ごめん、当日まですっかりバレンタインのこと、忘れていて……そういって葵が申し訳なさそうについ先ほどコンビニで購入してきたであろうと思われる、駄菓子のチョコを手渡した。流石の私もこれにはショックを隠せずにいた。あんなに楽しみにしていたのに、まさか忘れていただなんて……。葵のうっかりさん(はあと)みたいに切り返せれば格好がつくのかもしれないが、私の心は深く傷を負ってしまっていた。致命的な傷、瀕死の重傷。この一大イベントを忘れる程マネージャーと言うのは忙しいのかと涙ぐめば葵が「ごめんごめん。この埋め合わせはちゃんとするから、ね?」って宥める。



葵がそうはいってもしばらく立ち直れそうにもない。あああ!今年は葵のチョコ抜きで生きていかなければならないなんて……。がっくりと肩を落とし項垂れていたら、葵が私のことを哀れに思ったのか眉を下げて溜息を吐いた。
「名前ちゃんにそんなに落ち込まれると……ネタばらししなきゃじゃない」
はぁ、本当は帰りに渡して驚かせようと思っていたのに!という悔しそうな声と共に、鞄から少し大きめの箱を傾けないように慎重に取り出して私に差し出した。キョトンと葵の様子を見つめていたら葵が可憐な笑顔を浮かべた。



「私が名前ちゃん関連のことを忘れるわけがないじゃない。ケーキ作ってきたんだよ」
「え、じゃあ……さっきのチョコは?」
まだ、話の筋を理解できていない私が、疑問を口にして先ほど貰ったチョコと箱を見比べれば葵が苦笑した。
「もう、やだ!さっきのチョコ、本気にしていたの?あれはフェイクだよ。あんなに落ち込まれると思ってなくって」
やられた、葵の手の込んだサプライズだったらしい。やはり、葵はいつも私より一枚上手なように思える。私がようやくすべてを理解し、礼を述べた。
「仮に忘れていたとしても……流石に駄菓子は渡さないよ」
クスクス手で口元を抑えながら、私の手のひらに握られていた駄菓子を取り上げて包装紙を破いて口に運んだ。
「……確かに、このチョイスはないね」
よくよく冷静になって考えれば、いくらなんでもこれはないと気が付くことができるのだが、何分先ほどはショックが大きすぎてそこまで考えが至らなかった。



自室の壁に私の体を押し付けて、その薄桃色の弾力のある唇を押し付けた。触れる程度の幼いキスだが、私は驚いた。
「驚かせて、ごめんね」
それは今したキスなのか、サプライズなのか、どちらかわからない。



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