八神 玲名ちゃんがチョコレートを口に運んでいた。チョコレートを大量に貰ったらしい。紙袋には、ピンク色のリボンやらでラッピングされたチョコの箱が沢山、顔を覗かせていた。 「ど、どうしたの……こんなに……」 「……貰った」 さらりと涼しい顔でそういった。甘いものをそんなに食べて大丈夫なのだろうか、と要らぬ心配をしてしまった。あまり大量摂取はよくない。何でもそうだけど。というか、玲名ちゃんが甘いものを好んで食べている姿をあまり想像できなかったため意外だった。きっと、マキちゃんや愛ちゃんたちに貰ったのだろう。それにしても凄い量だ。その辺の男子では、まず貰えないような程の量だ。男子たちの羨ましそうな目はきっと気のせいではない。私はそのチョコの山を見て、少しだけ悔しく感じた。その中の一つになるのか、と気が重い。 「……友チョコ？」 「……そうだろうな」 玲名ちゃんはそういって、またひとつチョコレートの箱を取り出した。こんなに貰っているのなら、私のチョコはいらないかな……と少しがっかりした。 「で、何か用事？」 「んー、チョコレートケーキ作ってきたんだけど……玲名ちゃん……沢山もらっているみたいだから」 そういって、私の持ってきたチョコレートケーキの箱を玲名ちゃんの机の片隅におずおずと置いた。すると、それをみて玲名ちゃんは新しく取り出したチョコレートの箱をまた紙袋の中へと戻した。 「それ、本当か……？」 玲名ちゃんが、顔をあげて私の置いた箱に目が釘付けになっていた。そして、それを丁寧に持ち上げた。そんなに、大層な物をあげたつもりはなかったのだがその仕草に私はとても嬉しくなった。 「……名前、有難う。大切に食べるから。その、名前からのが……一番」 最後の方の言葉は小さくてあまり聞こえなかったが、普段見せない優しい笑顔に私の、脈が速くなった気がした。なんだか、とても貴重なものを見た気分だ。 「うん。食べたら感想お願いね」 市販のものなんかより、ずっと味は劣るだろうし、見た目もきっと歪だろう。だけど、市販にはない玲名ちゃんへの、私の思いを沢山詰めたからね。 前 戻る 次 |