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沖田総司side
陽が中天に上るころ。
土方さんが、以前風間に会ったという宿屋街を中心に捜索し、ようやく御所の北、薩摩藩邸近くの屋敷に風間らが逗留していることを突き止めた。
旗本屋敷のように広壮な建物群の、各門を監察方に見張らせる。
表門だけは、僕達を迎え入れるように開いていた。
「副長、ここはやはり薩摩の協力者である風間の屋敷のようです。関係者からおおよその見取り図を書かせました」
山崎君が広げた見取り図をみんなで注視する。
一君が見取り図の中央を指さして発言した。
「香耶が軟禁されているとすれば中央か奥の御殿と思われます」
「人の気配が感じられないから、家臣用の長屋や蔵はきっとカラだね」
僕もそれに付言する。
八木邸と前川邸を足したくらいの広さだ。通いの使用人が数人いるというだけのこの屋敷は、寂寞としてうら寂しい。風間がひとりで暮らすには広すぎだよこれ。
土方さんは一つうなずいて、それぞれに指示を出した。
「斎藤と平助、それから雪村は裏門に回れ。山崎は退路をおさえろ。俺と総司は表門からだ」
「はい!」
「あれ、土方さんと僕は正々堂々討ち入りですか?」
「表は開いてんだ。入ってやろうじゃねえか。大体、風間は俺たちと勝負して、香耶を俺たちの目の前で奪いたいんだろ」
言って人の気配の無い表門に視線を移す。
皆で風間の屋敷を仰ぐと、千鶴ちゃんがふと首をかしげた。
「でもどうして風間さんはそんなことを…」
「そうだよな。わざわざ取り返しに来い、なんてさ。黙ってさらっていきゃあいいのに」
「……もしかしたら風間は、香耶さんを連れて行くためにどうしても彼女を納得させたいのかもしれない」
僕のその見解に、一君がいぶかしげに返す。
「雪村のときは、同意を必要としないと言っていたが」
「香耶には本気ってことかもしれねえな…」
本気……本気で、香耶さんを欲しいと思っている……本気で、好きになって…?
「だからって、こんなこと許されるはずありません!」
「だよな。俺たちで絶対香耶を助けようぜ!」
千鶴ちゃんの強い声音に、平助君やみんながうなずいた。
そうだ。その通りだね。
香耶さん、待ってて……。
そんな僕達の様子を、外から隠れてうかがう者がいたことに、僕はまだ気付いていなかった。
外に待機する監察方の隊士と千鶴ちゃんが伝令として走り回る。
裏門、塀垣からの隠密侵入と示し合わせ、僕と土方さんは、屋敷の玄関戸を蹴破った。
「御用改めだ! 神妙にしやがれ風間千景ぇ!!」
「僕達から盗んだものを、返してもらうよ!」
僕達は、走り出した。
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