雨宮




シンシンと雪が降り続く中、病室の中でクリスマスとは僕らには関係の無い行事なんだな……と思ってしまう。昔は、少しは楽しみにしていたはずのクリスマス。今、病院から出ることの叶わない僕には、何の変哲もない日々に変貌を遂げてしまった。せめてと、食べたケーキはなんだか昔食べた物よりも味が劣っている気がした。(そんなはずはない、そんなことは起こり得る事も無いはずなのにだ)名前が僕の様子を見て寂しげに、顔の表情を変えた。名前も此処に居て、長いらしくてクリスマスを過ごしたのは本当に思い出せないくらいに遠い過去の事らしかった。僕は、名前の気持ちが酷く理解できるような気がした。



「クリスマスなんて僕らには関係ないんだね。名前」なんだか、寂しいけれども。って、本音を零してみたら名前も同調するように頷いた。やはり、名前も寂しいと思っているようだった。本来ならば家族や恋人と過ごしたり、友達なんかとワイワイ過ごす日だというのに僕らにはそれらが、許されないかのごとく隔絶されているのだ。名前は俯いていたが、やがて僕の言葉に反応を示すように切なげに笑った。「そうだね」それは紛れもない肯定だった。



僕の病室の備え付けられている、椅子に腰かけて、名前が飲み物を啜っておいた。名前は先ほどから頻りに難しそうな顔をしては、何か思案に耽っているようだった。僕には遠く及ばないことだったけれども、眉間にしわを寄せているところを見ると僕も不安に成ってしまう。名前がようやく重苦しい雰囲気を解いて、笑った。何か名案を閃いたという顔をしていて、いつになく子供らしい表情だった。「太陽、私たちもクリスマス楽しもうよ。少しくらい外に出ても怒られないでしょう」そう言って僕の手を引いた。「えっ、今かい?」「そう!今だよ!」名前は珍しくはしゃいでいるようで僕の手をグイグイと引っ張る。その手の力が強くて僕は焦って、上着を羽織った。



外へ出ると、雪は未だにシンシンと降りつづけていて、白く数センチだけ地面に降り積もっていた。僕は物珍しく思って、雪を掬って丸めてみた。「雪なんて珍しいよね」「明日には溶けちゃうかもね」名前も笑って一掴みだけ、雪を握って見せた。ポタポタ名前の熱に溶かされて、それは地面に垂れていく。不意に雪で遊ぶのをやめて、名前が僕の手に触れた。先ほどまで雪に触れていた名前の手は、雪に体温を奪われており酷く冷たくなっていた。僕がひゃっと悲鳴を漏らすとニシシと意地悪く笑って、僕の唇ではなく頬に口づけた。「メリークリスマス、太陽」来年は、外で皆とクリスマスを過ごしたいね。



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