局家には着いてしまう。はぁ、と小さく溜息を吐く。ここでウジウジしていたって仕方がない。自分が起こしたことは自分で解決しなければ。意を決して、玄関の扉を開いた。

「レオ、ごめん、遅くなって……って、」

急いで玄関に入り、部屋に向かうと、私は目を見開いてしまった。
部屋には誰もいなかったからだ。

「……もしかして急に仕事入ったのかな。」

充電したままだった携帯を確認する。ディスプレイには特に誰からも連絡は入っていなかった。

「やだな……。何かあったのかな。」

でも来るって言ってたし、何かご飯でも作って待っておこう。一人で過ごしているとネガティブなことばかり考えてしまうから、何かをしておかないと。ちょうど鶏肉が余っていたから、唐揚げでも作ろうかな。嵐くんに教えてもらったやり方で、レオが食べて美味しいって言ってたな。。準備していくうちに色々なことを思い出す。思えば、昔は付き合えただけで幸せで、レオが音信不通になっても、私の家に戻ってくるだけで嬉しかったのに。じゅわわ、と油が揚がる音だけが響いていた。

考えているうちに唐揚げはでき、ローテーブルに食器を置く。それでも、レオから連絡が来る兆しがなかった。携帯は虚しくホーム画面を写す。レオと二人で遊んだ時の写真だった。

今日はきっと仕事か何かが入ったのであろう。事故……とかではないだろうし。私は自分の体が無意識に強張っているのを感じた。レオに何かあったとしたら、どうしよう。チラ、と時計を見ると、午後10時半を指していた。急に仕事が入るのはよくあることだけど、そうだとしたら何でこんな日に。

考えだしたら、急に寂しくて仕方がなくなった。ポロ、と涙が零れ落ちる。もしかしたら、レオにとって私ってなんてことない存在なのかもしれない。ただでさえ冷めていたところに、浮気までして、腹を立てて私のワンピースをあんな……。

「……。もう終わりにした方が良いかな……。」

ぼそ、と呟くと、私の声が静かな部屋に響き渡った。その後、静寂に包まれる。それにまた虚しくなる。涙を流したまま、ふっと、あの人のことを考えた。寂しい、寂しい。とにかく誰でも良いから満たして欲しい。そう思って浮気相手のメッセージ画面を開いた瞬間だった。

ポン、とメッセージが更新される。浮気相手からだった。会いたい、と思ってくれているタイミングが一緒のことに、少し喜んだのも束の間、メッセージを読んで目を見開いた。

「え……?」

もう終わりにしよう。今までありがとう。

それはあまりにも突然の連絡だった。
私が昨日送ろうとしていた同様の内容は、入力欄に残ったままであった。