×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
ニキにチューしてって言われる


短編のお上品に中指を立ててやりましょうの続き
付き合ってない




「に、ニキく〜ん…。」

慣れ親しんだ幼馴染みの家の玄関に恐る恐る入る。ニキくんはトントンと包丁で野菜を切っていた。彼の後ろ姿しか見えなかったが、ニキくんは切るのをやめる気配はない。私のことも華麗に無視した。トントントン、音が規則的に鳴る。

「ニキくん、ね、ねぇ。こんにちはー。」

トントントントン

「に、ニキさぁ〜ん。聞こえてないのかなぁ〜。」

トントントントントントントントン

駄目だ。ニキくんが無視モードに入っている今、私にできることはない。大人しく靴を脱いで部屋に入った。無視されてるのであれば家に帰ればいいのに、と思うのかもしれないけれど、ニキくんのこの状態を放っておくと、下手しい一ヶ月無視されるのだ。それは困る。私の大好きなご飯…じゃなくてニキくんに無視されるのはキツい。今日は一日ご機嫌取りをするしかないのである。
やがて良い匂いがしてきたかと思うと、ニキくんが食器をカチャリとローテーブルに置いた。チラ、と顔を盗み見たけれど、顔が全く笑っていない。ひぃ、真顔のニキくんは怖い。ニキくんはそのまま私の箸を私の目の前に置く。ああ、こんな時でも箸を置いてくれるニキくん…お母さんみたい…。

「わ、わーいニキくんのご飯ー。おいしそうー。」
「……。」
「ムニエルだ、私、ニキくんのムニエル大好き、うん、美味しい!」
「…………。」
「に、ニキくんどうしたの?私の顔ばっかり見て!一緒に食べようよ!ほら、む、向かい、座ろ?」
「………………。」

て、手強い。ニキくん本当にこういう時は頑固なんだよなぁ…。そもそも何でこんなに怒ってるんだ?心当たりがなさすぎる。私はこんなにニキくんのご飯を美味しそうに食べるし、ニキくんのアイスを天城燐音のように勝手に食べたことはない。最近は。

「に、ニキくん、何怒ってるの…?私バカだから言ってくれないと何が悪かったか分かんないから教えて?」
「……。」
「え〜無視〜?じゃあ勝手に言うよ、この前ニキくんにプリン買ってこなかったこと?それかニキくんに黙って一人で美味しいジュース飲んだこと?それかピーマンが食べたくなくて天城燐音にあげちゃったこと?」
「燐音くんの名前出さないで!」

そういうとニキくんは頬をぷく〜っと膨らませてそっぽを向いてしまった。ええ…18歳がすることか普通…。あざとい。かわいい。しかし、声が聞けたことには少し安心した。これはあと一押しで行けるかもしれない。

「ごめんごめん。もう天城燐音のことは何も言わないから。仲直りしよ?ね?」
「……。」
「あ〜だめか。えっと、じゃあ、私のムニエル、ちょっとだけ食べていいから、って違うよね、はは。」
「…それ作ったの僕っすよ。」
「そ、そうだったそうだった。え〜どうしよ、うーん。あ、じゃ、じゃあ、ハグしてあげよう!おいでニキくん!」

ニキくんに何を言うのが正解か分からず、腕を広げながら意味の分からないことを言ってしまった。これは私とニキくんがもっと小さい時にやっていたことなのだけど。流石にもう成長したし、最近めっきりニキくんがこのモードに入ることもなくなっていたからこんなことしてなかったんだけど。まぁこんなこと、怒ってるのにやるわけないよね、と思っていたら、ぎゅうっとニキくんが私のお腹辺りに手を回した。そのまますぽっとニキくんの顔が私の肩に埋められる。ええ、さっきまで怒っていたのにこれはアリなの?難儀だなぁ…。

「に、ニキくん!仲直りしてくれるの?」
「は?何言ってんすか。するわけないでしょ。僕はまだ怒ってるんっすよ。」
「そ、そんなぁ〜!許してよ、何で怒ってるの?」

私がそう言うと、ニキくんはバッと顔をあげて、じっと私を睨んだ。鼻と鼻がくっつきそうな位置である。

「まだ分からないっすか?」
「す、すみません。心当たりがなくて…。」
「………………燐音くんとチューした。」
「え?」
「燐音くんとチューしたっすよね?!僕が出かけてた間に!ありえない、ほんとありえないっす!僕だってまだしたことないのに!」
「え、いやちょっと待って?!チューって、私されただけだもん!」
「でも隙を見せたなまえちゃんも悪いっす!僕なまえちゃんのこと信じてたから本当にショックっす。だからハグだけで許せるわけないっすよ。」

そういうとさらにギュ〜っと抱きしめる力を強めた。お腹が苦しい。ムニエルが出そう…。ニキくんが言っているのはあの時のことだろうが、あの時のキスは天城燐音が突然してきたことだから、私としてはノーカンだった。ニキくんにもそう言ったはずなんだけど、イマイチ納得していないようである。

「じゃあどうしたら許してくれる?」
「チュー。」
「へ?」
「チューしてください。僕に。」
「え?!」
「できないんっすか?燐音くんとはしたのに?10数年一緒にいる僕より最近知り合った男とはできるのに?へぇーふーんそうなんだぁ。」
「に、ニキくん…。」
「じゃあ別に僕ら仲良くする必要なんてあるっすか?こんな風に料理作ったりとか。燐音くんがいれば良いでしょ?」

そう言われて頭の中が真っ白になる。その後、今までニキくんと過ごしてきた日々が映像のように頭に流れた。嫌だ。そんな冷たいこと言わないで欲しい。そして料理は作って欲しい。ニキくんのご飯がなくなるのは手痛い。あ、いやご飯だけじゃなくて…そう、ニキくんとはちっさい頃から一緒だからそんなこと言われると、途端に参ってしまう。今まで一緒にいたからこそ、突然なくなってしまうのは怖い。私はニキくんの服をキュッと掴んだ。

「そんなこと言わないで、私、ニキくんがいないと困る」
「じゃあやってくれるっすか?」
「う、うん。」

ギュッと目を瞑る。無意識に拳もギュッと握った。顔をニキくんに近づけていく。ドッドッドッ。心臓がうるさい。ふに、ニキくんの唇が触れた。うう、幼馴染なのにこんなことするの変じゃない?そう思って唇を離そうとした瞬間であった。

「む?!、ん、はぁ、んむ、」
「ちゅ、ん、」

ニキくんが私の後頭部をガッと掴んできたと思えば、口内に舌を入れてきた。う、嘘でしょ〜?!いくらなんでも天城燐音にはここまでされてない!ちゅ、ちゅ、と独特なリップ音が聞こえる。逃げられないから、せめてもの抵抗でニキくんの胸を押したけど全く歯が立たない。それどころか、体はニキくんにどんどん押されていき、気づいたら背中が床に付いていた。あれ?おかしくない?

「んむ、ちゅる、はぁ、かわいい、なまえちゃんかわいい。素直でかわいくてバカなところ、僕大好きっす。」
「に、ニキくん。」
「でもそのバカのせいで燐音くんに手出されちゃって。ちゃんと反省しましょうね。」
「あの、反省してます。もう二度と油断しません。」
「え〜説得力ないっすね〜。信じられな〜い。だからー僕が先に、盗られないように。いただきま〜す!」

そういうとニキくんは私に覆いかぶさって再びキスを始めた。手が私の服の下に入ってくる。これは不味い。非常に不味い。バタバタと足を動かしてみるけれど、ちっとも効果がない。ニキくんなんか様子がおかしくて怖い。普段はこんな感じじゃないのにな。ビクともしないニキくんに半ば諦めかけていたその時だった。

「おいニキー!近所に良い酒あったから買ってきたぜー!飲むっしょ飲むっしょ!って、ありゃ?」
「チッ。」
「あ、天城燐音…!」

救世主様だ…!私は天城燐音に期待を込めた目線を送る。ニキくんの極悪な舌打ちは聞き逃してあげよう。

「え、何これ、俺っちも混ざって良い感じ?」
「殺すぞ天城燐音はよ助けやがれください。」