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中学の頃のクラスメイトだった司くんには何か物を貰ってばかりだ。当初はお菓子や文具など、軽めなもの(とは言っても当時の私からしたらとてつもなく高価なものだけど)だったのだが、私たちが高校生になったあたりから、どんどん値段が高い物になっていった。ポーチ、お財布、カバン、お洋服、靴……。とにかく私じゃ到底買えないような物を贈ったのである。さすがに最近はお断りするようにするのだが、引き下がってくれず、いつも流されてしまう。でもいつまでもこんな感じじゃダメだ、そう思い、今度何か貰う時が来たら断ろう、と常に思っていた。

『レッスンが終わり次第迎えに行くので、普通科の校舎で待っていてください。』

そう携帯に連絡が来ていた。ということは、今日司くんは私に何かをあげようとしている。毎回こうやって連絡が来る時は、たいてい私は何かをもらう日であった。でもそれも今日で終わりだ。何とかして納得して貰えるように説得しないといけない。でないと、あまりにも高いものを貰いすぎて、何だか恐怖みたいなものを感じるのだ。何故かはわからないが、司くんに対して怖いと思うようになってきた。失礼すぎる。友人に対してそんなことを思うなんて。そう思いながら、彼のレッスンが終わるのを待った。


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「みょうじさん、起きてください。大丈夫ですか? 」
「えっ、私、寝てた…? つ、司くん! レッスン終わったの? 」
「はい、終わりましたよ。じゃあ、歩きましょうか。」

ニコニコと笑う司くんは、レッスン終わりで少し汗が滲んでいた。大変だったんだろうな、ますます申し訳ない。司くんが手を出してきたので、私もその手を取る。これが毎回の決まりのようになっていた。私は恥ずかしいから嫌なのだが、以前司くんに何が恥ずかしいのですか? と本当に不思議そうな顔をされて以来、文化の違いだと思い込むようにしている。

空はすっかり暗くなっていた。春が近づいていて、どうも生温い風と、司くんのやけに冷たい手が非常にアンバランスで、どこか不気味だった。すると、不意に司くんが振り向いた。気がつけば、いつも私と司くんが集まっている公園に着いていた。

「ああみょうじさん! 会いたかったです! 」

先ほどまでの紳士的な雰囲気が抜け、私に甘えるように抱きついてくる。司くんはいつだって学校の外を出て二人きりになると、このような感じになった。その変化にも戸惑うばかりである。

「あ、そうだ。今日はみょうじさんに似合うと思いまして、買ってきたんです。受け取ってください。」

司くんが思い出したようにパッと私から体を離し、カバンから縦長の箱を取り出した。今度は一体何を渡すんだろう、何にせよ受け取ることは出来ない。

「あ、あのね、司くん。申し訳ないんだけど、私、これ受け取ることができない。」
「? まだ中も見てないのに何でですか? とりあえず中身を見て欲しいです。」
「な、中身の問題じゃないの。いつもいつも貰ってばかりじゃ駄目だから。高いものとか、まぁ司くんからしたら高くないのかもしれないけど……、本当に申し訳ない気持ちになるっていうか……。私には使えないの。だからごめんなさい。」

そう言って頭を下げた。司くんから貰う物は本当に高価なものばかりだから、申し訳なさすぎて使うこともできなかった。そんな女に貢いでも勿体無いだろう。ずっとそう思い続けていたことをようやく伝えることが出来た。

「……私はみょうじさんに受け取って欲しいのです。それが私の義務みたいなものなのです。」

そう言い放つ司くんは、どこか様子がおかしかった。義務だなんて、一体どうしてそうなるのだろうか。司くんの顔を見るも、彼は微笑んでいるだけで表情が全く読み取れない。

「……受け取ってくださいよ。お願いします。」
「え、そ、そんなのおかしいよ。義務感でそうされてるんだったら、余計に受け取ることなんて出来ない。」
「じゃあ今すぐ私に全額返してくれますか。」

司くんがじっと私を見つめてそう言った。その瞳は濁っていて、底が見えない。ふふふ、と司くんが笑う。怖くて立ちすくんでいた私に、司くんは続けた。

「……もうここまでですか。思っていたより早かったですね。もう少し受け取って貰えるかと思っていました。でもみょうじさん。私が何の代償なしにあなたに施しを与えると思っていたんですか? そんなわけないでしょう。」

司くんが私の両腕を掴み、そのまま公園にある木に体を押し付けられた。ひぃっと声が出た私に、司くんがクツクツと笑う。

「私は貴方にたくさんの施しを与えました。貴方はそれを躊躇いながらも受け取りましたよね? あれ、総額何円くらいなんでしょうね。……みょうじさんには到底払えない金額ですかね。」
「そ、そん、な、わ、わた、し、どうしたら、」

そう混乱してうまく話せない私を、司くんがうっとりしたような瞳で見つめ、頬を撫でる。それが酷く恐ろしく、体が震えた。

「ねぇ、みょうじさん。私は貴方がずっと欲しくて欲しくてたまらなかったんです。知り合ってからずっとです。私のものになってください。それが私の施しの対価です。それが出来ないのなら今すぐ物を、もしくはお金で、返してください。さぁ、早く答えてください。」

もしかして司くんはこれを狙っていたのだろうか。いずれにせよ、私に選択肢は残っていない。今すぐだなんて、そんな、無理な話だった。

「みょうじさん、私のものになりますか。」

そう強く言ってきた司くんの言葉を断ることなんて出来ず、力なく頷く。司くんは、恍惚とした表情を浮かべ、私の唇をなぞり、そしてそれを彼の唇で塞いできた。すぐに離れ、満足そうに、

「みょうじさん。いや、なまえさん。今から私の家に来てくれませんか? ……良いですよね。」

そう言った。疑問符を浮かべながらも、彼の力強い腕に選択肢はなかった。私はもう逃げられないことを悟ったのだった。