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味見ですむと思うなよ?


ぬこさんからのフリリク
「零さんで気づいたらカレカノで結婚してた話、それで結婚してからあれ?ってなってもう遅い話」

夢主…大学4年生
朔間零…25歳っていうふんわり設定。









「別れたいんだよね」

そうポツリと零した私を、凛月くんはチラリと見たかと思えば、
あ、すみません、コーヒーゼリー一つ、と店員に声をかけた。
私は目の前の水を一飲みする。手にはじわりと汗が滲んでいた。

「何?兄者と喧嘩した?珍しいね。なまえいつもビビって兄者に逆らえないのに。」
「いや、喧嘩とかではなく……常日頃思っていることなんですけど……。」
「え〜相談ってもしかしてそのこと〜???」

途端に凛月くんは顔を顰めた。きっと面倒だと思っているのだろう。
うん、そうだよね。面倒くさいよね。
でも私だって一人で解決できるならしているんだ。
できないからこうやって彼氏の弟であり私の同級生でもある凛月くんに
頼んでいるんだ。
店員がコーヒゼリーと紅茶を持ってきた。
凛月くんは私に目配せをする。彼の目線の方向を見るとスプーンが
数本置いてある。スプーンくらい自分で取れよな、と思ったが、
今は私がお願いしている立場なので、仕方なしに凛月くんにそれを渡した。

「なまえって本当にそういうところお人よしだよね。だから兄者に好いようにされるんだよ。」
「人を使っておいてよくそんなこと言えるな……。」
「なんか言った?」
「いえ、何もありません。」

急にどす黒くなる凛月くんのオーラ。まじ怖ぇ。
そういうところがお兄ちゃんにそっくりだ。
あの時の零さんは本当に怖かったなぁ。やだやだ、嫌なこと思い出しちゃった。

「で、凛月くん。私零さんとお別れしたいんだけど、どうすれば良いと思う?」
「え、絶対無理でしょ。」
「え?」
「絶対無理でしょ」
「聞こえなかったんじゃないよ!!!」

凛月くんはハッと乾いた笑みを浮かべてこちらを見ていた。
明らかに馬鹿にされている。腹が立ったが、今私は相談する立場なので、
心を落ち着けるために紅茶をズズ、と一啜りした。
何を根拠に絶対とかいうのだ。
まぁ確かに零さんは異様にしつこいし、別れ話を全くさせてくれない雰囲気は
あるけれど。

「じゃあ俺帰るから。」
「え?」
「美味しかったよ、コーヒーゼリー……。ありがとー。」
「り、凛月くん?! 何故に帰るの?! 話はまだ終わってないよ?!」
「なまえと二人で会ってんのばれたらそれこそ一番面倒だよ。よりにもよって一番厄介な男と付き合ったよね、あんたも。」
「け、結局凛月くんも零さんの味方か。裏切り者!」
「御馳走様でした」

凛月くんは手をヒラヒラとして店から去っていった。
くそう。お金も置かずに出ていった。
残された私は、目の前の紅茶を飲みながら、零さんとの出会いを思い出していた。


−−−−−−−−−−−−−−−−


零さんとは夢の咲時代からの知り合いであった。
当時、普通の高校生だった私は、突然プロデュース課に転校になり、
何も分からないままアイドル達のプロデュースをしていた。
心細い中、零さんには実にお世話になった。
プロデュースの仕方などの実務的なことから、メンタルケアまで、
零さんには本当に頭が上がらない。
学園に慣れてきた頃には、零さんに恩返ししなければ!という思いで
いっぱいになり、意外と私生活はだらしがない零さんのお世話を率先して行った。
最初は日差しがきつい日に傘を用意したり、お弁当を用意したりと
かわいらしいものであったが、
だんだんとエスカレートしていった。
零さんが体調がすぐれないとかで一緒に棺桶で寝て欲しいと言ってきたり、
休みの日にファンに囲まれないように一緒に買い物に来てほしいと言ってきたりしたからである。
気付いたら毎日零さんと一緒に過ごしていた時、同級生に、
「朔間先輩と付き合っているのか?」と聞かれた。
否定はしたものの、周りには零さんと付き合っているという噂が流れていたらしい、
常にこの質問は絶えなかった。

そんなある日のことである。

「え?今から家ですか?」
「そうなんじゃ〜ちょっと買ってきて欲しい物があってのう……。我輩今手が離せなくって、なまえちゃんに来てもらえると助かるのじゃけど……。」
「分かりました。買いに行きますね。」

零さんにそう言われ、何の疑問も抱かず彼の家まで向かった。
この頃になると、家まで行ってお世話することも増えていたので、
全く不審に思わなかった。

「零さん、お疲れ様です。持って来ましたよ。」
「なまえちゃん、わざわざすまんのう。そこへ座っておくれ。」
「? は、はい。」
「のう、なまえちゃん。」
「あ、あの、零さん。何か近くないですか……?」
「もうそろそろ、良いじゃろ?」


この後はお察しだろう。喰われたのである。
別にお付き合いしていた訳でもないのに、である。
零さんはその後、私に対して迫りに迫り、元々恩も感じていた上に
断る理由もなかったので、彼と付き合うことになった。
我輩の周りはもう皆なまえちゃんと付き合っていると思っておるよ、と
言ってきたのもある。こ、断りずれぇ。


しかし、長い付き合いにはなってきたが、正式に付き合った後から、
零さんの束縛がものすごくきつくなってきた。
男と話すのは駄目、目を合わせるのも駄目、連絡先等は付き合った翌日に
消せと迫られた。断ったら、その後めちゃくちゃに抱かれた。
泣いても全く許してくれなかった。あの時の零さん、まじで怖かったな……。
しかし、私も零さんのことは嫌いではないし、その内飽きて別の女の人の所に行くだろう、と甘く考えていた私が、先程凛月くんに泣きつく羽目になる出来事が起きた。
昨日のことである。


「なまえちゃん、そろそろ結婚してくれないかのう。」

零さんがそう言ってきた。時が止まった。と、同時にドッと汗が噴き出た。
け、結婚だと……?

「最近は仕事も一段落ついてきたし、なまえちゃんもそろそろ大学卒業じゃろ?今はこうやってなまえちゃんが我輩の家に来てくれているわけじゃけど、できればなまえちゃんにはずっとここにいて欲しいと思っているんじゃよ。」
「い、いやぁ、でも零さん。私もう内定先も決まっているし、就職もどこになるか分からないし、ちょっと早いんじゃないかなぁ……なんて……。」
「だから言っておるんじゃろ?」
「え?」
「このままじゃなまえちゃんはどこ行くか分からないし、それじゃったら結婚すれば我輩と離れることはないじゃろ? なまえちゃんも我輩と離れるのは嫌じゃろ?」
「へ?! ま、まぁ仕事だし仕方ないかぁって思うけど」
「は?」
「ひぃ!」
「というか、なまえちゃん、その仕事したいのかえ? 志望動機は?」
「え……い、いや、やりたいことっていうよりは、お金が欲しいからですけど……」
「じゃあ別によくない? 我輩、充分もう稼いでいるし。なまえちゃん養うぐらい余裕じゃよ。」
「で、でも……」
「ていうかなまえちゃんって、我輩のこと好きだよね?」
「え……」
「好きなんじゃよね???」
「は、はい……」
「じゃあ俺とずっと一緒にいたいって思うよな???」
「はい……」

負けた。零さんの圧に負けた。付き合ってから数年経ったが、私は未だに零さんに
一ミリも頭が上がらない。というか逆らえない。逆らったら最後、私にお仕置きと称して恐ろしいことを平気でやってのける。凛月くんが言うように、私はビビりなので、零さんと一回も喧嘩をしたことがなかった。だって怖いんだもん。
しかし私に飽きる様子もなくプロポーズのようなものまでしてきた零さんに、
完全に私は参ってしまった。今まで頭にも浮かばなかった結婚という文字が出てきた今、
手遅れになる前に彼とお別れしたい。しかし別れ話なんてしたらどうなるか分からなかったので、彼が溺愛している凛月くんに頼んだのである。失敗してしまったが……。
あーあ、どうしたらお別れできるかなぁ。
そういえばお母さんに、帰り牛乳を買ってきてって言われていたから、
帰りコンビニに寄って行こう。珍しく零さんに呼び出しされていないし。
いつも呼び出してくるのに今日は全く音沙汰がない。きっと仕事が忙しいんだろう。



「なまえちゃん、おかえり。」


家に帰ると目の前に美しい笑みを浮かべる零さんがいました。泣きたい。
何故か母と父と楽しそうにしている零さんを見ていると、気が遠くなってくる。
母はようやく私に気付いたのだろう、あ、おかえり、と声をかけたと思ったら
すぐに零さんの方向に向きなおした。完全に零さんの虜だ。彼が天性の人たらしでることをすっかり忘れていた。

「な、何故ここに」
「え、挨拶に来たんじゃよ。約束していたじゃろ?」
「や、約束……?」

したか?したのか?約束?まずい、全く記憶にない。


「なまえ、どこ行ってたのよ。今日彼氏が挨拶に来るなんて聞いてないわよ。失礼な子でごめんなさいね、朔間さん。」
「いえいえ、僕がしっかり言ってなかっただけなので。」
「ぼ、僕……?」
「ほ、本当に娘で良いのですか? すごく抜けているところが多い子なんですけど……」
「むしろ、なまえさんがいいです。なまえさんじゃないと駄目なんです。」

まぁまぁ!と喜ぶお母さんと、何やら目をウルウルさせているお父さん。
駄目だ、めちゃくちゃ逃げ出したい。なんだこれ。
その後、零さんは母にどうしても、とねだられて自宅でご飯を食べていった。
母はと言うと、帰りになまえ、送って行きなさい、と死刑宣告を告げた。嫌だとも言えない空気だ。なんとか帰りの時間を延ばしたくてチミチミとご飯を食べていたが、無情にもご飯はどんどん無くなっていった。

家を出たというのに、空気は全く良くならず、むしろどんよりと重かった。
零さんの顔が怖くて見られない。まぁ、さすがの零さんも凛月くんと今日会っていたことは知らないだろうから、それは大丈夫だろうけど……なんか微妙に罪悪感を感じてしまう。零さんはそれを知ってか知らずか、私の手をスルリと握った。
零さんは恋人つなぎが好きなので、当然のようにそれである。そんなところも重い…げふんげふん。零さんが優しい目つきでこちらを見た。うっ何か言われるのだろうか。


「我輩の両親にいつ挨拶に来られそうじゃ?」
「えッ…………。う、うーん。いつでしょう。バイトのシフト次第かなぁ。」
「え? バイトもう辞めてよくない?」
「エッ」
「この前も言ったけど、我輩結構今すぐ結婚したいのじゃけど。稼ぎもあるし問題ないじゃろ? ていうかバイトしてるのも本当はめちゃくちゃ嫌なんじゃけど、今まで我慢してたんじゃよ?」
「さ、さいですか。で、ですがこの前も言いましたけど、勤務地もどこになるか分かりませんし……。」
「いや、内定取り消しすれば良くない? この前も言ったけど、お金の為に働くんじゃったら別に働かなくて良いじゃろ?」
「う……で、でも、ちょっと早いかなぁ、なんて。」
「なまえちゃんの両親はいつでも大丈夫って言ってたし、すごく喜んでおったよ? だから早いところなまえちゃんと結婚したいんじゃよ。」

両親のことを出されると弱い。ここで断ったところで、あんな良い人を逃すなんて!と
責められるに決まってる。零さんはそれ程に人たらしなのである。
私が何も言わずに黙りこくると、零さんの握っている手が強くなり、ミシミシ言い出した。彼は結構な馬鹿力なので痛い。精気まで絞り取られそうだ。

「なまえ」
「ふぁ、ふぁい。」
「返事は?」
「結婚しましょう。」

零さんが、昼に見た凛月くんのようなどす黒いオーラを見せてきたので逆らえなかった。
本当に私はビビりである。結局私は零さんから逃れることなど出来ないのであろうか。
そうこうしている内に彼の家の前まで着いた。

「ふふ、嬉しいのう。これでなまえちゃんは完全に我輩のものじゃ。もう一生外に出なくても良いぞ。」
「は、はは……。さすがにそれはちょっとね……。じゃあ零さん、私はこれで……。」
「待て。」

零さんがさらに私の手を握ってきた。やばい。死ぬ。またミシミシいってません?
さらば私の右手。

「今日、凛月に会っていたみたいだけど、別れたいってどういうことか説明してくれんかのう。」


神様そりゃないぜ。