37
月神香耶side
「おはよ、香耶さん」
ちぅぅぅぅ〜
「んむぅぅ!?」
目が覚めると、総司君の口付けが振ってきた。
「ここは………私の部屋?」
私と千鶴ちゃんの部屋で間違いはない。
……あれ? 前にもこんなことがあったような気がするな。
「総司君、私 何日寝てた?」
「丸一日は寝てたね」
んん?
敗残兵の追討は?
「新選組は今頃大阪方面に向かっているはずでは…」
「そうだね。向かってるね」
「何で総司君がここにいるのか…訊いてもいい、かな」
何とはなしに怒気を纏う総司君にじりじりと詰め寄られて、声を呑んだ。
「香耶さんのせいでここにいるんだよ」
わたしのせい?
「……はぁ。わかってるのかな? 君が血まみれで屯所の外に倒れてたのを見たとき、こっちはほんとに心臓が止まるかと思ったんだけど。僕言ったよね? 無茶しないでって。命を大切にしてって。
なのにあんなになるまで…っ、君は何やってるんだよ!!」
「そ…じくん」
総司君が私に向かって怒鳴るのは初めてだった。
彼はうつむいて私の寝ている布団の上にぽすんと頭を乗せた。
「………」
「……ごめん」
私は総司君の背中にそっと手を置いて、するすると撫でた。
声を荒げたときに見えた彼の顔が、泣きそうに歪んでいたから。
「………聞いたよ。あの血は、六角獄に戻らなかった囚人達を斬ってきたからなんでしょ?」
「…うん」
私は気まずさから視線をそらした。しかし顔を伏せている彼からは見えなかっただろう。
本当は囚人達に逃走の意思があったかなんて知らないまま、全員を問答無用で殺してきた。彼らを生かしたままにしておくと、いずれ出所または脱走し、敵となって私の知らないシナリオを引き起こす可能性もあったから。
けれど総司君には本当のことを言いたくなかった。
あの強引で残酷なやり方を、軽蔑されるのが嫌で。
「疲れて寝てただけだったんだけど、驚かせてしまったみたいでごめん。それから 心配させて、ごめんね」
私の言葉に総司君は、すっと顔を上げた。
「……僕こそごめん。君のこと守るって言ったのに。守られてばっかりで」
言って、彼は縋るように私を抱きしめた。
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