僕は君を連れ去る
「なまえちゃん! 目覚めたのじゃな!」
「なまえ! おいっ〜す、よく寝れた? 」
…どういうことだ。何だかズシリと体が重いと感じ、目を開けると目の前に何故か朔間兄弟がいた。お、おかしいな。確か私は昨日自分の部屋で寝たはずなんだけど。
「お、おはようございます。えっと、つかぬ事をお聞きしますが、私はどうしてここにいるのでしょうか…? というか、ここはどこ…? 」
恐る恐る聞いてみた。大丈夫、きっと何もない。私の勘違いかもしれない。
「んーとね、俺なまえのこと大好きなんだけど兄者も好きなんだって。本当に鬱陶しいよね〜?だからここに連れてきたんだけど〜。」
「もしかして昨日の記憶があやふやになっておるのかのう……。覚えておらんのか? 」
昨日? 一体どういうことだ。私は確かに部屋に戻って休んだはずだ。それで確か、誰かから電話がかかってきて…。
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昨日は確かに私は自分の部屋には戻ったが、すぐに凛月くんから電話がかかってきて、家の前にいるから降りてきて欲しいと言われ、その通りにしたのを思い出した。そこには零先輩と凛月くんが並んで立っていた。珍しいと思った。何があったかは知らないが、彼らは、というか凛月くんは零先輩のことを鬱陶しがっていたから、こんな風に共に行動しているのは本当に稀なことであった。
「どうしたんですか? 」
夜に行動するからといって、正直言うと迷惑だ。まさに寝ようとしてたので、早くベッドに入って休みたい。そう思っていると凛月くんは口を開いた。
「俺さ、なまえのことが好きなんだよね。」
「え???!!」
「凛月、あまりにも急すぎんかのう…。」
そう言って凛月くんは私の腕を握ってきた。
何だそれは。あまりにも急すぎる。
「でも俺は今すぐ答えを聞きたいんだよね。ていうかなまえも俺のこと好きだよね? だっていつも膝枕してくれるし優しいし血、くれるし。」
ちょっと待ってくれ、あまりにも突っ込むところが多すぎてどこから突っ込めばいいか分からない。とりあえずあまりにも早口だった、怖い。
「これ凛月。それは脅しではないかのう。いくらなまえちゃんが我輩のものになるからといって焦りすぎじゃ。のう、なまえちゃん? 」
宥めるように零先輩が言い、反対の手を取る。いや、宥めてねーよ、何だ今の爆弾発言は。私に同意を求めないでくれ、というか同意できない。
「……どうして返事をしてくれないんじゃ。」
零先輩の聞いたこともないような低い声が聞こえてきて、私は真っ青になってしまった。慌てて顔を見ると、ものすごく濁った色の目をしている。やばい変な汗出てきた。
「そういうのも脅しじゃないの〜? 本当にあんたうざいよね。ねぇ、なまえ、早く答えて? なまえだってこんな奴より俺がいいに決まってるよね? なまえは優しいから言えないかもしれないけど、こういう時はすぐに言っていいからね。」
凛月くんの握っていた手が強くなる。痛いし怖い。
このまま放っておいたら余計大変なことになるだろう、何か言うしかない。
「っわ、私は、どちらかを選ぶことなんかできません…。ごめんなさい、お付き合いはできません。」
半泣きで頭を下げた。正直言って二人とも怖い。でも言わないともっとややこしいことになるからやむを得な「つまりなまえちゃんはどちらとも付き合いたいということじゃな? 」
「……ん? 」
零先輩が何かを言っている。ちょっと頭の整理をさせて欲しい。
「どちらか選べないということは両方とも好きということじゃろう? 」
「いやいやいやいや、何言ってるんですか。確かに二人のことは好きですけど、ちゃんと人の話聞いてください。そんなわけあるはずないでしょう。」
「両方がいいとかなまえって本当悪趣味だよね〜?
……まあ、このままなまえが他の誰かのものになるよりはましかもね。」
おかしいな、さっきから二人とも話を聞かないどころか腕を掴む手の力を強めるばかりだ。振り解けない。
「じゃがここで話してても目立つからのう…。凛月、少し抑えててくれ。」
「命令しないでよね、まぁ今回は別にいいけどさ。」
そういうと凛月くんは私の背後に回り、羽交い締めにした。これは本格的にまずい。目の前にはうっとりした顔の零先輩がいた。
「すまんの、ちょっとだけじゃが我慢しておくれ。」
そういうと零先輩は私の口元にハンカチを押し当ててきた。抵抗を試みようにも凛月くんに抑えられていたので、全く歯が立たない。
抵抗も虚しくすぐに私は意識を手放したのだった。
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そうだ、私は零先輩と凛月くんによって無理やり連れてこられたのだった。正直言ってこんなこと思い出したくなかった。とすると、ここは二人の家だろうか。
思い出して頭を抱えていると、二つの影が近づいてくる気配がした。あれ。
「その様子じゃ思い出したようじゃな。じゃあさっそくじゃが三人で愛し合おうぞ! 」
「え、あ、あの」
「なまえが二人がいいって言ったんじゃん? 本当に欲張りだよね〜」
「え、ちょ、話を聞いて」
二人がベッドの上に乗り上げてきて、いよいよ身の危険を感じる。こういう時に仲良くするのはやめてくれ。やばいまた変な汗出てきた。これはもう逃げるしかないだろうと逃げの体勢に入ると、ガチャリ、と何かが私の足の邪魔をした。その物体を見た瞬間に顔が真っ青になった。
「えへへ、いいでしょこれ〜。なまえがここから出ないようにってつけたの。」
「これでもうどこにも逃げられんのう。」
私の足首に鎖が付いているではないか。なんてベタなんだ。
「なまえちゃん、どちらも受け入れてくれるな? 」
有無を言わせないような低い声に、私の喉からは何も発することができなかった。
目の前には怪しい目をした吸血鬼たちが微笑んでいた。
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