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「行ってらっしゃいませ。お嬢様。」

ふう、と照は息をはく。これで今日のバイトは終了だ。更衣室で制服から私服に着替えると、コケコッコーとメールの着信音が鳴った。もしかすると、とすぐにメールを開いたがただのメルマガだった。ちなみに以前付き合いで行った焼肉屋のだ。照は感情任せにボタンを押してそれを削除した。

「何か気に入らないことでもありました?お嬢様。」
「優その呼び方止めて。仕事は終わったでしょ。それに私はお嬢様じゃない。」
「女の子は皆敬うべき相手だよ。私にとって。」
「……よくそういうこと真顔で言えるね。」
「うん、この店で働く仲間にそんなに真面目にどん引かれたくはないかな、私も。」

優はこの男装執事喫茶「fairy tale」を紹介してくれた、大学での友人だ。ちなみにこの店での人気No.1でもある。男装好きで、本人曰く「なんかビビっときた」らしい。
女の子に尽くして結構いい時給で制服が手袋付きのこのバイトは照にとって天職で、紹介してくれた優には頭が上がらなかった。
フフッと笑う優は照の横に並び着替え始める。

「ひょっとして、男?」
「ちっ違う!」

否定するも、慣れない色恋の話につい吃ってしまった。

「私の直感をナメるな。あんた最近バイト終わったらすぐ端末見てるじゃないか。もの凄い勢いで。」
「……私ってそんなにわかりやすいの?」

最近よく隠し事がばれる。端末をバックにしまい、荷物を片しながら聞く。

「うん。顔によく出てるよ。すぐにわかる。」

即答されたことに若干へこんだ。

お先に失礼します、と店を出たところで、

「それにしても、照にもついに春が来たのかー。進展あったら教えなよ?」

と優が言った。

「違うってば!しつこい!!」
「駅まで送ろうか?」
「優マジ紳士大好き!でも大丈夫ー!」
「そう?迷子にならない?」
「子供か私は!じゃあまた明日ー!」

そう言って照は優と反対の方向に駆けて行った。



*



全く優は心配性だなぁ、と人通りの少ない暗い道を少し歩いてくす、と笑ってしまった。優は優しい。一言様にそっくりだ。
だからこそ、彼女は巻き込めない。
足を止め、グローブを外し、後ろの気配にため息をついた。

「ため息なんてついてどうしたんだい、おにーさん。」

背後から知らない男に話かけられた。もう一度ため息をつきたくなった。

「最近変な噂に釣られた奴らが夜な夜な付いてくるんですよ。もうしつこくて困ってるんです。」
「それはそれは。ですがあなたにも襲われる心当たりは、ございませんかっ!」

背を向けたまま話す照に油断したのかムカついたのか元々そのつもりだったのか、男はそのまま照にバットで殴り掛かってきた。



*



数日前、バーHOMRAにてあの人もとい草薙出雲の名前を知れたは良いが、照はそれ以来あそこには全く行っていなかった。
バイトと大学が忙しいというのもあったが、それ以上の理由もあった。



*



「あなた達みたいなのがいるから行けないんじゃないですか。」

死屍累々。照の周囲は今まさにその言葉が相応しかった。
男のバットを避けた後、照を男達が囲んでいた。
20人弱といったところだろうか。最初の奴の仲間だろう。だが照は女1人に情けない、と思っただけだった。向こうは勝手に照を男と勘違いしているようだったが。それに実際にそれでもストレインである彼女には足りなかった。



*



そもそも照は相手に触れる事でその相手の五感に干渉する、という能力のストレインだ。触れるだけで、相手の五感を消したり共有できる。(300m位なら遠隔操作もできる。)
ちなみに発動条件には彼女の主からの力、不可視の手(読者的にわかりやすく言えばクロの使っている能力)で接触することも含まれ、それを考慮するとかなり範囲の広い能力だ。
視覚を突然消すだけで、常人には十分な恐怖や混乱になる。後は少しぶん殴れば簡単に気絶してくれる。勿論能力の解除は忘れない。照の能力は永続性のあるものなのだ。
勿論欠点は存在するし、ストレインとしての戦闘能力は高くはないが、対一般人用としては充分強力なものだ。



*



「がっ。」

照は一人だけ残しておいた男の胸倉を掴み壁に叩き付ける。そいつは男達の中で命令したりと、一番影響力を持っているようだった奴だ。

「ねぇ、あんたが親玉?」
「ぐっ……ちげー、よ。」
「アレ、そうなの?ハズレだったか……。じゃあ誰?」
「……俺ら、は星竜会のもん、だ。」
「何それ、ヤクザ?あと場所は?事務所的なの、あるんだろ。」

男は黙ったまま話さなかった。

「だんまり?ま、いいや。ありがと。」
「かはっ。」

掴んでいた手を放し男を地面に落とす。

「……テメー自分がケンカ売った奴の事すら知らねーのか。」
「生憎、そういうのには興味がないものでね。」

服に付いた土やら埃やらを手で払う。グローブも付け直し男に目をやる。

「じゃ、その星竜会、だっけ?の親玉に、近いうちに潰しに行きます、とでも伝えておいてよ。」

そう言って照は帰路についた。


20130404
20130809 修正
20131226 修正