浪川




誰かの入れ知恵だと思っている。そうでなければ蓮助は発情期突入という事に成る。どちらにしても、面白くないというか、よろしくない方向へ方向へと突き進んでいるのは間違いが無い。ただ相手もなんだか動きが鈍くぎこちないので、やはり誰かの入れ知恵なんだろう。思い当たる節と言えば、湾田とか岬君。でも岬君は一応一年生だし私に対しても敬語だから嗾けるとは少々思いにくい。つまり、暇で暇で仕方がない湾田がけしかけたとなるのが一番、しっくりくるわけだ。というより、これが正解なのだと思う。あくまで暇だから。あいつの顔面をぶっとばしても今なら怒られないと思う。これが恋人同士とかいう関係でなければ蓮助ごとぶっとばしていたこと間違いなしだ。合意もくそも無い。



「れ、ん。湾田でしょ」胸元に顔を埋めていた蓮助が緩慢な動作でいきなりどうしてそんなこというんだよ、関係あるのか?あいつが?と少し行為に酔っていたようである。「蓮助はこんなことしないから、発情期め」「湾田、湾田……ああ!もしかして、ハロウィンの詳細を教えてくれたことか?」「そうそう、私は行き成りこうなっているからよくわからないで襲われていることになるんだよね」湾田の名前を繰り返してようやく、ピンと来たようで体を跳ね起こした。どうやら、湾田から教えてもらった素晴らしいイベントについて私にも教えてくれるようだ。私からしてみればその湾田さんの素晴らしいイベントはろくでもないイベントに成り下がるわけなのだが。恐らくは蓮助の為を思って言ってくれたのだとは思うけれども、嬉々として蓮助を嗾けるのはやめてくれ。



「トリックオアトリートメント?とか言って、菓子がねー奴は襲ってもいいって言っていたんだぜ。面白そうじゃねぇか。湾田もいいこと教えてくれるよなー」やっぱり騙されている。蓮助の発情じゃなくて良かったと心底思ってしまった。引き金が湾田なら後でワンパン食らわせても多分誰も文句言わないと思うけれど、この状態で嘘と言ったら蓮助はどういう反応を示すだろうか。……恐らくは私の中の蓮助像のままならば慌てて謝ってくるだろう。一応実行犯は蓮助だけれど、蓮助は何も知らないわけだ。悪戯が性的な物なんかじゃないとしれば蓮助はショック受けて再起不能になりそうなほどに落ち込むと思う。だけど、このまま食われるのは私だって嫌だ。最初はもっと、ロマンチックな感じがいい。こんな浪漫もへったくれもないようなことで食べられてたまるものか。



少々蓮助に対しては残酷だけど、やはり事実は事実として受け止めてほしいし、私以外の女子にこれをやられても私としても怖くてたまらない。その場合は容赦なく蓮助をビンタして別れるかもしれないけれど。今回は誰にも構わず真っ先に私の所に来た様子だった。どうやら、新しく仕入れた情報を試したかったらしい。「蓮助、それ嘘だから。エイプリルフールでもないのになんで、そんな酷い嘘つくのかな湾田。本当はトリックオアトリートって言うとお菓子が貰えるんだよ。無い場合は悪戯だけどこういう意味じゃないの」色々な物を端折りながらも一番大事な部分を感情と共に凝縮させて教えると高揚していた蓮助が一気に青ざめて行った。「ええええ!嘘なのかよ?!……ああっ、ど、どうしよう!名前わ、わりぃ!!わるかった!土下座でもなんでもするから許してくれ!」



やっぱり、蓮助は激しく反省している様子だった。台詞通り土下座をする勢いで地面に手をつく物だから、私は慌てて顔をあげさせた。あまりにも哀れに思ったからだ。「もういいよ!怒っていないから!」「ほ、本当か?!よ、良かったぜ……嫌われたと思った」いつもの豪快さは息をひそめ、途方に暮れていたらしく眉を下げて不安げだった。段々それが愛しく思ってくるわけだ。成る程、私は蓮助が好きらしい。「でも、責任とってよね。ほら、続きしようよ」お互い中途半端なままじゃないか。蓮助が戸惑いながらも、また私の上に覆いかぶさってきた。



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