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月神香耶side



「やあやあこちらの世界の半兵衛さん、あなたの保護者を連れてきたよ」

「半兵衛!」

「……秀吉、」



感動の再会。

というほどのものでもなく、布団から身を起こしていた竹中さんは、驚きに目を見開いたと思ったら大仰にため息をついて肩を落とした。
まぁ彼にしてみれば、半兵衛君にぶっ飛ばされて意識を失い、目が覚めたらこの状況、だもんねぇ。

しかしこちらは竹中さんが眠ってるあいだにいろんなことがあったのだ。……長い一日だった。



「香耶殿、ご無事のお帰りなによりでございます」

「幸村ー! 会いたかったよ! たった半日会えなかっただけなのに君という癒しがこんなにも懐かしいわ」

やわらかな笑みで出迎えてくれた幸村に飛びついて、逞しい腕を堪能していると「私もお会いしとうございました」と切り返され笑ってしまう。


「随分いろいろあったみたいですねぇ。まさか香耶が本当にあの豊臣秀吉を連れて帰ってくるとは思いませんでしたよ」

「敬助君。同盟もしたよ。私がんばった。すごくがんばった」

「はいはい。よくやりました」

敬助君は褒め方がずさんすぎる……



私が幸村と敬助君、それから佐吉君もまじえて大坂での土産話を語っているとき、豊臣さんと半兵衛君も竹中さんに事情を説明してくれた。

「月神軍と同盟か……秀吉は本当にそれでいいのかい?」

「ああ。今は事を急くべきではない。利もある」

「織田、徳川、月神、そして豊臣が手を組めば周辺諸国は簡単には手が出せないだろうね」

周辺諸国が私たちを恐れ同盟を申し入れてくれればいいのだけど。そうすれば、こちらの半兵衛君の言うとおり、のち十年単位で戦を抑えられる。
私は難しい顔をして唸る竹中さんの前に座った。



「その代わり僕を月神に預け監視しようというのか」

「いや、そう受取られるかも知んないけど、本当の目的は竹中さんの治療だからね? まぁ君が望むなら大坂に帰ってもいいし、強制はしないよ」

「それはならん。半兵衛が病を治すまで俺はいくらでも待ち続けよう。それまで明月に大坂も日ノ本の命運も預けると決めた」

豊臣さんの言葉には、竹中さんも私も顔をゆがめた。

「だからただの一般人の私に日ノ本の命運を預けられても……ああもう! こうなったら竹中さんの病が治った暁には、日ノ本の命運とやら、君らにのしつけて返上してやるよ!」

「……まいったね。秀吉にそこまで言わせるとは」

半ばやけくそな私とは対照的に、息を吐きながら呟いた竹中さんの声は、笑いを含んでいて穏やかだった。



「織田を下した月神の総大将が、こんな変な人間だとは思わなかったよ」

「どういう意味だ」

「喧嘩を売ってるわけじゃないんだ。ただ君から見たこの国の有り様に興味がある」

秀吉に死病を移すわけにもいかないし、と竹中さんはあらためて私に身体を向け、深く頭を下げたのだ。



「病を治すためならどんなことでも協力しよう。これからよろしく頼む、香耶」

「……うん」

「でももし病が悪化し死ぬことがあっても、手を尽くしてくれる君に感謝こそすれ恨むことなどないと約束する」

「かまわないよ。なにか未練があったほうが、きっと長く生きられるもの」

真摯な表情の竹中さんからは、並々ならぬ覚悟が伝わってきた。

最初は命を狙われて、巻き込まれて、それに対応していくうちに月神の名が一人歩きしてこんなことになってしまったけど。




「ま、香耶なら大丈夫だと思うけど」

「半兵衛君…その無責任な発言はどこからくるのさ」

「だって香耶のことはおれ達が守るし」

「……っ」



守ると。守りたいと思う気持ちは、いつも理不尽を凌駕して突き進んでいくんだ。



「香耶についていくと決めた時点で諦めはついていますとも」

「香耶殿は香耶殿の望むままでいてください」

「もう……ほんとに好き勝手するからね」

「今更だよ。そんなこと」

みんなの覚悟には、私の覚悟と行動をもって報いる。
それが私の、この世界での生き方と心得よう。



※次頁から数年後。

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