59

沖田総司side



気が付くと、そこは屯所の広間だった。

「総司!」

「あれ、戻ってきた」

土方さんの鋭い声音で、夢から覚めたような心地がした。
もう闇の粒も、風の音も、それから“とらんぷ”も、ない。

でも、よかった。
僕は“彼”のことも覚えてるし、香耶さんたちの事だってちゃんと思い出せる。


「土方さん、山南さんは? 香耶さんは、戻ってきてるんですか?」

「……いや、お前だけだ。何もねえところから急に現れやがった」

僕しか帰ってきてない……?

「山南さんと香耶はどこ行った?」

「……分かりません」

すっと背筋が冷える。
それじゃあ、みんな消えて、僕だけしか帰ってこられなかったって事……?
そんな……

そう、僕が愕然としているところに…



「ぁぁぁああああっぶなあい!!!」

「!?」

「なっ!? てめえら!!」

香耶さんと千鶴ちゃんが空中からいきなり現れて、土方さんの上にどさどさと落下した。



「ちづるちゃ、おもい」

「きゃあ香耶さんごめんなさい!」

「てめえらふたりともさっさとどけ!」

「香耶さん、いつまでも土方さんにくっついてると変態が移っちゃうよ」

「総司てめえ、どういう意味だ!!」

重なり合って団子になってる香耶さんたちを見て、僕は安堵した。
なんだ、よかった。時間差で帰ってくるんだ。

「じゃあ山南さんたちも、もうすぐ帰ってくるんだね」

「そうだね……たぶん」

たぶん?

香耶さんは僕から視線を逸らした。

「ゼロもいるし、大丈夫だと思う。敬助君しだいだけれど」

「はっきりしねえ物言いだな。山南さんは無事なのか、無事じゃねえのか?」



ごとん。



「あ、」

「あぁ?」

急な物音に全員がそちらを振り返った。



「……おや、ここは屯所じゃないですか」

「山南さん!?」

そこにいたのは、なぜかぼろぼろの着物を着た山南さんと。



『あー、やっと帰ってこられたんですね。香耶さんお久しぶりですぅ!!』

「うわぁ。ゼロなの? 可愛くなっちゃって」

こぶし大の大きさの、埃の塊みたいになって、宙を飛び回るゼロ君(たぶん)だった。



「…何というか……もうあんなところは二度と行きたくないですね」

『あはは同感です。僕もだいぶ力を失ってしまいました』

山南さんとゼロ君はふたりして苦笑いをこぼす。
…ていうかゼロ君は表情見えないんだけど。

「なんかゼロ君、ごみみたいだよね」

「あ、わかるわかる。なんか拾って捨てたくなるよね」

『おふたりともひどいですぅ!! 僕だって好きでこんな姿になったんじゃないんですから!』

いじり甲斐も増している。
土方さんはうるさい外野を無視して山南さんに向き直った。

「で、どこ行ってたんだ?」

「さぁ、どこだったんでしょう。私たちは“試練の路”などと呼んでいましたが…」

「敬助君とゼロが行っていたところは、私や千鶴ちゃんや総司君が行き着いた、過去や未来の世界じゃあなくて、別の場所だよ。簡単に言うと、人間が不老不死になるための特別な所に行ってたんだ」

「「不老不死!?」」

香耶さんの説明にみんなが驚いた。

「不老不死ってのは、あれか。歳をとらねえし殺しても死なねえってやつのことだろ?」

「そうだね。新八君の認識で間違っていない。
……ただ、私たちの場合の不老不死とは、老化にともなう老衰死…いわゆる自然死や老衰に起因する病死 にはならないという意味だ。だから私だって風邪くらい引くし、首や心臓を斬られたら死んじゃうよ」

「けどお前、怪我はすぐ治るんだろ?」

「怪我がすぐ治るのは血の呪いのせいだよ。不老不死とは無関係」

「あー分かった分かった。今更お前が何者だとか聞いたところで、俺たちゃもう驚かねえぞ」

「はは、たしかにね」

香耶さんが言わないでよ。

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