39

沖田総司side



廊下を歩いていると、誰かの話し声が聞こえて足を止めた。

香耶さんと、男の声。その声の主には思い当たる奴がいた。
僕は香耶さんの部屋がある庭沿いの縁側へと、走って廊下の角をまがった。


そこで見たのは 香耶さんと唇を重ねる風間の姿だった。


その光景に思わず僕は硬直する。
香耶さんを抱きこんで無理やり口づけをする風間は、僕に視線だけをよこして、ほくそ笑んだ…ように見えた。

一気にはらわたが煮えくり返る。

刀を抜いて、風間を殺すつもりで刃を振るった。
頭に血が上っていても、香耶さんに当てるなんて馬鹿なまねはしない。
けれど風間はそれを易々と避けて、庭に降り立った。

僕は香耶さんの腕を掴んで部屋の奥に突き飛ばす。
そして部屋の前に立ちふさがって、風間に刀を向けた。


「今日は確認に来ただけだ」

「僕が許すとでも思ってるの?」

「貴様では俺に勝てまい」

その言葉に僕は奥歯をかみしめた。
思い出すのは池田屋のとき。香耶さんの助けがなければ、いま僕はここに立つことすらできなかったかもしれなかった。

「総司君……」

香耶さんが僕の着物を掴んで、首を横に振った。
僕だって少し冷静になって考えれば分かる。今は風間の遊びに付き合って深追いするべきじゃない。
それに香耶さんは、以前風間を死なせたくないと言ってた。


でも………


鼻で笑う風間。僕を止める香耶さん。僕は苛立ってしょうがなかった。
だから僕は香耶さんの手を振りほどき、床を蹴って庭に飛び出した。

車構えで踏み込んで切り上げると、さすがの風間も刀を抜いて受け止める。
それを巻き払われて、少し間合いを取って胴を狙った。
これを風間は打ち払って、袈裟懸けに振りかぶる。
僕も打ち落とすつもりで逆八相に構えた。



きぃん!!

「「!!?」」

その一瞬で、ふたりの間に香耶さんが割って入ってきた。
香耶さんは 風間の刀を“狂桜”で受け流し、僕の刀は鍔元を素手で握りこんで止めていた。
双方驚愕して互いに刀を引いた。

香耶さんの掌は切れて血が出ていたけれど、指を切り落としたりしてはいないみたい。よかった。

「香耶さ…」

しかし、僕が香耶さんに手を伸ばしたところで、その手が止まった。


彼女の手から零れ落ちる鮮血が、地面にこつんと音を立てて転がったから。
夕日を浴びて、きらきらと光る黄金になって。


え? え、何これ?
血が、黄金になった?


地面に転がる黄金の粒から 彼女の顔へと視線を跳ね上げる。
香耶さんは少し哀しそうな表情で、僕の反応を見ていた。

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