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(BASARA)竹中半兵衛side



盟主明月と北条のお膝元である小田原城下は、大層平和で気候も良く、すごしやすい。
戦の影のない町は、人々の活気に沸いていた。



「半兵衛様、香耶様から文が来ておりますが」

「おや、山南君はいないのかい? なら仕方ないね。僕が開けよう」

香耶の婆娑羅研究蔵で読み物をしていた僕のもとに、三成君が手紙を持ってやってきた。
この手紙は、香耶が道中から無事を知らせるためにこの月神家へ送られてきたものだろう。

「香耶様はつつがなくおいでのようですね」

「まだ出立して間がないからね。つつがなくては困る」

彼女になにかあれば、北条や豊臣はもちろん、織田・徳川・今川の国主たちが動くのだから。

「三成君、君も本当は香耶と共に行きたかったのだろう?」

「……いえ。私には私の役目がございますので」

「ふふ。己を偽らなくていいのに」

他愛もなく会話を交わしながら手紙を開く。
中の文字に目を通し、僕は眉をしかめた。



「……? 香耶様の身になにかあったのですか」

「いや……そういうことではないけれど」



それ以前の問題だ。
読めない。



「あれ、母屋にいないから出かけたのかと思った」

そのとき、ちょうど重虎君が研究蔵へと顔を覗かせた。

「やあ、おかえり重虎君。北条氏政公は健在かい?」

「もう元気元気。あのひとあと百年は生きそうだよ」

重虎君はきらきらと冷気を放つ春霞キセルを懐から出して、手元でくるりと回して見せた。氷の婆娑羅を補充させてもらってきたようだ。

もとは香耶が真夏の小田原で空調が欲しいからと作成した道具なだけあって、本来の目的に使用するぶんにはすごぶる性能がいい。すこし蒸し暑かった研究蔵に、さらりと涼しい風がいきわたった。
実はこれ、小田原城城下町の婆娑羅屋に少し置かせてもらっているらしい。けれどある程度強力な氷の婆娑羅者が身近にいなければ補充できず使い捨ての状態になってしまううえ、量産など出来るはずもなく値段も割高でまだまだ改良の余地あり。と、香耶はさらに研究を続けていた。



「そうだ、重虎君。香耶から手紙がきてるんだけど」

「え、ほんと? 俺も見たい」

再び畳んだ文を重虎君の手に渡す。三成君の視線がいぶかしげにそれを追っていて、少し笑ってしまった。

「うわぁ……香耶の字、あいかわらず独特だなぁ。竹中さん、これ読めた?」

「いや。出来れば解読してくれるとありがたい」

「やっぱり」

彼女の文字は、下手なんてものじゃない。もはや暗号の域だ。

苦笑した重虎君に、香耶からの手紙の内容を教えてもらう。
どうやら甲斐の地で武田屋敷を訪問し、婆娑羅武器の依頼を受けたことが喜々として書かれてあるらしい。こちらの世の信玄公がどうだ、真田幸村がこうだ、と。甲斐ではずいぶんと楽しい思い出を作ってきたようだ。



それを聞いた僕の感想は、こうだ。

……よし。僕も香耶からの文を読めるようになって見せよう。

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